世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)多島海へ多層展開するジャカルタ発の日本語教育支援

国際交流基金 ジャカルタ日本文化センター
平岩桂子、長田佳奈子、大脇元、宮入英子、五十嵐裕佳、吉川景子、古閑紘子、片桐準二

ジャカルタ日本文化センター(以下、JFJA)では、主に日本語教師支援、JF講座、経済連携協定(以下、EPA)に基づくインドネシア人看護師・介護福祉士候補者予備教育、日本語パートナーズ活動支援などの事業を行っています。

インドネシア人講師との協働(EPA担当:平岩、長田、大脇、宮入)

EPAに基づく看護師・介護福祉士候補者に対する日本語予備教育第11期が終了し、6月に看護師候補者31名と介護福祉士候補者296名の計327名が日本に旅立ちました。

11期は日本人講師32名、インドネシア人講師19名が在籍。日本人講師4名とインドネシア人講師2~3名でひとつのチームを構成し、チームティーチングで授業を実施しました。毎年日本人講師の多くが入れ替わりますが、インドネシア人講師は何年も継続して教えてくださっている先生がほとんどで、この研修で目指している教え方や自律学習の在り方についての理解も深く、研修を進める上で欠かせない存在となっています。

授業している写真
授業の様子(EPA

インドネシア人講師は、日本語学習を進める上で候補者が躓きやすい部分や母語による影響等、インドネシア人だからこそ気づくことについて候補者を指導し、また自身の日本語学習の経験等から候補者に対して適切なアドバイスができることから、日本人講師からも頼りにされています。

多くのインドネシア人講師は大学等でも教えていますが、「この予備教育では日本人とチームを組んで教えることで、教え方等についての意見交換ができることが楽しい」という声が聞かれます。また、この研修での授業方法や自律学習の取り組みを、他の日本語教育の現場で試みている先生もいます。そうした意味ではこの研修はインドネシアにおける日本語教育全体とつながっていると言えます。

インドネシア・日本、両国政府間の協定に基づいて実施している予備教育が、両国講師の協働の場となっているとともに、インドネシア人講師のためにも貢献できる機会となっています。

『にほんご☆キラキラ』を使ってみよう! (中等教育担当:五十嵐、吉川)

『にほんご☆キラキラ』とは、JFJAが作成した国家カリキュラム準拠の高校日本語教科書で、2017年7月に10年生~12年生(日本の高校1年生~3年生)用各1巻の全3巻が出版されました。これまでの経緯や「キラキラ」の由来などについては過去のサイト(2015年度五十嵐2017年度三本)、専門的にはJF日本語教育紀要13号をご覧ください。

JFJAでは、この『にほんご☆キラキラ』の普及に向けて、インドネシア各地の高校教師を対象とした教科書紹介ワークショップを行っています。これまでに、ジャボデタベック、西ジャワ、中部ジャワ、ジョグジャカルタ、東ジャワ、バリ、西ヌサ・トゥンガラ、北スラウェシ、南スラウェシ、南カリマンタン、西スマトラ、北スマトラ、ランプン、といった13地域の教師会との共催で開催しました。

ワークショップは、教科書の基本コンセプトの確認、生徒の立場になっての授業体験、参加者による模擬授業実施の三本柱で成り立っています。模擬授業において、生徒が友達と協力して活き活きと活動に取り組む様子は、ワークショップ参加教師にも印象的だったようです。

今後も、インドネシアの先生たち、そして、その先にいる生徒たちに「周りと協働して新たなことを学ぶのは面白い!」という体験を提供していければと思います。

人と人を結ぶ日本語パートナーズプログラム (NP担当:古閑)

インドネシアでの日本語パートナーズ(以下、NP)の派遣プログラムも2017年に4年目を迎えました。NPの主な活動は、カウンターパート(以下、CP)となる現地の日本語教師と協力してチームティーチングを行い、生徒を中心とした現地の人々との交流を深めることです。2017年度は新たに加わったランプン、西ヌサ・トゥンガラへの派遣も始まり、7期、8期合わせて149名のNPがインドネシア13州に赴任しました。

各地で活動するNPCPのサポートとして、着任時、中間時、離任前1ヶ月の時期に両者を対象としたワークショップを実施していますが、他にも学校訪問をして授業見学をしたり、対面・メール・電話での相談を受けたりもしています。楽しく充実した時間だけではなく、思い悩む時間を経験するNPCPもいますが、プログラムを通してNPCP、生徒、地域の人々が温かい絆で結ばれていく様子を目にすることができるのは、支援に携わる私たちにとっても非常に嬉しいことです。

インドネシアでのNPプログラムが一層豊かで有意義な交流プログラムとなるよう、引き続きNPCPの状況に寄り添った支援内容・方法を模索していきたいと思います。

「みなと」オンライン講座の開講! (JF講座担当:片桐)

授業の様子(みなと通学対面クラス)の写真
授業の様子(みなと通学対面クラス)

2017年9月にJFJAでは初めての試みとなるe-Learningによる日本語講座「『まるごと』教師サポート付きコース」を開講しました。この講座では、学習者はプラットフォームである「JF日本語e-Learningみなと」のメンバーになったうえで、JFジャカルタがインドネシア語で運営する講座に申し込んで受講することになります。

受講生はオンライン上で「まるごと」コースを自習して課題をこなしながら、2週間に1度教師と他の受講生と対面して会話練習や質疑応答を行います。対面方法にはZoomというオンライン会議システムを使うオンラインクラスとJFJAの教室で行う通学クラスがあります。この対面での授業のほかに、課題添削や掲示板、そしてSNSを用いた教師と受講生の交流もあります。コース終了時には対面で会話試験を受け、合格すると修了証も発行されます。ジャカルタの教室に通うことができない地方の人も遠くの島の人もネット環境さえあれば教室に通うのと同じように受講できる画期的なコースです。

今年度は、入門レベルのA1コースと、その上の初級レベルのA2コースを開講予定です。興味のある方はぜひ「みなと」にアクセスしてみてください。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Jakarta
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金ジャカルタ日本文化センターは、インドネシア各地に派遣されている日本語上級専門家・日本語専門家、インドネシアの各機関・団体と連携をとりながら、日本語教育支援を行っている。中等教育では各地域や全国レベルの教師会と、高等教育では主にインドネシア日本語教育学会とその各地域の支部と連携し、勉強会やセミナーなどに協力している。加えて、民間の日本語教育機関対象のセミナーやコンサルティング、一般成人向けのJFスタンダード準拠日本語講座、日本語パートナーズ支援、EPAに基づくインドネシア人看護師・介護福祉士候補者日本語予備教育事業も実施し、季刊の日本語教育ニューズレター『EGAO』を発行している。
所在地 Lantai 2-3, Summitmas I, Jl.Jend.Sudirman Kav. 61-62, Jakarta 12190, Indonesia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:3名、専門家:5名
国際交流基金からの派遣開始年 1980年
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