世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) マニラの日本語教育の諸側面

フィリピン日本語文化学院
佐々木智子

「日本語を学ぶ人々」

日本語教師養成講座の最終段階である実習をやった場所、対象者などを見ていただくと、どんな人がどんな目的で学んでいるかわかると思うので列挙した。( )内は備考である。

日本語教師養成講座受講生が自分のクラス(勤め先)で実習をやった場所:

PIJLCにてフィリピン人日本語教師の写真
PIJLCにてフィリピン人日本語教師と
(養成講座終了間近)

(1)シャングリラ・ホテルなどのホテル内の日本語クラス(受付、レストランのウエイター、ウエィトレスが勤務時間内に学習。大規模ホテルは日本人客が多いので接客のための日本語を学習する)。(2)日系企業-月電、ローム、(勤務時間終了後、日本に出張するポストにある社員)。(3)日系企業大手自動車会社(3級取得を目指して勤務時間内に学習)。(4)セント・ベネディクト大学(私立の富裕な大学。選択外国語の一つとしてのクラス)。日本語センターの初級クラス(仕事帰りの会社員。JBP使用)。(5)フィリピン日本語文化学院の中級会話および初級会話クラス(日系企業の会社員、社長、趣味に生きる人様々)。(6)某銀行内の日本語クラス(仕事に直接関係ない、趣味としてのクラス)。(7)ライシューム大学のサマーコース(早朝7時には50人のツーリズム、ホテルマネージメント学科の学生が集まる)。(8)サウス・イースト・アジアン・カレッジ(ホテル観光学科の学生。エンターテナーとして日本へ行きたいという人が多かった)

日本語教師養成講座独自に開拓したクラス:

マリア・ソコーロ・ロレンゾさんの実習の写真
マリア・ソコーロ・ロレンゾさんの実習。
マカティ市ドミニオンビルにて。トピックは買物

(1)マカティ市立大学(貧困者対象の大学。年間800ペソで授業が受けられる。航空会社勤務の勤労大学生に接客と電話での予約受付などを週1回、30時間。最後にはインタビューとペーパー試験を課し単位認定した。次期実習は週2でセメスターを通して受け持ち、単位も出す正規のクラスとして実施する)。(2)「富士通フィリピン」の社内日本語クラス(勤務時間内に様々な部署から集まる。主にエンジニア。会社に日本人の客が来ることを想定、また、日本へ出張したことを想定して、週1回、全20時間)。(3)マカティ市立イシドロ高校から有志を募ったクラス(蓋を開けたらほとんど全員親戚関係だった。12才から19才まで。一週間後に日本へ旅行するということを想定して週3回、全30時間)。(4)寄せ集めクラス(大学生、運転手さん、銀行員などの大人のクラス。近くの大学の学生に頼んでいたのだがほとんど2回目から来なくなってしまった)などである。ほとんどがゼロから始める初級で、対象者に合わせコースデザインをした。学習者の熱心なこと、積極的なことには感心した。単に乗りが良いというのではなく、彼ら自身気恥ずかしくても、クラスの流れに一生懸命協力してくれているのである。実習授業をしている新米教師を立てながら、自ら学ぶという立派な態度にいつも感謝している。

「日本語教師養成講座の流れ」

 入門、基礎、演習、実習の4段階があり、最初の3段階は2.5時間のクラスを11回行う。実習は受講者の数によって異なるが、一人2~4時間の実習をする。『みんなの日本語初級I、II』を柱に教材教具の使い方、文法、教案の立て方など、日本語についての講義と日本語教授法を平行させていく。演習の段階からは受講生が教案を立て、検討する。実習は、コースデザイン、割り当てから始まり、教案を2~3回書き直し、本番に望む前にはリハーサルをする。実習授業後反省会を開き改善すべき点、良かった点などについて話し合う。「すぐに教えられる」ことを念頭におき、実際的な内容になるよう努めている。授業というものが一番よくわかるのは他の人の実習を参観するときのようだ。受講生に日本人、フィリピン人が混在しているのは、いろいろな授業を見るという点で非常によかった。

「私の知っているフィリピン人日本語教師の実態」

 フィリピン人日本語教師には、お金、物、時間、どれをとってもないものばかりである。時給80ペソ(200円)というのが今まで聞いた中で最低で、普通200ペソくらいだろうか。都心は家賃が高いので、郊外に住む。朝は4時、5時に家を出てジープニー(小型乗り合いバス)を乗り継いで都心まで来る。こういう生活の中では、重い教材を持ち運べないし、教案を練っているひまはないだろう。一週間に20時間以上クラスを持ち、移動に4、5時間かける教師もいる。健康でなければ勤まらない激務である。

 したがって教師をしながら教師養成講座を受講できるのは豊かな恵まれた人か、意志の強い人だと言えよう。

「これからの課題と反省」

 日本語教師の質的向上を図るために研修の機会を増やすことが大事だと思うのだが、特に国公立教育機関がそこの日本語教師に研修のための便宜を図ることが望まれる。例えば、PIJLC日本語教師養成講座を受講する場合、授業料貸与(あるいは免除)をするとか、勤務時間内研修の許可などをしてくれたら日本語教師養成講座は更に意義あるものとなるだろう。そのためには広い視野に立つ国際交流基金とPIJLCが政府(教育省)へ働きかけることが必要となるだろう。3年間この国にいて、目先の仕事に追われ、そういうシステムの上での基礎固めができなかったのが悔やまれる。しかし、100時間以上、長いときは1年以上もかけて講座を修了した人が現場で活躍しているのはとても嬉しいし、報われた思いで一杯になる。

 今後、日本語教師養成講座は同じくフィリピン日本語文化学院で引き継がれていくのだが、教師にも学習者にも負担のない形で続けられることを祈っている。日本語教師の交流の場として、情報源として、あるいは物的リソースとして機能していってほしいと願っている。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 PIJLCはホセ・S・ラウレルIII世元在日フィリピン大使によって、1992年に設立された。学校設立の目的は、日本の大学などへ留学を志すフイリピン人に、必要な日本語能力を修得させることである。主要な講座には、「日本語集中コース」、「日本語教師養成コース」、「上級コース」があり、専門家は「教師養成コース」を担当してフィリピン人日本語教師に主に初級の教授法を実践的に教える。フィリピンで日本語教育について系統立てて学べる養成機関はPIJLCのみ。専門家は講座での日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言を行う他、当講座の受講生及び修了生を対象としたニューズレターを発行したり、勉強会を実施する。
ロ.派遣先機関名称 フィリピン日本語文化学院
Philippine Institute of Japanese Language and Culture(PIJLC)
ハ.所在地 2nd Flr. Philippines-Japan Friendship Center,825 R.Papa St.,Sampaloc,Manila,Philippines
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1999年4月
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1999年4月1日
(ロ)コース種別
「10か月集中」「上級」「翻訳」「日本語教師養成講座」
(ハ)現地教授スタッフ
常勤2名(うち邦人2名) 非常勤2名(邦人0)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   受講者数29(16) ( )内はフィリピン人
(2) 学習の主な動機 「日本語を教えたい」「教授法を学びたい」
(3) 卒業後の主な進路 日系企業の日本語クラス、日本向け研修者養成の組織
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
28名中、1級取得者は2名、
2級取得者は3名、その他は3級
(5) 日本への留学人数 留学の機会は少ない

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