世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本語を通して人と人を繋ぐ

国際交流基金クアラルンプール日本文化センター
藤長 かおる・中尾 有岐・池田 聖子

 マレーシアの日本語学習者は、22,856人で世界第11位(2009年度国際交流基金海外日本語教育機関調査)。クアラルンプール日本文化センター(以下、JFKL)では、相互理解のための日本語教育の実現を目指し、教材開発や教師研修、セミナーや研究会、成人向け日本語講座の実施など、いろいろな業務を行っています。その中から、最近の事例を紹介します。

中等教育の現場から

中等教育用教科書(2年生)の会話例の写真
中等教育用教科書(2年生)の会話例

 マレーシアの中等教育機関の学習者は、どんな教科書を使って日本語を学んでいると思いますか? 生徒が使っている教科書はマレーシアで作られたもので、作ったのもマレーシアの先生方です。教科書には、マレーシアの中学校に通うマレーシア人と日本人の生徒の会話など、マレーシアならではの場面がとりこまれています(写真1参照)。また、文化理解も大切な学習目標で、教室での活動だけでなく、文化祭などのイベントも盛んです。地域によっては、6校が合同で日本語キャンプを行う場合もあります。このように、生徒たちは日本語や文化のイベントを通して、友達との交流の和を広げています。JFKLでは、日本語を学びながら日本とマレーシアの文化理解が深められるような日本語リソースを提供したり、要請があれば、文化イベントへ出向き、巻寿司作り、折り紙、書道、盆踊りなどのお手伝いをしたりしています。これからも、たくさんの人が繋がっていくような支援ができればと思っています。

文化を通して言葉に触れる

「切り絵ワークショップ」の作品の写真
「切り絵ワークショップ」の作品

 JFKLでは、日本語を教えるだけではなく、日本文化に触れる機会も提供したいと考えています。2012年5月には、日本から切り絵専門家をお招きし、「切り絵ワークショップ」を開催しました。このワークショップは、従来の日本文化体験型のワークショップに日本語を取り入れるという、言葉と文化を融合させるJFKLにとっては初めての試みとなりました。

 ワークショップでは、切り絵を使ったグリーティングカードを作成しました。まず、JFKLの日本語教育専門家(以下、専門家)による日本語セッション(30分)では、日本の文字や日本のカード(誕生日カード、年賀状、暑中見舞いなど)を紹介し、参加者に日本の文字に興味を持ってもらいました。そして、それぞれが自分の名前や好きな言葉などから、自分のサインに使うひらがなを決めました。

 それに続く切り絵専門家によるワークショップ(90分)では、切り絵の魅力や切り絵の世界に足を踏み入れることになった経緯などのお話と、制作手順を説明しながらのデモンストレーションの後、参加者がカード制作の作業を行いました。今回は桜や富士山など、用意された数種類のモチーフの中から参加者が好きなものを選んで、カードを作成しました。それぞれが、サインやメッセージを切り抜いたり、カードに貼ったりして、オリジナリティに富むカードを作成しました。

 言葉と文化は深く結びついています。日本語を教えることだけでなく、文化交流を図ることも専門家の役割のひとつです。日本文化に興味を持った人が日本語に触れ、日本語を学習している人が日本文化に出会うきっかけとなるような機会を増やしていきたいと思っています。

日本人サポーターを増やす

日本語初級クラスでの様子の写真
日本語初級クラスでの様子

 JFKLの日本語講座や教師研修を支えているのは、私達専門家だけではありません。いろいろな場面で、マレーシア在住の日本人の方にお手伝いいただく機会が増えてきています。日本語のクラスでは、ビジターセッションだけでなく、入門や初級クラスにはいつも何人かの日本人の方においでいただき、アクティビティに参加してもらっています。浴衣の着付け、和室の紹介、日本の遊びなどのイベントの企画・運営をお願いしたこともあります。これは、JFKLのさまざまなコースやイベントが、マレーシアに住む人と人を繋ぐきっかけになって欲しいと考えているからです。

 JFKLには日本語教授法のコースがありますが、最近、マレーシア人教師に加え、日本人の参加者が増えてきています。いろいろな背景や立場の人が、これまでの学習・教授経験を共有しながら日本語の教え方を考えていくことは、とても楽しいことです。習う側・教える側、日本人・マレーシア人といった枠組みから離れ、自分の学習者に合った教え方を産み出していけるからです。また、それを通じて、人の出会いの場を広げ、日本語や日本に興味のある人のネットワークを広げること、それが国際交流基金の海外拠点で働く醍醐味のように思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Kuala Lumpur
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金の海外拠点のひとつ。教師支援としては、教師対象の各種セミナー、教師研修コースの実施、情報提供・情報交流を目的とした「マレーシア日本語教育セミナー」「日本語教育研究会・浦和研修報告会」の開催など。中等教育支援においては、教育省の要請を受けて教師研修会、教師養成コース(他教科現職教師を対象とした特別コース)などに協力。学習者支援としては、センターにて従来の中上級向けの日本語総合コース、特別コースに加え、2011年度からは『まるごと』を使った初級講座を展開している。その他、スピーチコンテスト、ニュースレター「ブンガラヤ」原稿執筆など。
所在地 18th Floor, Northpoint, Block B, Mid-Valley City, No.1, Medan Syed Putra, 59200 Kuala Lumpur, Malaysia
国際交流基金からの派遣者数 日本語上級専門家1名、専門家2名
国際交流基金からの派遣開始年 1995年
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