世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) センター講座での試み ~多様な学習者のニーズにこたえるために~

国際交流基金クアラルンプール日本文化センター
藤長かおる 伊藤愛子 久木元恵

 マレーシアの日本語学習者は、22,856人で世界第11位(2009年度国際交流基金日本語教育機関調査)。中等学校(日本の中学・高校に相当)の生徒達、大学で選択/専攻科目として日本語を学ぶ学生達、日本留学を目指し日本語を集中的に勉強している予備教育課程の学生達、さらには働きながら日本語を学び続ける成人学習者とさまざまです。

 クアラルンプール日本文化センター(以下、JFKL)では、このような広がりのあるマレーシアの日本語教育を支援するためにさまざまな業務を実施していますが、そのひとつに、JFKLで行っている講座(学習者対象・教師対象)があります。

日本語講座総合コース~日本語で「できる」ことを増やす~

 「きゃー、今日はパフォーマンステストですね…」

 日常的に日本語を使う機会の少ない受講生にとって、頭のなかに入っている日本語の知識は豊富でも場面に応じて適切な日本語が使えるようになることは至難の業。話したり書いたりすることがいま一つ…と自他ともに認める受講生が少なくありません。

2010年度JFKL日本語総合コースでのインタビュー活動のひとこまの写真
2010年度JFKL日本語総合コースでの
インタビュー活動のひとこま

 そこで、2010年度からJF日本語教育スタンダード(以下、JFスタンダード)を活用し、こうした悩みを解決しようとさまざまな試みを行ってきました。JFスタンダードのCan-do(日本語の熟達度を「~できる」という形式で示したもの)をコースの学習目標に利用し、評価(自己評価・教師からの評価)へとつなげます。たとえば、これは、中級Ⅱクラス(JFスタンダードB1程度)で取り上げたあるユニットの学習目標です。

「ある人物の紹介文を書くために、その人自身について質問をし、情報を確認したり、話を続けさせるような質問をしたりすることができる。(やりとり/インタビューする・受ける/B1)」(JFスタンダードを利用して作成)

 インタビュー活動では、あらかじめ学習した表現やストラテジーを積極的に使用することが求められます。活動が終わると、受講生は達成度を自己評価し、さらに教師からのフィードバックを受けます。受講生と教師とで、何ができるようになって、何がまだ足りないのかを共有することで次の学習につなげることが狙いです。

 このようなインタビュー活動をはじめ、コース中何回かは在留邦人の方にビジターとしてクラスに参加していただき、実際の日本語運用の機会を増やすとともに、お互いの考え方にじかに触れることを促しています。これも、JFスタンダードの「相互理解のための日本語」という理念に基づいています。

 1年間、JFスタンダードを利用したことで、受講生と教師双方の意識改革が徐々に進んでいます。当初は、課題遂行型のタスク、それを評価されることに慣れていなかった受講生からは冒頭のような嘆きの台詞を聞くこともしばしば。しかし、1年が終わる頃には、パフォーマンステストで教師からのフィードバックを得ることで、自身の学習をモニターすることができ、日本理解も以前より深まったという声も聞かれるようになりました。今後も受講生の「日本語で○○ができる」が一つでも増えるよう、教師は「みんなのCan-doサイト」とにらめっこを続けます。

日本語講座特別コース~教師の日本語ブラッシュ・アップ~

 JFKLでは、総合コースのほかに、特別コースとして受講生のニーズに合わせたクラスを多数開講しています。そのうちの一つに、ノンネイティブの日本語教師を対象とした「教師のための日本語」があります。ノンネイティブの先生方からは「普段仕事が忙しくて、なかなか日本語を勉強する時間が取れない」、「周りに日本人がいなくて、日本語を使う機会がほとんどない」という声をよく聞きます。そこで、学校の長期休みを利用して、1~2週間集中して日本語を学習してもらう機会を提供しています。

 初回は2010年11月で、JLPT N3合格を目指すレベルのコースを10日間開講し、中等学校の教師10名が参加しました。1日5時間の授業では、「発音」、「文法の整理」、それから「さまざまな技能を組み合わせた活動」を行ないました。活動では、前の時間に学習した文法項目を使ってゲームをしたり、日本人ビジターと話したりしました。また、教室の中だけに留まらず、日系企業を訪問してインタビューをし、その結果を報告する活動も行ないました。コース終了後のアンケートを見ると、「話すスキルをもっと練習したい」、「生徒に発音を教える方法がわかりました」などの声がありました。このコースに参加することによって、学習者として自分の日本語能力の課題に気づいたり、教師として教え方に注目したりすることができたように思います。

 引き続きレベルや時期を変えてコースを開講し、ノンネイティブ教師のニーズに応えていきたいと思っています。

日本語教師研修コース~教わる側から教える側へ~

2011年度JFKL日本語教師研修コースでの話し合いの様子の写真
2011年度JFKL日本語教師研修コースでの
話し合いの様子

 マレーシアには、これまで日本語の教授法について学ぶ機会のなかった先生方、また、すでに日本語が上手で将来日本語教師をめざしたいという方も少なくありません。このようなニーズに応えようと開講したのが「日本語教師研修コース」です。授業は毎週土曜日の3時間。初級の教え方を中心に、4技能や日本事情の教え方、コースデザインやリソースの利用法まで、全部で30回のコースです。

 参加者には、大学の教師もいれば、日系企業で働いている人もいます。KL近郊の人がほとんどですが、なかには、朝5時のバスに乗って来るという人もいます。

 言葉の背景もさまざま。「母語の場合はどうですか。日本語と比較してください。」と言うと、マレーシア語、広東語、英語、北京語とさまざまな言葉の例が飛び交います。

 「着る、はく、かぶる、かける、しめる、はめる・・・日本語には英語のwearにあたる言葉がたくさんあるんですね。」「マレーシア語はpakaiひとつで済みますよ。pakaiは便利な言葉で、pakai H/P?(ケイタイ持ってる/使っている?)とも言えます。」「北京語は・・・日本語とマレーシア語の中間でしょうか。」「学習者の背景が違えば難しさも違いますね。」

 このコースを修了した人が、将来、マレーシアの日本語教育の輪をさらに広げていってくれることが楽しみです。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Kuala Lumpur
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
教師支援としては、教師対象の各種セミナー、教師研修コースの実施、情報提供・情報交流を目的とした「マレーシア日本語教育セミナー」「日本語教育研究会・浦和研修報告会」の開催など。中等教育支援においては、教育省の要請を受けて教師研修会、教師養成コース(他教科現職教師を対象とした特別コース)などに協力。学習者支援としては、センターにて中上級向けの日本語総合コース、特別コースを多数展開。その他、スピーチコンテスト、ニュースレター「ブンガラヤ」原稿執筆など。
所在地 18th Floor, Northpoint, Block B, Mid-Valley City, No.1, Medan Syed Putra, 59200 Kuala Lumpur, Malaysia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:2名、専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1995年

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