世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)ラオスの地方都市に芽生えた日本語教育

ラオス日本センター
大田 美紀

ラオスにおける日本語教育は首都ビエンチャンに集中しており、国際交流基金より日本語専門家(以下、専門家)等が派遣されているラオス国立大学とラオス日本センター(以下、LJI)以外の機関では、主に日本人によって日本語教育が行われています。

そんな中、ビエンチャン以外の地方都市で頑張っているラオス人日本語教師を2人紹介します。

1.世界遺産の町に日本語学校を!

チャンマニーさんの写真
「ひまわり学校」チャンマニーさん

1人目は世界遺産の町、ルアンパバンのチャンマニーさんです。チャンマニーさんは地元にある子ども文化センターでボランティアをしていた2002年に、研修で2週間日本を訪れる機会があり、その時から、「日本語を勉強して、故郷で日本語を教えたい」と思うようになりました。

そして、2004年~2007年にLJIで日本語を勉強し、その後故郷に帰って、2010年に自宅の1階に「ひまわり学校」を開きました。以来、「ひまわり学校」はルアンパバンで入門から初級レベルまで、継続的に日本語を学習できる唯一の学校で、学習者は合計約20人です。チャンマニーさんは日本語の観光ガイドもしていて、夜間や土日を中心に授業を行っています。ときには日本人観光客に授業に来てもらったり、また、学習者たちは町で見かける日本人観光客に積極的に話しかけて、会話練習の機会を作るようにしているそうです。このようにチャンマニーさんと学習者の「日本語大好き!」という強い気持ちによって、ルアンパバンの日本語教育は支えられています。

その成果が現れたのが、去年12月の日本語能力試験でした。毎年ルアンパバンからの受験者数は1、2名いるかいないかぐらいでしたが、去年夏に試験の案内をしたところ、チャンマニーさんより「10人以上の受験希望者がいる」との連絡がありました。ほとんどが初めて試験を受けるN5レベルの受験者だったため、LJIからラオス人教師と専門家がルアンパバンに行き、説明会を行いました。説明会には20人以上の受験希望者が集まり、N5とN4併せて15人が試験に申し込みました。(ラオス全体の申込者数は170人)そして、2013年12月にLJIを会場に実施された日本語能力試験では、ルアンパバンからの受験者3人がN5に、2人がN4に合格しました。

2.サバナケット大学への期待

2人目は、経済特別区の整備により日系企業の進出が期待される、サバナケットのダオミーポンさんです。ダオミーポンさんは2012年にラオス国立大学日本語学科を卒業した後、故郷のサバナケットに帰って、サバナケット大学で秘書の仕事をしていました。その後、サバナケット大学の希望で日本語講座を開講することになり、日本語教師になることを希望していたダオミーポンさんは、2013年夏にLJIで実施した教師養成講座入門編を受講し、2014年1月から日本語を教え始めました。養成講座では、入門レベルの学習者への授業ができるようになるため、文字や発音指導、及び教案作成や教材準備について学び、実際にLJIの入門クラスの学習者を対象に教壇実習も行いました。ビエンチャンの先輩ラオス人教師も専門家とともに養成講座を担当し、ダオミーポンさんを始めとする養成講座受講生は、授業準備や実習について、先輩から多くのアドバイスを受けました。


ダオミーポンさんの写真
「サバナケット大学」ダオミーポンさん

ダオミーポンさんは今、夜間のクラスと昼間のクラス併せて約150人の学生、6つのクラスを一人で教えています。サバナケット大学日本語講座は現在、サバナケットで唯一の日本語教育機関で、夜のクラスは、大学の学生以外も受講できます。授業へのアドバイスのため、LJIのラオス人教師や専門家が数回サバナケット大学を訪れましたが、いつも廊下にも聞こえてくる程の大きな声で、先生も学生も元気に授業をしている様子に、こちらの「一人で大丈夫?」という気持ちも吹き飛びました。

今は歩み始めたばかりのサバナケット大学の日本語教育を一人で背負っているダオミーポンさんですが、9月からはもう1名、ラオス人教師が増えることになっています。ダオミーポンさんは、2014年夏にLJIの教師養成講座初級編を受講し、9月からは初級レベルの授業を担当します。今後は「少し先輩」として、サバナケットの日本語教育を引っ張っていってくれることを期待しています。

ルアンパバンとサバナケットはそれぞれビエンチャンから飛行機で北と南に1時間のところに位置している、ラオス第2、第3の都市です。ルアンパバンでは日本語ガイド、そしてサバナケットでは企業への日本語人材という、産業人材育成が求められています。そういった社会の期待に応えられるか、ということもラオスにおける日本語教育発展を考えるためには大切です。

でも、まだ地方の日本語教育は始まったばかりで、ビエンチャンの日本語教育機関やラオス人教師とのネットワークもできたばかりです。まずは「現場の希望」によって芽生え、歩み始めた地方の日本語教育が、少しずつ育ち、根付いていくことを支援していきたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Laos-Japan Human Resource Development Institute
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ラオス日本センターは日本の政府開発援助により設立され、現在は国際協力機構(JICA)と国際交流基金の協力のもとで、日本とラオス両国によって運営されている。ビジネス経営の知識や日本語を学ぶ場として、市場経済化促進のための人材育成を行うとともに、様々な文化交流事業を実施することにより、日本とラオスの交流・相互理解促進を目指している。2012年10月よりJF講座が開始され、JF日本語スタンダードに基づいた日本語教育の普及、及び、教師育成や教育機関ネットワーク促進の拠点としての役割を担っている
所在地 C/O The National University of Laos P.O.Box 7322, Dongdok, Vientiane, Lao PDR
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2005年
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