世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)インドネシアでの教育実習

スラバヤ国立大学
髙﨑三千代

10年生(高校1年生)の教室での画像
10年生(高校1年生)の教室で

みなさんが中学生や高校生のとき、教育実習の大学生、つまり先生のタマゴが来ませんでしたか。インドネシアでも教育実習があります。今回はスラバヤ国立大学(以下、UNESA:ウネサ)での教育実習についてご紹介します。

UNESAの日本語学科の学生は、「模擬授業」という科目で同級生を生徒に見立ててシミュレーションをやってから2か月間、高校での教育実習に臨みます。私が初めて国立スラバヤ第3高校(以下、第3高校)に行ったのは実習4日目。3人の実習生はブレザージャケットにくるぶしまでの黒いスカート。ハイヒールからは気合いを感じました。

実習生は前日に教案を提出することになっているそうです。最初からいきなり45分の授業です。リリーさん(仮名)のは、いろいろな国の名前を教える授業です。手書きの国旗を黒板に貼っているので、リリーさんの言う単語が国名だというのはすぐに分かります。リリーさんは自分が口に出して言った後、生徒にも言わせようとします。しかし、生徒はうまく言えません。

「あー、もっとゆっくり話さないと分かりません。生徒は日本語を初めて聞きますから」と指導のアルリナ先生は、独り言のようにつぶやきます。

二人目のアイヌンさん(仮名)の実習は午後だというのに、教室は扇風機が故障していました。窓を開け放つと、なぜか授業中でも廊下の人通りが多くてうるさい。アイヌンさんの声は小さくて後ろまで届きません。観察していた同級生がジェスチャーで「聞こえないよ」と知らせますが、アイヌンさんは、それに気付くまでにしばらくかかりました。45分が2つ続く授業が終わる頃、アイヌンさんの声はかすれてしまいました。こうして実習生の最初の授業は終わりました。

第3高校には6回見学に行きました。あと1週間で実習が終わるという頃、アルリナ先生が「今日、リリーさんがとてもじょうずに教えました」のメッセージとともに、5分ほどの動画を送ってきました。よほど嬉しかったのでしょう。

アルリナ先生は「ゆっくり、ゆっくり」、「ステップ・バイ・ステップ」とよくおっしゃいました。確かに実習生にぴったりのアドバイスだと思ったので、そう伝えると、かれこれ20年前ごろ、国際交流基金(以下、基金)の専門家が定期的に訪れて、アルリナ先生にアドバイスをしていたそうです。

もう一つのUNESA、よさこい踊りの画像
もう一つのUNESA、よさこい踊り

言語教育の方法も、弛まず研究・開発されているでしょう。時代の先端の技術や理念を、現地の先生に紹介して応用していただくのは、専門家の仕事といえるかもしれません。また一方で、時代が変わっても消えることのない技術や知恵もあるのでしょう。先輩専門家の仕事が、現地の先生に生きているのは嬉しいことです。いつか、自分もそんなことができればいいと、新米の専門家のように考えるのです。

UNESAでは教員志望の学生が減りつつあるようです。しかし、みんな、この教育実習でかけがえのない思い出を作って大学に戻ってきます。思い出だけでなく、実社会で生かせることも多いだろうと思います。

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