世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)「みなと」隊はどこへでもでかけていきます

クアラルンプール日本文化センター
三浦多佳史・芹澤有美

隊長以下派遣中の日本語専門家2名と指導助手を含む5名のメンバーからなる「みなと隊」は司令からの命令があれば、いつでも、どこへでも出動する。携行するのは、「みなと」ポスターと同じデザインのバナースタンド2台、「みなと」紹介動画とパワーポイントを投影するパソコンとプロジェクター、「みなと」や文字学習用アプリ「ひらがな・カタカナ・漢字メモリーヒント」を紹介する何百枚かのちらし、その場で「みなと」に登録してくれた人への販促グッズなど。これらを背中のリュックに収めて、日本や日本語に関心があるけどまだ勉強は始めていない、そんな人がたくさん集まる場所へ出かけていく。

「みなと」隊の携行品の画像
「みなと」隊の携行品

「これから日本への留学を計画しているけど日本語の勉強はまだ始めていない」、「来月日本へ旅行に行くけど日本語はどうしよう」、「日本語を勉強したいけど近くには学校がなくて…」、―そんな人たちを見つけては、「じゃあ、これがいいですよ」と、隊員がPCの画面を見せながら「みなと」のしくみを紹介する。

お客さん「へー、いいですねえ。いくらですか」
隊員「タダですよ」
お客さん「え! それならさっそくやってみたい!」

そうくれば、登録方法を紹介し、その場で登録してもらう。多いときには2日間のイベントで100名以上の人に登録してもらったこともある。さあ今日も一日頑張ったね。たくさんの人に「みなと」を見てもらった。これでまた日本語をオンラインで勉強してくれる人が増えるといいね。そう言って、打ち上げでビールを飲んで、「みなと隊」の一日は終わる―――。

JFにほんごeラーニング「みなと」(https://minato-jf.jp/)は、2016年7月に国際交流基金関西国際センターが開発して公開した、一人で日本語が学べる、世界で初めての、オンライン日本語学習プラットフォームだ。eラーニングのプラットフォームはいわば学校の建物のようなもので、ここを訪れると、そこで展開されているいろいろな日本語コースに登録して、自分で学習を進めることができる。「みなと」にはメインの日本語コースとして、国際交流基金のオフィシャルコースブックである『まるごと日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)に準拠した入門からの日本語コースや、ひらがなやカタカナを学ぶコースなどが常時開講されている。これによって、地理的・時間的・経済的理由などで、これまで日本語の学習を始められなかった世界中の人が、手軽に日本語の勉強ができるようになった。

海外拠点に派遣されている日本語の専門家にはいろいろな業務がある。拠点講座のコース運営や授業担当、教師研修の企画実施、現地での教材開発、そのほか種々のコンサルタント業務などが主なものだが、それら通常業務以外で大切なのが、基金事業の広報だ。

留学生フェアでの「みなと」隊の画像
留学生フェアでの「みなと」隊

「みなと隊」の仕事はこの広報業務の一環で、「みなと」をたくさんの人に使ってもらうため、マレーシア国内で行われる日本学生支援機構(JASSO)や民間団体主催の留学生フェア、大学の日本祭りのような日本文化イベント、大使館などが主催する日本語日本文化紹介イベントなど、特に日本に関心を持つ日本語未習者が多く集まるような場所に積極的に出かけていく。2016年度は8月以降だけで10回以上出かけて活動を行った結果、マレーシア国内の「みなと」登録者数は1000人を超え、世界1位の座をゆるぎないものにしている。広報活動としては他に『まるごと』の紹介も積極的に行っている。マレーシアの、特に大学の日本語教育は、長くても3セメスター80時間ぐらいの短い時間で行われていることが多い。そういった教室では1回ごとの学習成果がCan-doという形で見える『まるごと』が適している。ここでは「まるごと隊」が『まるごと』を持ってどこへでも出かけていく。最近になって少しずつ『まるごと』を使ってくれるところが増えつつある。それに合わせるように『まるごと』のマレーシア版の出版企画も進めている。『まるごと』を現地版にすることで、販売価格を今よりずっと低く抑え、たくさんのマレーシアの人に購入してもらいやすくするためだ。

マレーシアの日本語専門家は日本語のセールスマンとして、営業活動に駆け回る毎日だ。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Kuala Lumpur
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金の海外拠点のひとつ。マレーシアの各機関と連携し、日本語教育に関する幅広い業務を行っている。教師全般に対する支援として、各種セミナー、研修会の立案・実施、「マレーシア日本語教育セミナー」「マレーシア日本語教育研究発表会」の開催など。中等教育機関に対しては、教育省が行う教師研修会や教師養成コースの実施などに協力するとともに教材開発、試験開発支援なども行っている。学習者支援としては、弁論大会の実施、JF日本語講座の運営などのほかに、2017年度からは「みなと」と使ったオンライン講座の実施も計画している。
所在地 18th Floor, Northpoint, Block B, Mid-Valley City, No.1, Medan Syed Putra, 59200 Kuala Lumpur, Malaysia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:1名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1995年
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