世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ゾライダ先生、母校に戻る

ゾライダ先生、母校に戻る

マラヤ大学予備教育部日本留学特別コース
上野栄三

今回は本コース卒業生であるゾライダ・ムスタファ先生のインタビュー記事を紹介します。ゾライダ先生は1989年度入学の第8期生で、私のかつての教え子でもあります。日本での留学を終えて、今年の三月にマレーシアに戻り、現在、AAJの一年生に日本語を教えています。

和やかに行われたインタビューの写真
インタビューは和やかに行われました

上野:よろしくお願いします。
ゾライダ:こちらこそ。
上野:まず、現在に至るまでの経緯を簡単にご紹介願います。
ゾライダ:はい。私はAAJを90年に卒業し、金沢大学文学部国語国文学科に入学しました。帰国後、AAJでしばらく働きまして、95年の9月に基金の日本語国際センターで海外日本語教師研修を受けました。それから、再びマラヤ大学に戻り、99年の3月までAAJで働きました。そして、その年の4月から広島大学の修士課程に国費留学生として入学するチャンスをもらいました。
上野:大学をお辞めになったんですか。
ゾライダ:いいえ、大学教員のまま、大学から派遣されるという形でした。

上野:広島大学では何を研究されましたか。
ゾライダ:広島大学では国際協力研究科、教育文化コースを選択しました。日本語教育だけではなく、世界のいろいろな国の教育の現状も学べました。
上野:その後、博士課程にも進まれてますね。
ゾライダ:はい、そのまま広島大学の博士課程に進学し、対照言語学を専攻しました。「日本語とマレー語における否定表現の対照比較研究」が私のテーマです。修士課程の時は、日マ対訳の小説を使って、両言語の否定表現の使用状況について調査しました。否定表現の種類、使用頻度、そして、どのように翻訳されているのかを調べました。博士論文では修士論文を基にして、より言語学的なアプローチで、日本語の否定表現研究の知見も用い、マレー語の否定表現を調査しました。

上野:そうですか。話が前後しますが、AAJでは確か理科系の学生だったと思うんですが……。
ゾライダ:ええ、そうなんですが、私は元々は文系志望だったんです。でも、AAJでは理系のコースに入れられてしまったんです。それで私は、JPAにお願いして、コースを変更させてもらいました。
上野:ああ、そういう事情があったんですか。
ゾライダ:ですから、AAJでは理系の科目を勉強しましたが、金沢大学では、国語学、古典文学、現代文学、哲学などを学びました。

上野:AAJの卒業生は日本へ留学してから、日本語の面、生活の面などで、非常に苦労を強いられると聞いていますが、その点はどうでしたか。
ゾライダ:確かに大変でした。特に私の場合は、専攻が変わったので、大変でした。AAJでは物理や化学を日本語で学んでいた学生、大学では夏目漱石、三島由紀夫、安部公房などの文学作品を読まされるんですから、さっぱりわかりませんでした。それから、古典では、万葉集、古今和歌集、能、狂言など、日本の「こってり」した部分に出会いました。しかし、そこで嫌になるどころか、逆に興味が湧いてきて、いろいろな方法で授業に取り組みました。
上野:そうですか.....。AAJの時代から頑張り屋でしたからね。

ゾライダ:いえ、そんなことはありませんが、とにかく必死でした。それから、やはり、友達のサポートもたくさんもらいました。特に、Sさんという同級生の方には本当にお世話になりました。
上野:そうですか。
ゾライダ:ちょっと「ちびまるこちゃん」のような女性なんですが、本当に心の優しい方でした。
上野:他にはどんな方が?
ゾライダ:多くの日本人の同級生、先生方、マレーシアの先輩にも勉強の仕方、単位の取り方、時間の管理の仕方などをアドバイスしてもらいました。それから、金沢大学の国文学科では初めての留学生だったので、いろいろな面でサポートしていただきました。

上野:話は変わりますが、ゾライダ先生のように、AAJを卒業して日本語の先生になっている人は他にもいますか。
ゾライダ:ええ、何人かいます。現在、AAJで二年生を教えているザイド先生と化学を教えているファリダ先生はAAJの4期生です。また、一年生を教えているロハヤティ先生は16期生で、私がAAJで教えている時に入学しました。また、他の機関にも何人かいます。

上野:ええっと、これが最後の質問ですが、日本語の専門家になってどうですか、よかったですか。それから、日本語を教えていて、どんな時に喜びを感じますか。
ゾライダ:難しいですね……。よかったかどうかよく分かりませんが、少なくとも、自分の国の文化や言葉を更に深く知るようになったことは事実です。それから、いちばん嬉しいときは、学生が日本へ行けるのが決まったときです。学生が日本へ行くたびに、日本の不思議な香りがして、自分もまた行きたいなと思います。
上野:そうですか。紙面も尽きましたので、これで終わりにします。ありがとうございました。

学生も新人!私も新人! ~AAJ1年生の担当になって~

マラヤ大学予備教育部日本留学特別コース
盛田 真規子

こんなに日本語が話せるようになりました(?)

私のクラスの学生たちと先生方の写真
私のクラスの学生たちと先生方

 ある日のことです。授業も終わり、教室を出ようとした時、突然、激しいスコールが降って来ました。教員室は教室から少し離れた所にあるので、傘を持って来なかった私は雨宿りをしなければなりませんでした。

 すると、学生たちも雨宿りにつきあいながら、「私の日本語はどうですか」、「よくなりましたか」、「少し?とても?」と習ったばかりの日本語を使って、口々に自分の日本語が上達しているかどうかを聞いてきたのです。そして、一人ひとりに簡単に答えると、嬉しそうに「ありがとうございます。頑張ります」と元気一杯答えてくれました。ふと、1か月前は日本語が全然わからなかった学生たちのことを思い返しました。

 彼らはAAJに入学してきたばかりの新1年生です。3週間にわたって行なわれた、一日8時間もの集中授業を乗り切り、現在、通常授業を受けている頼もしいマレー人学生です。

 日々、授業や業務に追われて、なかなか学生と接する時間が取れませんが、このような学生と会話する機会を大切にしていきたいと思いました。スコールも考えようによっては悪くありません。
かくいう私もAAJに勤めて2か月足らずの新人ですが、新入教師の目から見たAAJの様子をお伝えします。

マレー人学生

 授業中、ペアワークで練習した会話や作文などを発表してもらう時、学生が「えー、先生、私たちはshyですよ。だめです」という言葉をよく口にします。

 しかし、実は、マレー人学生は人前での発表やパフォーマンスが大好きで、事実とても上手です。
また、歌やアニメも大好き。集中授業の前に行なわれた日本語オリエンテーションでは、マレー人の先生によるひらがなの導入がありました。その際に、子供向けのひらがな学習アニメも流されたのですが、何と、学生たちは繰り返されるメロディーをあっという間に覚え、体を揺らして一緒に歌い始めました。

 このように、学生たちは純粋で、何事にも興味を持ち、熱心に取り組みます。また、授業態度もよく、人を敬う気持ちを持った礼儀正しい若者です。何かを注意しても、すぐ素直に「すみませんでした。先生、私はいい学生になります」と謝りに来ます。

 もちろん、彼らは学業においても、高校卒業時の全国統一試験で優秀な成績を修めています。さらに、アンケート調査の結果、今年度は約8割もの学生が日本を第一留学希望先に選んでいたことがわかりました。このことから、日本語学習に対する動機や目的意識が強いという点でも新1年生は期待できるといえます。

マレー人の先生方から学ぶこと

 「私は皆さんを自分の子どものように思って、接していきます」。これは、あるマレー人の先生が学生の前で言った言葉です。この言葉はとても印象的で、その言葉通り、マレー人の先生方はいつも親身に学生への指導や対応に当たっています。「勉強の仕方がわからない」という学生が来れば、「私のときはね」とか「私はとてもいい勉強方法を知っていますよ」と、話を始めます。全員、日本留学の経験があり、中にはAAJの卒業生という方もいます。ですから、その御自身の経験に基づいた、適切なアドバイス方法を聞くことは、これから学生を指導していく上で非常に参考になります。

 先生方によると、学生たちは頭がいいので、これまでそれ程勉強しなくてもいい成績が取れたが、AAJではそれが全く通用しないため、自主的に勉強する態度を身に付けさせてから日本の大学に進学させたいとのことでした。学生は熱心でまじめですが、確かに勉強姿勢は受身です。これは今後の大きな課題だと思いました。

大所帯を支えるために

双子の兄、イドゥルス先生の写真
双子の兄、イドゥルス先生

 AAJは1、2学年合わせると学生数300人を超える大規模な日本留学コースです。そして、このコースと学生は、日本語科の教員だけでなく、物理、化学、数学を教える教科教員など、いろいろな人々によって支えられています。

 今年度から日本語授業時間数が2年間で約1500時間(これまでは約1000時間)となり、それに合わせて、カリキュラムも変わりました。この大所帯を支え、動かすために、教員間の連携は欠かせず、毎週のように会議が開かれ、相互のコミュニケーションが図られています。

 さらに、1年生では『双子クラス』という形でチームティーチングを行なっています。これは全体を8クラスに分け、それを2クラスずつペアにして、そのペアの2クラスを日本人教員2人とマレー人教員1人の3人で教えるシステムです。私と双子の兄に当たるマレー人教員はそれぞれのクラスの担任です。そして、その双子クラスの時間割を作成し、全体的な指揮をとるのは、頼りになる先輩の日本人教員です。この『双子クラス』の導入によって、より効率的で、かつ、効果的な指導ができます。

 私のAAJ勤務は始まったばかりですが、2年後にこの1年生全員を日本へ送り出せるよう、彼らの支えとなれたらと思っています。

日本留学まであと1年! 笑顔で頑張るAAJの学生達

マラヤ大学予備教育部日本留学特別コース
飯塚 往子

 マラヤ大学(Universiti Malaya)は、クアラルンプール近郊にあるマレーシア最古の国立大学です。そのマラヤ大学内に、日本の支援によって設立された「日本文化研究館」(Ambang Asuhan Jepun:以下AAJ)という建物があります。ここは2年間のコースで、日本語だけでなく、1年生後半になると、文部科学省から派遣された理科系の日本人教師による、物理、数学、化学の授業も始まります。私は2005年3月にこちらに赴任し、2年生を担当しております。今回は、学生、先生、イベント、試験などをご紹介したいと思います。

学生

 2年生は男女合わせて142名です。学生は1日8時間、日本語の授業はもちろん、日本語で物理、数学、化学の授業も受けています。私は現在、一番成績上位のクラス(男性:14名、女性:8名)を担当しています。宿題は山のよう…。睡眠時間が4時間…というのは、当たり前です。1月に行われる文部科学省試験という試験に合格しなければ、日本で勉強することはできません。そのために頑張っています。でも、休み時間はおしゃべりに花が咲き、放課後はサッカーを元気いっぱいやっています。

今日はみんな真面目に話を聞きいている授業の写真
授業風景です。今日はみんな真面目に話を聞いています。

 これはある授業の風景です。

「仮に宿題がなかったとしたら、                  」

 後件を考える問題。学生に答えを発表してもらいました。いつも宿題に追われている学生。きっと、「一日中寝るだろう/買い物に行けるだろう」などという答えが出るだろうと予想していました。

私:「はい。では、後ろの答えを言ってください。」
学生1:「仮に宿題がなかったとしたら、生活はつまらなくなるだろう。」
学生一同:「お~~!!」
学生2:「仮に宿題がなかったとしたら、つまらなくて死んでしまうかもしれません。」
学生一同:「お~~!!良い学生ですね!」
私:「じゃあ…。今日はたくさん宿題を出しますね♪」
学生一同:「え~~!!先生~~!!これは例文です!!」

 勉強は大変ですが、こんな和やかな一場面も垣間見ることができます。

先生

授業も終わって、皆さんホッとした表情の2年生講師室の写真
2年講師室です。授業も終わって、皆さんホッとした表情です。

 2年生の日本語は、国際交流基金派遣の教師が7名と、ローカルのマレー人教師1名の8名で教えています。マレー人の先生もAAJの卒業生です。学生にとって、お手本となる先輩です。この7名は、年齢もここにいたるまでの経験もばらばらです。何度も海外教授経験がある人もいれば、AAJが初めての海外派遣という人もいます。互いの足りないところを埋めあいながら、力をあわせて仕事をしています。私達は専任講師なので、授業だけをやればいいというわけではありません。副教材や試験の準備、行事の計画、学生の出席の管理、マラヤ大学側や文部科学省派遣の理科系教科教員との打ち合わせなど、授業以外にもたくさん仕事があり、毎日があっという間に過ぎていきます。ともすれば、忙しさから暗くなってしまいそうですが、みなさんの明るさで、大変な仕事も楽しく乗り切っております。

 こちらは講師室です。

 狭いですが、パソコン、図書もかなりそろっており、快適に仕事をしております。

イベント

スポーツ大会で女子学生も頑張っている写真
スポーツ大会です。女子学生も頑張ります。

 スポーツ大会、日本人学校訪問、日系企業訪問、日本語弁論大会など、限られたカリキュラムの中にも、学生同士の交流を深めたり、日本へ行くためのモティベーションを高める行事があります。

 このスポーツ大会は、1年生、2年生合同で行われます。ルールなど、日本語を使った説明がたくさんあります。しかし、2年生がきちんと1年生をサポートしてくれるので、私達教師は何も心配がありません。普段は、学生達は毎日毎日勉強ばかりです。でも、この日は勉強のことはひとまず忘れて、思いっきり体が動かせたようです。

試験

 学生達は、日々、日本語や教科のクイズやテスト、追試に追われています。11月に受験する日本留学試験は、語彙力が少ないAAJの学生にとって、大変難しい試験です。私達教師にとっても、どうすれば学生達の点数が伸ばせるのか、悩みの一つです。そして、それが終わると文部科学省試験まで、まっしぐらです。1月になると、放課後、もしくは早朝に補講があったりで、学生達の睡眠時間はまた一段と少なくなります。寮では落ち着いて勉強ができないと言って、夜の12時近くまでAAJの教室で勉強している学生もいました。昨年度は残念なことに、数名の学生が不合格となり、日本に行くことができませんでした。不合格者の通知があった日は、学生と共に涙しました。しかし落ちてしまった学生も、今は元気にマラヤ大学へ進学したり、それぞれの道で頑張っています。そして日本に行った学生達。行ったばかりの頃は、「寒い。」「大変。」などとメールをしてきましたが、今では楽しんでいるようです。

 学生達のゴールは、文部科学省試験合格ではありません。その後、日本に行って勉強することにあります。だから今は「厳しい先生」でも構いません。日本に行った後「ああ、先生はこう言ってたな。」と、思い出してもらえるような授業を、これからもしていきたいと思います。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
1981年にマハティール首相が就任し、東方(日本、韓国)からその勤勉さと集団努力を学ぶべきとし、東方政策を提唱。これに基づき、日本の大学及び高等専門学校への留学、産業技術研修のための渡日前日本語教育が始まった。マラヤ大学予備教育部に日本留学特別コースが1982年に設置され、学生は2年間の予備教育終了後、文部科学省試験を受け、日本の大学に留学している。基金が日本語教育専門家13名、文部科学省が教科教員19名を派遣しているほか、2名の日本語教師の謝金を助成している。専門家は、1年生、2年生の日本語授業担当、教材作成、カリキュラム作成等を行っている。
ロ.派遣先機関名称 マラヤ大学予備教育部日本留学特別コース
Gateway to Japan, Center for Foundation Studies in Science, University of Malaya
ハ.所在地 AAJ, PAS, UNIVERSITI MALAYA, 50603, KUALA LUMPUR, MALAYSIA
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:13名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
マラヤ大学予備教育部日本留学特別コース
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1982年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1982年
(ロ)コース種別
日本留学予備教育課程
(ハ)現地教授スタッフ
常勤9名(うち邦人2名)、非常勤3名(うち邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年生154名、2年生142名(2006年7月1日現在)
(2) 学習の主な動機 日本の大学で理工学を学ぶため
(3) 卒業後の主な進路 主には日系企業に就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級程度
(5) 日本への留学人数 2580名(累積)

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