世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)高校の新しい日本語教科書を作ろう!

国際交流基金ジャカルタ日本文化センター (中部ジャワ州地域中等教育機関)
五十嵐裕佳

皆さん、突然ですがインドネシアではどのぐらいの人が日本語を学んでいるかご存じですか?国際交流基金の『2012年度日本語教育機関調査』によると、インドネシアは中国に次いで世界第2位の日本語学習者を抱えています。その数はなんと87.2万人!!そして、その学習者の95%を占める中等教育機関(中学・高校)に限ると、学習者数は83.5万人で中国を抜いて世界第1位となります。

そして、中等教育機関で学生に日本語を教えているのも、もちろんインドネシア人の先生たちです。国際交流基金ジャカルタ日本文化センター(以下、ジャカルタ日本文化センター)、そして、地方派遣の日本語専門家(以下、専門家)は担当地域において、そのような先生たちへの支援を行っています。教師向けの研修や勉強会の実施やサポート、実際の授業の見学と教授法指導、校長先生への日本語プロモーションと、支援は多岐に渡りますがその中でもジャカルタ日本文化センターが現在力を入れて取り組んでいることが、高校で使用する日本語の教科書の開発です。

インドネシアでは2013年に新しい初等教育と中等教育の学習カリキュラムが発表され、徐々に旧カリキュラムからの移行が進んでいます。しかし、その新カリキュラムに準じた日本語科目の教科書や教材は、十分整備されているとは言い難い状況です。そこで、2014年の秋よりジャカルタ日本文化センターで教科書の開発を始めることになりました。

教科書開発のために、地方派遣の2名を含む、インドネシアの中等教育支援を行う日本語上級専門家1名、専門家3名、現地講師の計5名が2014年11月より月に1度ジャカルタ日本文化センターに集合しています。そこで数日間に渡る会議を行い、長時間の議論の中で教科書の内容の検討を重ねてきました。月に1回しかない会議での議論を効率的に進めるために、会議前にはメールなどを使用してお互いが作成した原稿に対する相互フィードバックも行っています。

そうして、2015年3月に10年生(日本の高校の1年生)の後期分の試用版の新教科書がやっと完成しました。この新教科書では多忙な高校教師の授業準備の負担を少しでも減らせるように、多くの音声ファイルを埋め込んだ指導用のスライドも課ごとに作成しました。今回は試用版ということで、音声ファイルも私たち専門家の声で作成しています。

ワークショップで授業準備をする先生たちの様子
ワークショップで授業準備をする先生たち

試用版完成後、早速インドネシア各地の高校の先生10名に協力してもらい、実際の教室で試用版教科書と指導用スライドを使っての授業を行ってもらっています。試用授業の開始前には、その10名の先生に新教科書のコンセプトや指導方法などを理解してもらうために、ジャカルタ日本文化センターで2日間のワークショップが行われました。ワークショップでは先生たちに生徒の立場で新教科書を使用しての授業を受けてもらった後に、グループごとに模擬授業を行ってもらいました。新教科書は現職の先生たちにも好意的に受け入れてもらえたようで、授業の準備に取り組む先生たちのいきいきとした表情がとても印象的でした。

実際の高校における新教科書を使用した試用授業の様子
実際の高校における新教科書を使用した試用授業

その後、インドネシア各地での試用が開始されましたが、私の担当地域である中部ジャワ州でも2名の先生が協力してくれています。週に1度その学校を訪問して、授業見学後に教授方法や教科書の内容、そして学生の反応について一緒に振り返りを行っています。授業中の様子やアンケートを見る限り、学生は授業内で「わかった」「できるようになった」ことが多くなり達成感を感じているようです。実際の授業を見学して学生の反応を確かめることは、作成者である私たち専門家にとっても本当に貴重な体験です。その体験に加え先生や学生からのフィードバックを元に、教科書をより良いものへ変えていけたらと思っています。

また、試用に協力してくれている先生は2名とも中部ジャワ州・ジョグジャカルタ特別州高校教師会(以下、合同教師会)の中心人物で、研修や勉強会において他の先生を指導する立場にあります。当該地域でもカリキュラムが新しいものに徐々に移行しているため、日本語の指導方法について悩んでいる先生が多数います。そこで、この2名を中心に合同教師会では新教科書を元にした具体的な日本語の指導方法について、教師会主催で研修や勉強会を行うことを計画しています。わたしも専門家として研修の準備の段階から支援していくつもりです。

新教科書は2015年夏に10年生の1年分を完成させ、その後再び試用を行って内容を改良した後に2016年度中の出版を予定しています。また、2015年の秋からは11年生(日本の高校の2年生)分、12年生(日本の高校の3年生)分の作成に順次入る予定です。学校訪問を通じて多くの日本語教師が新教科書の出版を心待ちにしていることを実感している今、より良いものを予定通りに提供できるように真摯に教科書開発に取り組んでいきたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Jakarta
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
  1. (1)配属校業務:
    1. 1)授業見学と日本語教育に関する指導
    2. 2)教師会会長等、地域の核となる人材の育成
  2. (2)学校訪問:
    1. 1)授業見学と日本語教育に関する指導
    2. 2)校長先生に対する国際交流基金実施事業や日本語授業のプロモーション活動
  3. (3)地域教師会支援:
    地域教師会が実施する勉強会や研修等の活動への支援
  4. (4)ジャカルタ日本文化センター開催研修と教材作成プロジェクトへの協力
  5. (5)基金及び日本文化センターが実施する日本語事業への協力

※(1)−(3)は担当地域である中部ジャワ州・ジョグジャカルタ特別州内の中等教育機関を対象とした業務内容である。

所在地 The Japan Foundation, Jakarta, Summitmas Ⅰ, 2-3 Floor, Jl. Jend. Sudirman Kav.61-62, 12190 Jakarta, INDONESIA
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2001年

ページトップへ戻る