世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 目指すは身近なご当地セミナー

国際交流基金クアラルンプール日本文化センター
根津誠(主任)、矢沢悦子、レイン幸代

 東南アジアのマレーシアにあるクアラルンプール日本文化センターでは、日本語教育専門家2名とジュニア専門家1名が、マレーシアの日本語教育全体に関わる業務を行っています。その主な業務である教師支援のうち、2007年度から装い新たにスタートした「日本語教育地域セミナー」についてご紹介します。

地域セミナーの衣替え

 昨年度までは「日本語教育キャラバン」というタイトルで、全マレーシアの3カ所で、教授法の地域研修会と、マレーシア人のノンネイティブ教師(日本語を母語としない先生)を対象とした日本語ブラッシュアップの研修会を、それぞれ1回、2日ずつ行っていました。2007年度は、中等教育機関の日本語教師を対象にした「RESESS」(Regional Seminar for Secondary Schoolの略)と、それ以外の教師を対象とした「日本語教育地域セミナー」の二つの地域セミナーに分けることで、参加者のニーズへの対応を図りました。

中等教育のニーズに応える「RESESS

グループで教案作成(RESESS)の写真
グループで教案作成(RESESS

 中等教育機関(日本の中学・高校に相当)では、マレーシアの中等教育向けに作られた日本語教科書が全国で使われています。また日本語を教えているのは、すべてマレーシアの学校教員免許を持ったマレーシア人教師です。その多くは、元々他教科の教員や小学校の教員で、マレーシア政府の政策で日本の大学に留学し、卒業して帰国後に日本語を教え始めた人たちです。ですから全体に日本語力が高く、日本社会や文化の知識も豊富ですが、十代の生徒たちに、第二外国語としての日本語の勉強を続けさせるには、常に新しい情報や教え方を取り入れ、学習者の興味を持続させなければなりません。また、現在新しい教科書が作られており、教師はそうした変化への対応を求められています。こうしたニーズを踏まえて、マレーシア教育省と共催で、新しい地域セミナー「RESESS」を全国5カ所で開くことにしました。

高等・一般教育のニーズに応える「日本語教育地域セミナー」

 「日本語教育地域セミナー」は、大学、一般の日本語学校、また各地のマレーシア日本友好協会や日本語協会といったNPOなどの教師を対象にしたものです。これらの教師の中には、日本人、マレーシア人の両方の教師がいて、マレーシア人教師の中にも留学経験者もいれば、マレーシア国内だけで日本語を学んだ人もいます。さらに彼らが日本語を教えている学習者は日本語専攻・副専攻の大学生や、趣味で何年も勉強しているものの日本語を今すぐ実際に使う当てはないという社会人など、さまざまです。このような多様な教授環境の教師に共通すると思われるニーズを抜き出して、地域セミナーで扱うことにしました。各セミナーの長さも1日と短くし、「教授法」セミナーの翌日に「日本語ブラッシュアップ」セミナーを行うことで、必要と感じるものに気軽に参加できるようにしました。

参加型セッション

ペアで話す活動を体験(日本語教育地域セミナー)の写真
ペアで話す活動を体験
(日本語教育地域セミナー)

 これら地域セミナーで行っている活動の例をご紹介しましょう。たとえば日本語ブラッシュアップセミナーで「読む力」や「話す力」を伸ばすセッションの場合、まず初めに、学習に効果的だがふだんあまり行われていないと思われる教室活動や方法を紹介し、実際にやってみます。次に、今体験した活動を振り返って、どんな方法で学習が行われたか、その意味について話し合います。そして最後に、自分の授業で教えるときにもその方法が使えるか、話し合います。教師のための研修会ですから、ただ日本語を使ってみた、新しいことばを知ったというだけでなく、最終的に自分の教授活動の向上に役立つようなものを目指しています。またグループ活動を多く取り入れることで、議論を活発にし、考え方や仕事の状況の違いを通して自分の教え方をより多角的に見ることも目的としています。

どうすれば自分に引き付けて考えてもらえるか

 わたしたち専門家は、日本語教育や日本語そのもの、人間が学習するしくみ、またワークショップの行い方など、それぞれの専門性を生かして研修をデザインします。でも、教えている学習者のことを一番よく知っていて、それに合った授業を作ることができるのは、実は一人一人の先生であるはずです。ですから、研修会で紹介し、体験した方法を、参加者の先生がご自分のクラスやコースに当てはめて「この部分をこうすれば使えそうだな。よし、来週の授業で試してみよう」と持ち帰ってもらえるか、それとも「おもしろい体験だったけど、うちでは事情が違うからできないや」と感じるかで、研修会の意味が大きく変わってしまいます。できるだけ自分に引き付けて捉えてもらえるように、教室活動にローカル・ネタを取り入れる、参加型活動を多くする、それぞれの教授環境や意見を聞いてフィードバックし合う時間を大切にするなど、毎回試行錯誤しています。
 地域セミナーのほかにも、日本語教育専門家が各地の学校を訪問して授業を見たり、使用中の教材を見ながら教え方やコース全体についてアドバイスしたりもしています。しかし、150近いマレーシアの日本語教育機関をすべて回るには、日本語教育専門家3人がそれぞれ1年に10校訪れたとしても、一回りするのに5年かかってしまいます。というわけで、これからも現場の教師の側に立って支える機会として、地域セミナーがよりよく機能するよう、工夫を重ねていきたいと思います。

(文責:根津誠)

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
マレーシアの各機関と連携し、日本語教育に関する幅広い業務を行う。日本語教育専門家(1992年に派遣開始)は現地日本語教師支援を、ジュニア専門家(2007年に派遣開始)は中上級者向けの日本語一般講座の企画運営を中心に行っている。現職教師支援としては、地域セミナー、クアラルンプールで実施する「マレーシア日本語教育セミナー」や「日本語教育研究会・浦和研修報告会」、訪日前オリエンテーションがある。教師養成講座も実施している。また教育省と協力し、中等教育機関における日本語教育にも様々な支援を行っている。その他、スピーチコンテスト、関係機関の情報収集、ニュースレター「ブンガラヤ」原稿執筆などの業務を行う。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation, Kuala Lumpur
ハ.所在地 Suite 30.01, Level 30, Menara Citibank,
165, Jalan Ampang, 50450 Kuala Lumpur, Malaysia
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:2名、ジュニア専門家:1名

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