世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) デ・ラ・サールでの日本語学習をプログラムすること

デ・ラ・サール大学
高崎三千代

1.デ・ラ・サール大学と日本研究プログラム

新学期のクラブ勧誘も一休みの写真
新学期のクラブ勧誘も一休み

 本学は、1911年6月にフィリピン初のキリスト教系学校としてマニラ旧市街に創設されました。年齢も様々な125人の学生のためのスペイン語クラスは、間もなく初・中等教育と商業学校へと充実し、現在では8学部から成る総合大学に発展しました。こうした本学の歴史は、コロニアルスタイルの旧館や、廊下に掛けられた卒業生の顔写真に見えるそれぞれの時代、新年度初頭に行われる全学合同礼拝等からも感じられます。
 日本研究プログラム(Japan Studies Program)は、1983年に地域研究専攻の一つとして開講されました。当時、経済成長著しい日本に対する社会・文化的側面への関心から、このプログラムはかなり人気があったようです。1990年に、ヨーロッパ研究、アメリカ研究のプログラムとともに教養学部国際学科(International Studies Department, College of Liberal Arts)に統合されました。本プログラムが、語学科目よりも日本文化・政治等の科目で充実していたのは、以上のような経緯にもよると考えられます。語学科目が充実するためには、各科目担当者とそれらを統合するシラバスが整っていることが必要で、なかなか困難だったようです。その後、一時学習者の減少がありましたが、近年、日本アニメの浸透によって新たな関心から再び増加の方向にあるということです。

2.派遣専門家に期待される役割

 1998年度の国際交流基金の調査によると、フィリピンにおける日本語学習者の75%は大学生ということです。一方、フィリピンの日本語教師(日本文化でなく)のほとんどは、非常勤講師や他の仕事をしながら、中上級の日本語や教授法を学んでいます。そうでない人も2ヶ所以上をかけもちで教えています。時間的余裕のある大学在学中に長期的で安定した日本語学習が受けられれば、現在の苦労は軽減されるだろうという期待は自然なものでしょう。デ・ラ・サール大学日本研究プログラムは、日本語能力試験での成果、大学院進学者の日本語能力向上等を目標として、2002年に日本語科目を充実して学べる科目履修計画を作成しました。これに国際交流基金が専門家派遣の形態で2003年から協力することになったものです。

3.活動の実際と成果

 実はこの原稿を執筆しているのは着任3週目・授業開始2週目です。成果はこれからとして、どのように新規派遣先にエントリーしつつあるかを報告します。

(1)学科会議出席

 授業開始前に開催され、学科全体と各専攻で本年度の方針と活動計画が提案・確認されました。学科の特徴に合わせ、交換留学や外資系企業のインターン先の開拓等が活発に話されていました。会議は録音され議事録が作成されます。

(2)日本研究プログラム担当者会議

 担当者は、筆者を含め3人。今学期開講科目の確認。専門家の職務の優先順位を決める。以下は、赴任1学期目の優先事項。「日本研究プログラム内の日本語・日本語教育関連科目のシラバスの作成」と「語学科目を中心にプログラムとして運営を軌道に乗せる」
 活動計画は「学生のニーズ調査と日本語能力測定」「教材のアップ・デイト」「教師向け専門分野研究支援」「デ・ラ・サール関連校の支援」。会議後、結果を文書化してプログラムコーディネーターに提出。コーディネーターはこれを清書し、学科長、学部長へ提出する予定。

(3)同僚教師の授業見学とティームティーチング

授業が終わった同僚教師と学生の写真
授業が終わった同僚教師と学生

 進度、授業構成、参加者相互のインターアクション、学習スタイル等に注目して見学しています。その授業の漢字教育とアクティビティの部分の一部は、筆者が担当しています。教えながら、ティーム・ティーチングと直接法授業への反応を見たり、学習漢字精選について考えています。授業後に今回の感想や次回の計画を話し合います。何となく分かった感じ(以心伝心)にならないで、クリアにするよう心がけています。

(4)シラバス作成の準備

 授業見学とティームティーチングは、シラバス作成の参考にします。そのほかにそろそろ、ニーズ調査(レディネス調査)と学生の日本語能力チェックの準備を始めようと思っています。

4.今後の課題

 先に「フィリピンの日本語学習者の75%は大学生。在学中に充分学べば日本語教師養成に繋がる」と述べましたが、実際には容易ではありません。大学常勤講師の職位に就くには最低でも修士号の学位が必須、機関によっては学位の領域を厳しく限定します。この背景には、語学教育の専門性やアカデミックレベルにおける位置取りの問題等があると思われます。いずれにせよ、この資格条項のために、圧倒的多数の日本語教師は、生活が安定しないばかりでなく一箇所で落ち着いて自分の専門性を追究したり教材研究をしたりできない現状にあります。将来が見えにくいということで、精神的にも不安定になることが懸念されます。
 このような条件の下、シラバス作成だけでなく同僚教師の進路について相談することも専門家の任務と考えています。そして、学生も目の前の教師から日本語教師というものに夢を抱けるような日本語学習の舞台を作らなければ、動き出した船は引き戻すわけにはいかないのだから、と考えるのです。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
本学日本研究プログラムは、従来、英語による講義科目が中心であったが、2002年に日本語を強化した科目編成に変更した。この変更は、将来、一次文献・資料での研究ができる研究者や、日本語教師候補となる人材の養成をねらいとしている。専門家はプログラムの円滑なシフト移行と強化を支援する。たとえば、中・上級まで一貫性のあるシラバス作成、カリキュラム整備や、プログラム運営に関わる諸業務のシステム化等が期待されている。
ロ.派遣先機関名称 デ・ラ・サール大学
Japan Studies Program, International Studies Department, De La Salle University
ハ.所在地 2401 Taft Avenue, Manila City, Metro Manila, 1400 Philippines
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
教養学部 国際学科 日本研究プログラム
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1983年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 2003年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤2名(うち邦人1名)、非常勤2名(うち邦人0名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   2年生8名、3年生17名、4年生以上5名(全30名)
(2) 学習の主な動機 日系企業への就職・家業に有利、日本留学、日本への関心
(3) 卒業後の主な進路 日本大使館、日系企業、フリーランスの通訳等
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
4級~3級
(5) 日本への留学人数 当専攻からはなし

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