世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)インドネシア・バンドンに派遣されて

インドネシア教育大学大学院
三上 京子

インドネシア・バンドンという町

皆さんは、インドネシアというと何を思い浮かべますか?1万数千もの島がある多民族国家、日本人に人気のあるバリ島や首都ジャカルタ、あるいは10年前に起きたスマトラ沖大地震のことを思い出される人もいるでしょうか。

今回、私が派遣されているのは、インドネシア・ジャワ島にある首都ジャカルタから東南方向に約160キロほど離れたバンドンという町です。バンドンは、「第1回アジア・アフリカ会議」が開かれた町として知っているという人もいるでしょう。でも、日本語を教えたことのある人なら、バンドンという地名をどこかで見たことがあるはずです。実は、『みんなの日本語 初級1』という教科書の第16課にバンドンが登場しています。そこには、「バンドン?どんな所ですか」「緑が多くてきれいな所です」という会話文が出てきます。そう、バンドンは、標高700メートルの高原にあって緑が多く、涼しくてとてもいい所です。

インドネシア教育大学大学院での授業

さて、そのバンドンで、国際交流基金日本語上級専門家(以下、上級専門家)としてどんな仕事をしているか紹介しましょう。私が派遣されているのは、インドネシアで唯一、日本語教育専攻の修士課程があるインドネシア教育大学大学院です。大学院では、日本語教育の専門性を高め、修士号を取得するために、インドネシア全土から優秀な学生たちが集まってきています。学部を卒業してすぐ入学する人もいますが、すでに高校や民間の語学学校で教えている現職の教師も多く学んでいます。学生たちはみな非常にモチベーションが高く、仕事を持っている人も、時間をやりくりして熱心に勉強や研究に取り組んでいます。

授業の様子
写真(1) 修士1年生の授業
―コースデザインについて発表―

写真(1)は、1年生が履修している「コースデザイン」の授業風景です。この授業では、①学生たち自身が日本語を学んだときに経験した日本語のコース、②自分が今、実際に教えている、または教えたことのあるコース、③将来こんなコースを作って教えたいという理想のコース、のいずれかについてパワーポイントを使って一人ずつ発表しています。出身大学や高校での日本語コースはもちろんのこと、日本に農業技術や水産加工の研修生として送られる人のためのコース、看護士・介護士候補生のためのコース、ジャカルタの大きな語学センターにあるコース等、実に多種多様な日本語コースが紹介されます。学生たちは、そのコースで使っている教材や教授法について詳しく教えてほしい、そこで教えたら給料はいくらですか等、みな興味津々で、発表の後は盛んに質問をしたり情報を交換したりしています。また、私自身もインドネシア国内の様々な日本語教育現場の様子を知ることができ、とても勉強になっています。

「コースデザイン」のほかには、「日本語教授法」や「日本語教育実習」の授業も担当しています。実習では、いわゆる直接法として、日本語だけで教えることを経験してもらっています。媒介語としてのインドネシア語を使わない授業は初めてという学生も多いので、戸惑いもあるようですが、和気あいあい楽しく実習をしています。

地域の高校教師会での活動

大学院の授業のほかに、上級専門家としてもう一つ大切なミッションがあります。それは、西ジャワ州という地域の日本語教育の発展のために、いろいろなサポートをする仕事です。インドネシアは、世界の中で高校生の学習者が一番多い国となりましたが、母語話者である日本人教師がいる学校はほとんどありませんし、400人もの生徒を一人で教えるという大変な環境にある先生もいます。また、新しい教材や教授法などに、簡単にアクセスできるわけでもありませんが、先生たちは日々の授業に様々な工夫を取り入れ、熱心に指導にあたっています。

講演の様子
写真(2) 西ジャワ地区高校教師会で講演

そんな先生たちが、年に数回集まって新しいカリキュラムや教授法について学んだり、お互いの情報を交換したりする場が教師会です。写真(2)は、3月に行われた「西ジャワ地区高校教師会」で私が講演している様子です。この日は、先生たちからの要望に応えて、「日本語の助詞」について話しました。日本語の助詞の使い分けは外国人に難しいものの一つですが、中でも「に」と「で」は、インドネシア語では同じ「di」という助詞で表されるので、間違えることがとても多いようです。講演では、先生たちにはじめに簡単な助詞のクイズをしてもらい、その答え合わせをしながら「に」や「で」、「を」「と」等の助詞について説明をしました。先生たちはふだん教えることに忙しく、なかなか勉強する機会がない、もっと日本語力を高めたいといつも言っているので、これからも教師会や勉強会を通して、先生たちをサポートしていけたらと思っています。

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