世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)経済開放の進むミャンマーの外国語大学に勤務して

ヤンゴン外国語大学
田邉知成

みなさんは最近、ミャンマーという国の名前をいろんな方面で目にする機会があるのではないでしょうか。

この国は近年まで長いあいだ軍事政権が続き、国際社会に対しても閉ざされたイメージを持った国でした。しかし、2011年の民政移管以降は経済開放路線へと大きく舵を切りました。とりわけ2012年11月のオバマ米大統領のミャンマー訪問と、それに先立って通告されたミャンマーへの制裁措置一部解除は、国際社会にミャンマーの開放政策が本物であるとの印象を強く与えました。現在では多くの外国籍企業がこの国に進出し、町にはたくさんのビルやマンションが新たに建設され、経済的活況を呈しています。

報告者の勤務するヤンゴン外国語大学は、1964年に創設された国立外国語学校を前身としています。日本語学科は創設当初より開講し、現在は修士課程、学士課程、一般社会人を対象としたディプロマコース、夜のサティフィケートコースという4つのコースが運営されています。開講当初より日本語の人気は高く、英語科の次に入学が難しかったそうですが、ほんの数年前までは、なぜ日本語を学ぶのかということに確固たる理由もなく、「(大学の所在地が)市の中心部に近いから」というような消極的な理由で入学してくる学生も多かったそうです。ところが、国が経済開放路線に転じてからは、ミャンマーに進出してくる日本企業も一気に増え、日本語科卒業生の求人は引き手数多の状態となっています。日本語が使える就職機会も増え、当然ながら学生たちのモチベーションも上がっています。

修士コースでの学生発表の様子
修士コースでの学生発表

この改革の時代に、大学にも大きな変化の波が起きています。軍政時代に三年制となっていた大学の学士課程は、2011年から四年制に戻りました。また、語学学校を前身とするヤンゴン外国語大学の教員はこれまで修士号を持たなくても教壇に立つことができていましたが、将来的には修士号を持たないと採用されないように変わるようです。ところが、一部の言語を除く外国語学系は国内に修士課程がないため、まずはこの外国語大学に外国語専攻の修士課程を作る必要があります。日本語科でも2009年に修士課程が設置され、まずは現職の日本語科教員を対象にした修士教育がおこなわれてきました。日本の大学院で修士を取得した教師が指導をおこない、今年度で助講師(Assistant Lecturer)以上の現職教師ほぼ全員が修士課程を修了する予定です。来年度からはいよいよ一般の入学希望者を対象にした修士コースが開講します。

教師研修の写真
日本学科内での教師研修の様子

報告者の現在の主な業務はこの修士課程の運営支援です。担当科目としては日本語学系、日本語教育学系の講座を担当していますが、現在の院生はみな現職の日本語教員、つまりは同僚なので、ディスカッションを通じて同僚教師がどのようなことを考え、どのような困難を抱えているのかを知ることができ、非常に勉強になります。この国はこれまで長いあいだ外国との交流が乏しく、日本人との交流機会も限定的であったにもかかわらず、日本語科教員のコミュニケーション能力には素晴らしいものがあります。教員室では日本語での冗談も多く飛び交う明るい雰囲気のなか、28名もの専任教員が自身の教育能力を高めるために日々努力を重ねています。

まだまだ自立した研究者と呼べるような多くの成果を残した教師はいませんが、修士課程で研究した内容を基礎に、さらに自身の研究を進めていこうと考える教師も出てきています。この国の外国語教育の中核機関として、大学では今後、博士課程の設置も進めていく予定ですが、そのためには日本語関係の博士号を持つ教師が何としても必要です。報告者も恥ずかしながらその面では力になることができません。現在の日本語科教員のなかから、日本への研究留学等を実現させてくれる教師が出てくれることを願っています。

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