世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 学習者を実感できるとき

国際交流基金クアラルンプール日本文化センター
坪山由美子 伊藤愛子 久木元恵

 「あなたは、クアラルンプール日本文化センター(以下、KLセンター)でどんな仕事をしているのですか。」と聞かれることがあります。そんなとき、ひと言で答えられないのが日本語専門家(以下、専門家)の仕事です。教師向けの研修の講師、セミナーの企画者、日本語コースの立案者、教材開発者、よろず問い合わせへの対応者などが「日本語教育アドバイザー」として派遣された私たちの仕事です。国全体の日本語教育に影響を与えるダイナミックな仕事から個別的なものまでさまざまです。自分の任期(2~3年)の間に結果が見えることもありますし、何年か経ってから知ることもあります。例えば、マレーシアの中等教育では、新しい指導要綱での日本語教育に切り替わるのに際して、マレーシア教育省に協力してそのシラバス作成や教科書作成に加わったり、効率的・効果的に授業が進められるように研修を実施したりしています。他方、「生徒から質問されたんですが、うまく答えられません。どう答えたらいいですか。」というメールに返事をすることもあるといった具合です。

 私たちの仕事のいちばん先にいるのは学習者です。マレーシアの場合は、2006年度国際交流基金日本語教育機関調査によると16,788人、対人口比でみるとおおよそ1,500人に1人が日本語を勉強しています。1995年の調査結果(6,091人)と比較すると、10年間で約10,000人増えています。ところが、日本語を教えている教師と関わることがほとんどのため、この学習者に接する機会は意外に少ないです。とはいえ、もちろんまったくないわけではありません。

 そこで、2010年のこのレポートでは、マレーシアの学習者の熱気を肌で感じることができる二つの場をご紹介することにします。

日本語弁論大会

2010年4月の高校生大会のようすの写真
2010年4月の高校生大会のようす

 KLセンターは、学習奨励を目的として、中等学校の生徒対象、予備教育の学生対象、一般の学習者対象の3つの弁論大会を開催しています。

 中等学校大会では、緊張しているのはスピーチをする生徒ばかりではありません。指導してきた先生方も同様のようです。テーマは身近な家族のこと、友だちのこと、興味のある日本のことなどがほとんどですが、審査をしている在馬日本企業の方々を驚かせるようなスピーチも少なくありません。

2009年7月の予備教育大会の写真
2009年7月の予備教育大会
での応援のようす

 予備教育大会は、マレーシアで予備教育を実施している4機関の代表による大会です。各校から集まった観客は合計500人近く。審査員のコメントに「わああ!」という歓声が上がったり、ため息がもれたり。観客は同時に各校の応援団でもあり、スピーチの内容にじょうずに反応したり、プラカードを用意したり、会場の雰囲気はまるでお祭りです。

 一般大会の出場者は、民間学校で日本語を勉強している社会人です。年齢も職業もさまざまな人たちが限られた時間で勉強してきた成果を発表する場になっています。3回目の挑戦という人までいるのはこの大会だけです。

日本語能力試験

2009年8月一般大会の審査待ちの間にした浴衣体験のようすの写真
2009年8月一般大会の
審査待ちの間にした浴衣体験のようす

 マレーシアの日本語能力試験は、クアラルンプール、ペナン、イポー、コタキナバルの4会場で行われていて、2009年の受験者数は約4,000人でした。実施にはマレーシアならではの配慮が必要になります。例えば、一瞬息の止まりそうな音のする雷とそれに伴う激しい雨が珍しくないマレーシア。会場によってはそれが運悪く聴解問題の時間に重なると、音が聞きにくくなるので、それを前提とした音調整が必要になります。また、モスクのスピーカーから聞こえてくるアザーン(イスラム教徒を1日5回の礼拝に招く呼びかけ)にも配慮が必要です。

2008年12月の日本語能力試験会場の写真
2008年12月の日本語能力試験会場

 当日、会場周辺は受験生を送ってきた車がちょっとした渋滞を作ります。そして、受験生たちが直前まで参考書を開いて日本語を確認しているのが例年の風景です。それも、ひとたび試験が始まると話し声は聞こえなくなり、静寂の中、つきそいの人たちはじっと試験が終わるのを持っています。

 おおぜいの日本語学習者が一同に会する二つの場は、学習者に圧倒される場でもありました。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Kuala Lumpur
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
マレーシアの各機関と連携し、日本語教育に関する幅広い業務を行う。現職教師支援としては、教授能力向上のための各種セミナー、教師研修コースの実施、日本語教育分野での情報提供、情報交流を目的とした「マレーシア日本語教育セミナー」「日本語教育研究会・浦和研修報告会」を開催している。また教育省と協力した中等教育機関支援を行っている。学習者支援としては、中上級向けの日本語一般講座を企画運営している。その他、スピーチコンテスト、関係機関の情報収集、ニュースレター「ブンガラヤ」原稿執筆などの業務を行う。
所在地 18th Floor, Northpoint, Block B, Mid-Valley City, No.1, Medan Syed Putra, 59200 Kuala Lumpur, Malaysia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:2名、専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1995年

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