世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)ジャカルタ日本文化センターの日本語教育支援

国際交流基金ジャカルタ日本文化センター
八田直美・二瓶知子・鈴木にし紀・松島幸男・齊藤智子・相場康子

国際交流基金ジャカルタ日本文化センター(以下、センター)では、日本語上級専門家4名、日本語専門家2名、そしてインドネシア人講師2名が日本語教育支援を担当しています。私達の業務は、主に中等教育(高校)と高等教育(大学)の教師支援、JF講座、EPA*に基づくインドネシア人看護師・介護福祉士候補者予備教育事業の3つに分かれています。

*日本とインドネシアの経済連携協定

教師支援 <八田・二瓶>

高校で2013年カリキュラム、始まりました

地方の高校教師会でのワークショップの写真
地方の高校教師会でのワークショップ

2012年に行われた国際交流基金の調査で、学習者数世界第2位となったインドネシアですが、その約96%は中等教育(高校)の学習者です。高校で教える先生たちの間で今一番の話題と言えば、「2013年カリキュラム」。10年ごとに行われるカリキュラム改定によって2013年6月に発表されたので、こう呼ばれています。今回の改定の特徴は以下の2点。

(1)教育の質の向上を国際的な視点から見る

カリキュラムでは、生徒の能力を態度、知識、技能の面から伸ばすように考えられていますが、その中にOECDや各国の学校教育でも取りあげられている「21世紀スキル」が盛り込まれています。自律的・協働的な学習態度の育成、ICTや様々なリソースの活用、学習を教室外の社会と結びつけて考え、行動することなどを目指しています。

(2)学習(教育)の過程に「科学的アプローチ」を取り入れる

学習者中心の授業設計のポイントとして、観察(Mengamati)、質問(Menanya)、実験などを通した情報収集(Mengumpulkan informasiMencoba)、既有知識との関連付け(Mengasosiasikan/mengolah informasi)、情報の共有・発信(Mengkomunikasikan)の5つを掲げています。これらはインドネシア語の動詞がいずれもMで始まることから5M(5(リマ)エム)と呼ばれています。

私たちは、各地の教師会に出かけてワークショップを行い、先生たちといっしょに日本語教育で新カリキュラムをどう実践するかという大きな課題に取り組んでいます。

大学のセミナーも活発です

インドネシアでは大学支援のためにセンターと、バンドンとスラバヤの大学の合計3か所に専門家が派遣されています。センターは、インドネシア日本語教育学会を通して、バンドンとスラバヤ以外の地域(ジャボデタベック*地域、スラウェシ、スマトラ、バリなど)の大学を支援しています。

2013年後半から2014年前半の活動を紹介すると、次のようなセミナーや勉強会に講師として出かけました。

「読解の教え方」(学会西スマトラ支部)、「文化を取り入れた初級会話の教え方」(同、北スラウェシ支部)、「初級から中級にかけての聴解指導」(同、北スマトラ支部)、「初級の語彙の教え方」(同、バリ支部)、「初級の作文教育―評価を中心に―」と「実践研究」(同、ジャボデタベック支部)

セミナーは、大学教師の研究発表の場にもなっています。研究に関心を持つ先生も少しずつ増え、日ごろの問題意識、実践や研究の成果が聞ける機会として、私たちも楽しみにしています。

*ジャボデタベック(ジャカルタ首都圏地域)

JF講座 二瓶・鈴木

JF講座 2013年度Kidsコースの写真
JF講座 2013年度Kidsコース

最近、自動車以外の製造業やサービス業の進出が拡大傾向にあるここインドネシア。日本貿易振興機構(JETRO)によると、ジャカルタ特別州(含近郊)だけでも、450を超える日本企業が進出しているそうです。最近では、牛丼やラーメン、うどん、カレーなどの日本の外食チェーン店も続々と進出してきました。さらに、もともと世界有数の親日国家であることもあって、今インドネシアでは、日本や日本語に興味を持つ人が増えています。現在、国際交流基金ジャカルタ日本文化センターでは、社会人を対象に、JF日本語教育スタンダードに準拠したレベル別の日本語講座(JF講座)を開講していますが、上記のような背景から、様々な属性やニーズ、いろいろな興味関心を持った学習者がいます。その声に応えるため、JF講座もとても幅広い講座展開をしています。現在開講しているコースは、初級(A1~A2*)、中級(B1.1)、上級(B1.2)、技能別(B2)コースで、それぞれ約20人~30人の一般社会人が、仕事が終わった後、日本語を学びに来ています。「初級」では、国際交流基金が作成した『まるごと 日本のことばと文化』を使って、家族や食べ物、旅行に関する簡単な日常会話から、出張者の対応時の日本語等まで、また「技能別」では、日本企業で働くインドネシア人のために、ビジネス会話やビジネス文書等のクラスを開講しています。昨年度からはそれらの講座に加えて、9歳~12歳の子どもを対象としたKidsコースや、日本語を日本文化とあわせて紹介する文化日本語講座も開講しました。このように、ふつうの日本人と交流するための日本語や、日本文化と合わせて考える日本語、仕事で使うための実用的な日本語までを幅広く扱っているのが、ジャカルタのJF講座の特徴の1つです。

今後ますます日本語の需要が増える見込みです。ジャカルタ日本文化センターでも、さらなる講座の拡充を視野に、活動を進めていきます。このJF講座を通して、日本や日本語に興味はあるけれど、今までなかなか習う機会がなかったという方や、さらに日本語の能力を伸ばしたいという方の手助けができたらと思っています。

* JF日本語教育スタンダードでは、日本語の熟達度を6つのレベルに分けています。(基礎段階の言語使用者:A1~A2、自立した言語使用者:B1~B2、熟達した言語使用者:C1~C2)詳しくは、http://jfstandard.jp/をご覧ください。

経済連携協定(EPA)に基づくインドネシア人看護師・介護福祉士候補者日本語予備教育事業 <松島、齊藤・相場>

「介護事情」車いすへの移乗の写真
「介護事情」車いすへの移乗

2008年に始まった日本とインドネシアの経済連携協定(EPA)に基づくインドネシア人看護師、介護福祉士候補者の受け入れは今年度で第7回目を迎えました。現在は、予備教育と協定上の日本語研修を合わせて合計12か月(当初の2倍)の日本語研修を受けてから、候補者たちは病院・施設での就労を開始しています。 ジャカルタ南にある語学教員研修所で、11月28 日、7期の研修がスタートしました。200名近くの候補者の約7割は日本語を習ったことがなく、文字もゼロからのスタートでした。約3割は数か月から一年間の学習歴があり、初級の復習をしてから中級へと進みました。日本語の授業と並行して毎日午前、午後30分ずつ「自律学習支援の時間」という時間に、候補者が自ら必要だと思う学習を支援する時間があります。質問をしたり、漢字の復習をしたり、宿題の直しをチェックしてもらったりします。これは候補者が国家試験に向けて能動的に学習する習慣を獲得するための時間で、毎日続けるうちに、今自分に必要な学習を意識できるようになります。 土曜日には「社会文化理解」という講義があり、その中の「看護介護事情」では看護の専門家が実践を交えて講義しました。「日本事情」では講師全員がそれぞれ分担し、パワーポイントを使い、わかりやすく日本の生活、文化、マナーについて説明しました。「日本語運用異文化適応」では、グループに分かれ、漢字や日本についてのクイズに答え、首位を争うコンテストをしたり、詩の朗読をしたり、インドネシアと日本の文化について調べ発表する活動をしたりしました。候補者は講師の指導を受けながら、協力し合い、日本への理解を深めていきました。

このジャカルタでの半年間に、日本語が初めてだった候補者も、初級の教科書を2冊学習し、身の回りのことについて尋ねたり説明したりできるようになりました。候補者の努力もさることながら、達成の裏には日本人、インドネシア人講師の献身的な貢献がありました。 半年間の研修が終わると、候補者は日本へ行き、日本で更に6か月の日本語研修を受けますが、この研修の後半からは日本語学習と並行して看護や介護の専門知識についての講義も始まります。その後配属先では、就労しながら学習することになります。このように、EPAの候補者の日本語学習支援は現地研修、渡日後研修、介護施設や病院と、それぞれが連携していくことが望まれます。

そのため、私たち専門家は、コースデザイン・カリキュラム・教授法の改善や情報収集に努め、上記の各機関の連携が機能的に働く研修にしていきたいと考えています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Jakarta
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ジャカルタ日本文化センターは、インドネシア各地の日本語上級専門家・日本語専門家、インドネシアの各機関と連携をとりながら、インドネシアの日本語教育支援を行っている。中等教育では、国家教育文化省と協力してカリキュラム・シラバス開発、教材開発、教師研修を行っている。高等教育機関、民間の日本語教育に対しては、セミナー等を実施するほか、コンサルティングなども行っている。一般成人対象にJFスタンダード準拠日本語講座も開設している。2011年3月より、EPAに基づくインドネシア人看護師介護福祉士候補者日本語予備教育事業も実施している。また、ニューズレター『EGAO』(季刊)を発行している。
所在地 Lantai 2-3, Summitmas I, Jl.Jend.Sudirman Kav. 61-62, Jakarta 12190, Indonesia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:4名、専門家:2名
国際交流基金からの派遣開始年 1980年

ページトップへ戻る