世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)オンラインツールを活用して

国際交流基金 クアラルンプール日本文化センター
芹澤 有美、三浦 多佳史

私たちの生活に欠かせないものとなっているインターネット。日本語教育の世界でも、その存在感は年々大きくなっています。昨年度のこの「世界の日本語教育の現場から」で、私たち国際交流基金クアラルンプール日本文化センター(以下、JFKL)の、「JF にほんごeラーニング みなと(以下、みなと)」(https://minato-jf.jp/)プロモーション部隊「みなと隊」の活動をご紹介しましたが、私たちの日々の業務の中でも、「みなと」をはじめとしたオンラインツールを利用することが多くなってきました。そこで今回は、JFKLの「みなと」を使った取り組みの中から、オンラインコースに関する2つの事例をご紹介します。

みなと隊が活動している写真
みなと隊も元気に出動しています

1.『まるごと』講座×「みなと」:ブレンディッドラーニングの試み

JFKLでは、一般向けの日本語学習講座を開講しています。この講座では、国際交流基金オフィシャルコースブック、『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)を使用しています。その中のひとつ、入門A1コースは、日本語を学習したことがない人を対象としたコースで、昨年度は1週間に1回、1回2時間の授業を1年間行いました。1週間に1回という授業頻度について、みなさんはどう思われますか? 私たちが思ったのは、「少ないんじゃないかな…」ということでした。しかし、運営の都合上、これを変えることはできませんでした。そこで私たちは、「オンラインコースを使って、週2回のコースにしよう!」と考えました。「みなと」には、『まるごと』A1レベルのテキストと同じ内容が勉強できる、「まるごとA1-1 / A1-2(かつどう・りかい)自習コース(以下、まるごと自習コース)」があります。私たちは、授業のほかに週1回、このまるごと自習コースを使って自習するよう受講生に呼びかけました。そして、自習したかどうかをチェックするため、授業時にオンラインコースの学習進捗(スタディプログレス)を提示するというルールをつくりました。授業は毎回「スタディプログレス見せてください!」から始まります。各自がスマートフォンの画面を講師に見せるこの習慣が、自習を続けるモチベーションになったようです。「先生、来週の授業は仕事で来られないから、そのぶんオンラインコースで勉強してきます!」と言ってくれる人も。だんだんと各自の自習スタイルが確立されていったようでした。アンケートでも、ほとんどの受講生がこの授業のやり方が役に立ったと答えており、この試みは成功だったととらえています。

今後も、対面の授業とオンラインの自習、それぞれのいいところをうまく活用したコース運営を考えていきたいと思います。

2.日本と日本語の知識が「ひろがる」、オンラインコース作成中!

JFKLの日本語事業の柱のひとつでもある、国内の中等学校で日本語を教える先生方へのサポート。ここ数年は、決まった形式をとらず、その年ごとに最善の方法を模索しながら、教師研修を行っています。

中等教師向け地方研修の写真
2017年に行った中等教師向け地方研修

現在進行中の中等教育支援プロジェクトは、JFKLオリジナル日本語学習コースの作成です。そのコースとは、国際交流基金作成の日本語学習ウェブサイト、「ひろがる もっといろんな日本と日本語」(以下、「ひろがる」)(https://hirogaru-nihongo.jp/)を利用した中等学校教師向けオンラインコース。「ひろがる」に合わせて、自分が興味のあるトピックにまつわる日本文化や日本語を学び、日本語の幅を広げることを目標に、教材を作成しています。オンラインコースという形態をとることで、これまで時間的・地理的制約によりなかなか研修に参加できなかったという先生や、継続的に日本語を学習したいと考えている先生方のニーズにこたえたいと思っています。

「みなと」の利用以外にも、スキットコンテスト(毎年決められたテーマにそって日本語ドラマを作成するコンテスト)のオンライン審査会を行ったり、遠方の方も参加できるよう、クアラルンプールで行われる各種研修会をYouTubeで同時配信したりするなど、新たな試みを実施中。オンライン化の波にのって、マレーシアのあらゆる場所に日本語をお届けできるよう、自分の頭もアップデートしていかなければ!と考える毎日です。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Kuala Lumpur
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金の海外拠点のひとつ。マレーシアの各機関と連携し、日本語教育に関する幅広い業務を行っている。教師全般に対する支援として、各種セミナー、研修会の立案・実施、「マレーシア日本語教育セミナー」「マレーシア日本語教育研究発表会」の開催など。中等教育機関に対しては、中等教師向けの研修会の立案・実施、教師養成コースへの協力などをおこなっている。学習者支援としては、弁論大会の実施、JF日本語講座の運営などのほかに、「みなと」を使ったオンライン講座や、「みなと」をはじめとする国際交流基金作成ウェブサイトの紹介ブース出展等、広報活動も実施している。
所在地 18th Floor, Northpoint, Block B, Mid-Valley City, No.1, Medan Syed Putra, 59200 Kuala Lumpur, Malaysia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1995年
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