世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)インドネシア教育大学大学院と西ジャワ地域での業務

インドネシア教育大学大学院
三上京子

バンドンという町

私が派遣されているバンドンは、インドネシア・ジャワ島の西部にある町です。同じジャワ島にある首都ジャカルタから電車か車で約3時間、標高700メートルの高原にあります。そのためバンドンは、熱帯の国インドネシアにいるとは思えないほど、涼しくて過ごしやすい所です。2015年は、バンドンにとって記念すべき年でした。それは、1955年に開かれた「第1回アジア・アフリカ会議」から今年がちょうど60周年の年となり、ASEAN各国から首脳をお迎えして、大きなイベントが開かれたからです。当日は、学校や会社もすべて休みになり、空港まで閉鎖されましたが、このイベントのおかげで、アジア・アフリカ会議博物館や周辺の道路も整備されて、とてもきれいになりました。

大学院での業務

バンドンは、日本語教育がとても盛んな町です。市内には、日本語を学べる大学が9つありますが、私はその中の1つ、インドネシア教育大学大学院で教えています。ここは、インドネシアで唯一、日本語教育学の修士号がとれる大学院ということで、将来大学で日本語を教えたいという希望を持った学生たちが入学してきます。すでに民間の語学学校や研修機関で教えている人、また日本語科目がある高校の教諭もいます。

大学院では、インドネシア人教員とティームを組んで、授業を担当しています。授業科目は、「日本語教授法」「日本語教育概論」「コースデザイン」「日本語教育教材」など、日本語教育の専門科目です。内容がかなり専門的なため、インドネシア人教員はインドネシア語で授業をしていますが、私は母語話者として日本語だけで授業をしています。学生たちは、パワーポイントや専門書に出てくる日本語の専門用語に四苦八苦していますが、みなモチベーションがとても高く、熱心に授業を受けています。

インドネシア教育大学は、学部に日本語科ができてから今年で50年、日本語教育では非常に長い歴史と伝統があります。そのため、日本や海外の大学との交流協定も多くあり、毎年日本国内外から講師の方をお呼びして講演会を開いたり、また研究や交流のために学生や教員の相互訪問が実現したりしています。外部講師をお迎えする時は、講演会のスケジュールや内容の打ち合わせ、空港や駅への送迎、当日の準備、また講演会前後に市内をご案内するなど、色々お手伝いさせていただくのも日本語専門家(以下、専門家)の業務の一つです。

外部講師の写真
外部講師をお迎えして

上の写真は、今年4月に、中国の大学と塾(語学学校)で日本語を教えている先生をお迎えしたときのものです。学部の3年生が60人、教員たちも参加して、教室に座るところがなくなるほど大盛況の講演会になりました。講師の先生は、以前漫才師をされていたとのこと、学生たちも教員も大笑いする場面が何度もあり、また役立つ情報もいっぱいで、90分がまさにあっという間でした。ほかにも、早稲田大学大学院、筑波大学、首都大学東京などからも講師の先生をお迎えし、大変貴重なお話を聞く機会が与えられています。

西ジャワ地域での業務

大学院での業務のほかには、西ジャワ地域の専門家としての仕事があります。その中の一つが機関訪問です。西ジャワ州では、大学だけでなく民間の語学学校、また高校でもたくさんの学習者が日本語を学んでいますが、それらの大学や語学学校、高校を訪問して授業見学をしたり、先生たちの色々な相談にのったりすることも専門家の大切な役割です。

下の写真は、そのうちの一つ、チレボンにあるインバダ外国語大学を訪問したときのものです。チレボンは、バンドンから列車で4時間ほど東に行った海沿いにある町で、バティックが大変有名です。この日は、大学だけでなくチレボンや周辺の高校で教えている先生たちも集まりました。そして、この訪問をきっかけとして、チレボン周辺の高校教師のために研修会を開くことになりました。研修会では、高校の生徒たちが教室で楽しみながら学べるよう、様々なアクティビティやゲームを紹介したり、国際交流基金で新しく開発している高校生用の試作教科書のデモンストレーションをしたりしました。

チレボンの大学を訪問の写真
チレボンの大学を訪問

このように、派遣された一つの大学での活動だけでなく、地域全体の日本語教育を支援するために活動することも専門家に求められています。西ジャワ州という広大な地域で、一人の専門家ができることは本当に限られていますが、これからも、地域全体の日本語教育の発展のために、また、機関訪問等を通して関係者のネットワーク形成が進められるよう、できる限りの支援をしていきたいと思っています。

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