世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)ラオスの大学では2校目となる日本語主専攻コースの誕生

ラオス国立大学
田邉 知成

東南アジアの内陸部に位置し、自然豊かな山間地が広がるラオスは、これまで生産拠点としての外国企業の進出や大規模な工業化というものとはさほど縁のない国でした。しかし、中国内陸からタイ・マレーシアを南北に、ベトナム(南シナ海)からミャンマー(アンダマン海)を東西に陸路で結ぼうという国際ハイウェイ構想が現実味を帯びてくる中で、最近は両者の経由点となっているここラオスにもSEZ(経済特別区)ができ始め、外資が進出してきつつある状況にあります。

人口が全国で700万人に満たないほどのラオスで、日本語学習者の数は国際交流基金の2015年度の調査で1,000人ほど、日本語能力試験の受験者数は年間150人程度という数字がこの数年続いていました。これは東南アジアではブルネイに次いで2番目に少ない数字です。現在も順位は変わっていませんが、日本語学習者数には少々異変が起こっているような気がします。

直近の2017年12月の日本語能力試験では応募者数が214人、受験者数も200人超えこそなりませんでしたが、試験実施開始以来最高の195人が受験しました。筆者が勤務するラオス国立大学でも4年生より3年生、3年生より2年生のほうが入学者が多く、日本語主専攻を志望する若者が増えている状況がうかがえます。

そんなラオスの現状を象徴するできごとがふたつあります。ひとつは3年前に中等教育でも一部日本語教育が開始されたこと、もうひとつは昨年11月、高等教育機関ではラオス国立大学に次いで2校目となる日本語主専攻コースがラオス中南部のサワンナケート大学で開講したことです。筆者はラオス国立大学に籍を置きながら、主にこの国の高等教育に対する支援を担当していますので、今回は新しくできたサワンナケート大学言語学部日本語学科について紹介したいと思います。

ラオスの中南部に位置するサワンナケート県は先述した東西の国際ハイウェイ(東西経済回廊)上の最大の難関であるメコン河を東西につなぐ第2メコン橋がある町で、この東西経済回廊の重要拠点となる町です。サワンナケート大学ではJICAの支援が始まったことを契機に2013年に選択科目として日本語のクラスが始まり、その後は青年海外協力隊員が派遣されて日本語教育をおこなってきました。折しもこの地に整備されたSEZに日本企業が増え始めた時期とも重なり、「サワンナケート大学に日本語学科設立を」という声が高まり、昨年2017年11月の開講となりました。

第1期生は27名が入学し、本稿執筆現在第2セメスターを学習中です。学科設置の決定まではとんとん拍子で話が進んだものの、そのぶん見切り発車的な面も見られ、開講当初はいろいろと苦労もあったようです。

その最たるものは、教室がないことでした! 日本語学科は新設の学科なので空いている教室がなく、満足に授業をおこなうことができませんでした。1年生のシラバスでデザインされた日本語科目は週に8コマとなっているのですが、少ない空き教室を利用するため、授業は時間的に偏在していて、第1セメスターのときに教室が確保されていたのは水曜日11時30分~13時、と13時10分~14時40分、木曜日の9時50分~11時20分と11時30分~13時の4コマのみです。空き時間だとは言え、いつ昼ご飯を食べるんだ?という厳しい日程でしかも週2日、これではシラバス通りに授業が消化できないということで金曜夕方や土曜日に授業を入れたり、どこかに休講が出て教室が空くとわかれば急遽学生を集めて授業をしたりしていたそうです。第2セメスターに入ってからは他学部の一部が別キャンパスに移転し、教室問題はひとまず改善されました。

第1期生には先輩がおらず、日本語の勉強のしかたなどについても気軽に相談できる相手がいません。先生の授業についていけない時など不安になることも多いでしょう。そんな中、今年の1月にはラオス国立大学の学生・教員がサワンナケート大学を訪問し、交流する機会が持てました。ラオスの大学で日本語を専攻する者同士、機会を作って顔を合わせておけば、学生同士今後もつながりを保てるのではないでしょうか。また、翌2月には日本語パートナーズ・ラオス短期1期の現役大学生6名が日本からサワンナケートを訪問し、1日の文化交流プログラムが持たれました。教師以外の日本人と接する機会がほぼなかった学生たちにとって、同世代の日本の大学生と交流する機会を得たことは大きな刺激になったに違いありません。

サワンナケート大学を指導している日本語の先生方は4名ですが、うち2名は昨年ラオス国立大学を卒業したばかりの日本語教授経験のない新人教師です。筆者はサワンナケート大学を定期的に訪問して、アドバイスをしたり教師研修会をおこなったりしていますが、今年度はまだ1年生しかおらず、各教員の授業コマ数も多くないため、教師同士相談して試行錯誤を繰り返しながら、楽しい授業を組み立てていけるようがんばってほしいと思っています。

ゲームを通じて楽しく授業している写真
ゲームを通じた楽しい授業風景
(サワンナケート大学)

日本語パートナーズとの交流会で、日本語の単語を勉強している様子の写真
日本語パートナーズとの交流会より
(サワンナケート大学)

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