世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 西ジャワ州の日本語教育現場から

インドネシア教育大学
衣笠 秀子

 インドネシアで日本語を教えている日本人教師には「リピーター」がとても多いことをご存知ですか。一度インドネシアで仕事をすると、また戻ってきたくなるような魅力がこの国にはあるようです。その要因はインドネシア人の明るさ、人のよさ、多少の時間の遅れは意に介さない?おおらかさ、ユーモア、その底に流れるまじめさ、へこたれない強さ、そしてやるべき課題を時間ぎりぎりだけど、最後には帳尻を合わせてやり遂げる底力でしょうか。こんな学生や同僚に囲まれて、働くのは愉快で楽しいものです。何を隠そう、この私もインドネシアに魅了され、舞い戻ってきたリピーターの一人です。

UPIキャンパスにあるオランダ時代の建物の写真
UPIキャンパスにあるオランダ時代の建物

 はじめに、バンドンの日本語教育の歴史を簡単にお話ししましょう。私の赴任先、インドネシア教育大学(以下UPI)では半世紀前に日本語教育が始まりました。国際交流基金からの日本語専門家(以下専門家)派遣はすでに30余年続いています。2008年まで専門家の担当は日本語学科学士課程でしたが、2009年から派遣先が大学院修士課程へと切り替わりました。このUPI大学院はインドネシアで唯一「日本語教育」で修士号を取得できる機関で、今年度は現職の大学教員や高校教諭をはじめ、教員志望者の数十名が学んでいます。では、私がどんな業務に携わっているかを紹介します。

派遣先機関での業務

 専門家の役割は日本語教授法や日本語教育概論、教育教材論、論文講読などの専門科目をインドネシア人教員とティーム・ティーチングで行い、シラバスを強化、整備していくことです。わたしは担当授業を日本語で行いますが、クラス内のディスカッションはほとんどインドネシア語です。そのため、学生の発言を必死になって聞きとり、コメントを日本語でするという‘スリリング’な授業をやっています。知的好奇心にあふれた学生が多く、言語学や教授法についてもっと知識を得たいと前向きに、意欲的に勉強しています。

 大学院の授業は課題について自分たちで調べ、クラスで発表するという活動が中心です。わたしはそのゼミ発表準備のコンサルティングも担当していて、週に数人から相談を受けます。時間をかけて、発表に必要な知識、日本語を補充していきます。彼らが日本語教師として自信を持って教壇に立てるよう、日本語教授に必要な資質を高める、その過程に関わることができ、非常にやりがいを覚えます。

活発な質疑応答が交わされるゼミ発表の写真
活発な質疑応答が交わされるゼミ発表

 大学院の授業の他に、日本語学科の教員を対象としたコンサルティングや学科の自主教材の改訂プロジェクトなど、UPI学士課程への教育支援にも関わっています。

 その教材改訂のなかで、今年は先生たちが文型・会話練習を効果的に行うためにイラスト教材をパワーポイント(PP)で作成しました。実際に授業で使ってみて、その効果を認識し、もっといい教材にしようと試行錯誤を続けています。このように、協働作業の過程で先生たちの意識が変わり、能動的に作業に取り組むようになる姿を目にすると、本当にうれしくなります。

-インドネシア日本語教育学会活動支援-

 専門家の業務は派遣機関UPIにおいてだけでなく、西ジャワ州全体の日本語教育支援も含みます。これはインドネシア日本語教育学会(以下学会)西ジャワ支部が会員の力で自立的に運営されるようになることが目標で、勉強会の実施、機関誌発行、支部セミナー開催に協力しています。

 このうち、学会勉強会では日本語教授法勉強会、論文研究会が開かれています。専門家が中心となって発表を行う時期を経て、現在では会員の手によって自立的な運営ができる態勢が整ってきました。教授法勉強会は現地教員が授業に役立つ教授法の実践報告を行いますが、最近は大学院生の参加が増え、20数名が集まります。発表後の質疑応答が30分を超えるほど、活発な話し合いが行われます。

 勉強会実施に際しては、企画・発表テーマは支部長らと意見を交わし、発表者とは内容や進め方について話し合っています。インドネシア人学会員が中心となり、専門家は後方支援に回ることが、自立化の進んだ西ジャワ州に派遣された専門家に望まれている役割となっています。

 今年5月には上で述べたPP教材作成の成果をUPI教員がこの勉強会で発表し、日本語学科から外部へと発信が行われました。また、論文研究会で発表された研究論文が学会支部ジャーナルに掲載されるという連係もありました。このような学会支部活動間のつながり、一日本語教育機関から西ジャワ州全体への広がりを大切にしながら、西ジャワ州全体に日本語教授法の紹介や日本語教育に関する論文提供を行い、地道に情報発信を続けていきたいと思っています。


派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Graduate School, The Indonesia University of Education
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
 日本語教育専攻修士課程は2001年に開設された。インドネシアの大学院の中で唯一、日本語教育で修士号を取得できる機関である。学士課程が高校の日本語教師養成を目標に掲げており、西ジャワ州の高校の日本語教師の大半が当講座の出身者であるように、修士課程も主要国立大学、多数の私立大学などインドネシア国内の高等教育機関にも多くの人材を輩出しており、インドネシアにおける日本語教育の中心的・指導的存在の一つであるといえる。
  専門家は修士課程での授業のほか、インドネシア日本語教育学会西ジャワ支部活動の支援、教師対象勉強会、また中等教育支援として西ジャワ州高校教師会の小研修、定例会への出講を行う。
所在地 Jl.Dr.Setiabudhi No.229 Bandung 40154 Jawa Barat Indonesia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
指導助手:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
修士課程日本語教育専攻
Program Magister、Pendidikan Bahasa Jepang
日本語講座の概要
沿革
講座(業務)開始年   2000年
国際交流基金からの派遣開始年 2009年
コース種別
日本語教育専攻(修士課程)
現地教授スタッフ
5名
学生の履修状況
履修者の内訳  
学生総数  修士課程: 約56名
学習の主な動機 大学の日本語教員となるため
卒業後の主な進路 大学教員、高校教諭
卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力検定2級を受験可能な程度
日本への留学人数 2名程度

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