世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 訪日研修を利用したマレーシア国内でのとりくみ

国際交流基金クアラルンプール日本文化センター
根津誠(主任)、下橋美和、矢沢悦子

 マレーシアの首都、クアラルンプールのクアラルンプール日本文化センターThe Japan Foundation, Kuala Lumpur、以下「JFKL」)には、現在3名の専門家が派遣されています。より効率的な日本語教育支援を行なうため、ここでの専門家の業務は教師支援が中心となっています。ひとくちに教師支援といっても、いろいろな仕事がありますが、ここでは、マレーシアの日本語の先生方がさいたま市北浦和の国際交流基金日本語国際センターへ研修に行く機会をとらえ、研修がより有効に機能するよう現地の立場から行なっている取り組みについてご紹介します。

日本語国際センターでの研修

 日本語国際センターについてはもうご存知でしょうか。日本語国際センターは、海外の日本語教師を招いて、教授法や日本語の研修をしたり、また教材開発をしたりするための、国際交流基金の附属機関です。ここでの研修は、世界の日本語教師にとって、日常業務をはなれて訪日し、センターの講師陣や、教育事情のことなるさまざまな国、教育機関からの教師と交流しながら、日本という場でしか行なえない研修を受けて、教師として成長する貴重な機会となっています。マレーシアからも毎年、主要機関の先生方が訪日し、研修を受けています。2006年度には、8機関9名のネイティブ、ノンネイティブの先生方が、研修を受けに行くことになっています。

いままでのとりくみ

 JFKLでは、これまでも訪日研修に参加したマレーシアの先生方が、マレーシア国内の他の日本語の先生方に研修報告を行なう場を提供してきました。2003年までの「日本語教育指導者養成学位プログラム報告会」、「浦和教師研修OB報告会」、2004年からの「日本語教育研究発表会・浦和研修報告会」です。

 しかし、訪日研修の機会があり、報告会という共有の場を用意すれば、どの先生もうまくそれらの機会を生かせるかといえば、そうでもありません。
自己研修に熱心で、日本語能力の向上に日々努力していても、自分の現場に問題点があるとは気づかないこともあります。現場の問題や自分の課題に気づいていても、それをどうすればいいのかわからないこともあります。また、訪日研修を活用して現場の問題や自分の課題を解決しても、発表の必要性を感じなかったり、発表の方法がわからないこともあります。

訪日研修で授業のバージョンアップを

 そこで、JFKLでは、いまある訪日研修の機会、研修報告会の機会をよりうまく使ってもらおうと、今年度から訪日前オリエンテーションを実施しています。
このオリエンテーションでは、訪日研修をひかえた教師のみなさんに、「訪日研修や研修報告会を利用して、授業をバージョンアップしませんか。教師として、ステップアップしませんか」と呼びかけます。

 具体的には、それぞれの現場の状況を整理し、現状把握を行い、PMPPersonal Mini Project)と呼ぶ小さな身近な課題を設定し、訪日前、滞日中、帰国後、どんなことをすればいいのかを考えてもらいます。先生方がそれぞれの現状を把握し、自ら問題を解決していくようになるのがJFKLのねらいです。

訪日前オリエンテーション (1)の写真
訪日前オリエンテーション (1)

訪日前オリエンテーション (2)の写真
訪日前オリエンテーション (2)

春短(春期海外日本語教師短期研修)の場合

 春短の訪日前オリエンテーション参加者の一人、中等教育機関で教えるラティファ先生は、生徒たちの会話力が伸びないという悩みを持っていました。それを出発点に、訪日前オリエンテーションで現状を整理し、大人数のクラスで生徒が話す機会が少ないことが原因のひとつではないかということにたどりつきました。

 そこで、生徒が話す機会を増やすために、今回の2か月の訪日研修を利用して、クラスで使うグループワークのための教材を作ることにしました。そしてそのために、訪日前、滞日中、帰国後、具体的にどんなことをすればいいのか考えました。例えば、訪日前には、足りない教材などをチェックする、どんな活動をする際にどんな教材が合うのか考えてみる、生徒へのアンケートを行なうなどです。

 この訪日前オリエンテーションに参加した3人の先生方は、「この訪日研修によって、現状が改善できそうだ」、「いままでは、ただ行けばいいと考えていたが、これですべきことがよくわかってよかった」と言っていました。

 このように、訪日前オリエンテーションは、訪日の準備というだけでなく、これ自体がどう現場をよくしていくかを考える学びの場として機能しています。

現場の課題をたがいの力で

 帰国後は、「日本語教育研究会・浦和研修報告会」で訪日研修の結果をポスター発表してもらうことになっています。発表することで、その先生のなかでより課題の解決の過程が明確になるでしょう。そして、その発表によって、一人の先生の訪日研修が、マレーシア全体に還元されます。そしてそれは同時に、同じ課題をもつほかの先生との連携の機会につながると期待しています。

 先生方自身が、現場の課題をたがいの力で解決していけるよう、JFKLはお手伝いをしています。

(文責:下橋美和)

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
マレーシアの各機関と連携し、日本語教育に関する幅広い業務を行う。専門家はおもに現地日本語教師支援を行っている。クアラルンプールでの日本語教育セミナーや教師養成講座とともに、地方在住の教師のために、地方に出向して研修や情報提供を行う日本語教育キャラバンを実施する。また、教育省と協力し、中等教育機関における日本語教育にも、様々な支援を行っている。その他、プロジェクト対応型コンサルティング、中上級者向けの日本語一般講座運営への協力、スピーチコンテスト実施、関係機関の情報収集、ニュースレター「ブンガラヤ」原稿執筆などの業務もある。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation, Kuala Lumpur
ハ.所在地 Suite 30.01, Level 30, Menara Citibank, 165, Jalan Ampang, 50450 Kuala Lumpur, Malaysia
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:3名

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