世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) AAJ(Ambang Asuhan Jepun)からこんにちは

マラヤ大学予備教育部日本留学特別コース

1.AAJAmbang Asuhan Jepun) 紹介

杉山純子

マラヤ大学キャンパス

 ここは1年中ハイビスカスやデイゴやプルメリアの花が咲く美しい南国の大学です。檸檬色の鳥がきれいな声で歌を歌い、かわいい栗鼠が駆け回り、猿の一群が悠々とキャンパス内を散歩しています。色とりどりのバジュクロンに身を包んだ女子学生たちが南国情緒に一層の華やかさを添えています。

AAJの概要

 東方政策(Look East Policy)の一環として、日本へ多数の留学生を送り出そうと1982年、マラヤ大学にAAJ(日本留学特別コース)が開設されました。AAJは2年間の予備教育コースです。今年は第24期生134名が3月に日本の大学に留学しました。2007年4月現在、1年生149名(第26期生)、2年生153名(第25期生)が勉学に励んでいます。AAJでは日本語、専門科目(数学・物理・化学)、英語の授業が行われていますが、AAJを支えるために文部科学省から教科教師20名(高校教師)、国際交流基金から日本語教育専門家13名が派遣されています。派遣専門家はマレー人専任教師、現地日本人専任教師、非常勤講師と協力し合って日本語コースを運営しています。
 日本留学の合否判定のために、昨年までは文部科学省試験(到達度を測る試験)が実施されていましたが、この文部科学省試験が廃止され、学生たちは日本留学試験(総合力を測る試験)を受験することになりました。その対策のため、日本語の授業時間数が大幅に増え、1年生には年間1057コマ、2年生には年間492コマの日本語授業時間が設定されました。というわけで、AAJでは平日だけでなく土曜日にも日本語のクラスがあり、学生も教師も大変忙しい毎日を送っています。

派遣専門家に求められること

 忙しい日々の中で派遣専門家は現地教師とともに様々な業務をこなしています。授業を行うだけではなく、たとえば、カリキュラム作成、教材作成、クラス運営、授業準備、現地新任教師への指導、事務的な業務など、仕事は多岐に渡っています。AAJではチームワークがとても大切です。他の日本語教師、教科教師、AAJオフィス・スタッフなどとの連携が欠かせないので、専門家には日本語教育能力だけでなく協調性が求められます。さらに、突然の授業の変更、想定外の出来事、諸手続きの遅延などに臨機応変に対応できる柔軟性も必要です。もちろん、ハードスケジュールをこなせるだけの体力と気力は必須条件です。

「花笑み」を浮かべる学生たち

 このAAJにマレーシア各地から集まった学生たちは素朴で心優しい若者たちです。平日は朝8時から夕方6時まで授業、夜は寮で自主学習というまさに勉強漬けの毎日ですが、いつも花のような笑顔を絶やしません。「花笑み」という言葉は彼らのためにあるのではないでしょうか。
そんな学生たちの様子を吉川さんに具体的にお話ししていただきましょう。

2.AAJの学生たち

吉川達

とても礼儀正しく真面目で素直な学生

 礼儀正しい。私がAAJの学生に対して受けた最初の印象です。授業が始まるときには毎時間その日の日直が「起立、気をつけ、礼」と号令をかけ、全員で、「せんせ~、よろしくおねがいしまーす」と言ってくれます。言われたこちらが恐縮してしまいます。ちなみに授業の終わりには、「せんせ~、ありがとうございましたー」と唱和します。AAJに入学したての頃は、間違えて「せんせ~、よろしくおねがいしましたー」なんてことを言ってみんなに笑われる日直もいます。

授業前のお祈りの写真
授業前のお祈り

 始まりの挨拶の後、ムスリムの学生はその場でお祈りをします。AAJの学生はそのほとんどがムスリムなので、クラスの学生たちみんながお祈りをしているその間は、静かで神聖な空気が教室を満たします。ムスリムではない私もその雰囲気に包まれ、静かな気持ちで授業を始めることができます。
 学生たちはさすがにマレーシア全土から集められた優等生だけあって、授業中は真剣そのもの。毎日夜遅くまで宿題をしているにもかかわらず、教師が説明している間は眠い目をこすりながらも一所懸命聞いています。聞くときはこのように静かに聞いているのですが、教師の説明が終わり、タスクやペアワークになると、打って変わって積極的に話し始めます。
 こんな例をひとつ。AAJでは、週に何回か大教室で集合授業があります。一堂に集められた学生は1学年150名ほど。集合授業の際は、その大人数が教師の指示でいっせいにコーラスをしたり、ペアワークをしたりします。150名が同時にコーラスをしたときの迫力といったらありません。学生たちの声で大教室が揺れるほどです。指示をちゃんと聞き、その通りにする学生の素直さがあるからこそ、できることでしょう。
 この真面目さ、素直さこそ、AAJの学生の大きな魅力であり、強みでもあります。

学生はイベント好き!?

 セメスターの節目が来てクラスがそろそろ変わろうかというとき、きまって学生は「せんせー、パーティーしましょう」と言い出します。もちろん学生はよく勉強をします。けれどもイベントも大好きです。

学生はパーティーも好き!?の写真
学生はパーティーも好き!?

 ある時、1年次の授業で通販商品のコマーシャルを作ることになりました。各クラスでグループに分かれてある商品のコマーシャルを考え、それを発表する。これをクラス内予選とし、それを勝ち抜いたグループがクラス代表として決勝戦に進むというものです。決勝戦では、実際にビデオで撮影してからそれを放送するという方法をとります。当初は、クラス内予選を行ったその日の放課後にクラス代表を集めて、いっせいにビデオでコマーシャル撮影をしようと思っていました。しかし、いざ撮影の時になって学生たちが「友だちがビデオを持っているから、寮へ帰って自分たちでビデオを撮ってコマーシャルを作りたい」と言い出したのです。ただ、この活動にそれほど時間をとることもできなかったので、1日だけ、正確には一晩だけ時間を与えて、自分たちで自由に作らせることにしました。タイムリミットは翌日の正午。
 約束の時間。教師たちは、学生たちがビデオを持ってくるのを今か今かと待ちわびていました。そして、目を真っ赤にして学生が持ってきたビデオは・・・各クラスの個性がよく出ていて、しかも完成度が高く、一晩で作ったとは信じられないぐらいすばらしいものでした。
 これに限らず、ディベートを行うと言えば入念に準備し、意見論述にも趣向を凝らすし、日本人との交流会があると言えば、生の!?日本人と接する機会だと張り切って準備し、いろいろな質問をして積極的に日本人と関ろうとします。
AAJの学生は、イベント好きで、そしてパフォーマンスが上手なのです。

でもやっぱり苦難の道

 1年次ではこのようなアクティビティーを行う時間も多少はあるのですが、2年次になると受験が目前に迫ってくるため、なかなかこのような時間をとれなくなってしまいます。物理、化学、数学の授業が忙しくなってくるからです。もちろん、日本語の授業も難しくなってきますし、内容も抽象的になってきます。そんな中で大きなプレッシャーを受け、学生の目つきもクラスの雰囲気も1年次とは違ったものになってきます。まさに正念場です。
 これまで数々の試験で優秀な成績を収めてきたAAJの学生たち。試験には慣れているとはいってもやはり緊張するものです。ましてやそれに日本留学がかかっているとくれば、プレッシャーを受けない方がおかしいでしょう。その上、故郷から離れての寮生活。授業が終わってからの宿題の山。毎日の小テスト。焦りや不安。2年次の学生は心身ともに疲弊し、満身創痍で受験までの期間を過ごします。この熾烈な期間を乗り越えられた学生だけが日本に行くことができるのです。決してやさしくはない関門です。

テストのときは真剣そのものの写真
テストのときは真剣そのもの

 それでも、笑顔を絶やさないのがAAJの学生たちです。休み時間などに廊下で会うと、疲れがにじむ顔を笑顔に作り変え、ニコッと「花笑み」を浮かべて、挨拶をしてくれます。
入学時、顔にまだまだあどけなさを残していた学生は、AAJの2年間で勉強はもとよりいろいろな苦労に遭遇します。それらを乗り越えていくうちに学生たちの顔はどんどんと頼もしくなっていきます。
 日本への道は苦難の道ですが、AAJの学生の真面目さと素直さ、エネルギーとチームワークをもってすれば、最後には全員が笑って日本への切符を手に入れてくれるはずです。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
1981年にマハティール首相が就任し、東方(日本、韓国)からその勤勉さと集団努力を学ぶべきとし、東方政策を提唱。これに基づき、日本の大学及び高等専門学校への留学、産業技術研修のための渡日前日本語教育が始まった。マラヤ大学予備教育部に日本留学特別コースが1982年に設置され、学生は2年間の予備教育終了後、日本の大学に留学している。基金が日本語教師13名、文部科学省が教科教師20名を派遣しているほか、同大で2名の日本人教師を現地雇用している。専門家は日本語授業担当、教材作成、カリキュラム作成、新人教師研修等を行っている。
ロ.派遣先機関名称 マラヤ大学予備教育部日本留学特別コース
Gateway to Japan, Center for Foundation Studies in Science, University of Malaya
ハ.所在地 AAJ, PAS, UNIVERSITI MALAYA, 50603, KUALA LUMPUR, MALAYSIA
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:13名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
マラヤ大学予備教育部日本留学特別コース
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1982年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1982年
(ロ)コース種別
日本留学予備教育課程
(ハ)現地教授スタッフ
常勤8名(うち邦人2名)、非常勤6名(うち邦人2名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年生149名、2年生153名(2007年5月31日現在)
(2) 学習の主な動機 日本の大学で理工学を学ぶため
(3) 卒業後の主な進路 主には日系企業に就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級程度
(5) 日本への留学人数 2714名(累積)

ページトップへ戻る