世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) フィリピン大学における派遣専門家の活動(2004)

フィリピン大学
片桐準二

担当授業

ワープロの授業の写真
ワープロの授業

 フィリピン大学では初級から中級(日本語能力試験2級レベル)までの日本語科目を開講している。派遣専門家は主に中級科目を担当するが、各学期の開講科目数と日本語教員数との関係で初級科目を担当することも多い。筆者も初級前半・後半、そして中級と、できるだけ様々なレベルの科目を担当し、フィリピン人学習者の特性を理解するよう努めている。
 中級科目の受講生はだいたい各クラス2名~10名弱と少なく、そのほとんどが日本語を言語学と共に二重専攻として学んでいる。また、フィリピン大学では日本の大学との交換留学が盛んで、中級科目の受講生のほとんどがこれから日本へ留学する学生であったり、留学から帰ってきたばかりの学生であったりする。これが原因で受講生の日本語レベルはまちまちで、毎学期、コース開始時に受講生のレベルをチェックして、それからシラバスを組んでいく。これには難しいところもあるが、決められた項目を教えなければならないという制約がないので、比較的自由に、そして実験的に教えることができて楽しいこともある。
 中級漢字の授業ではカルタやゲームを多く取り入れたり、半紙がないのでコピー用紙を使っての書道大会をしたりしている。また、作文や読解の授業では、フィリピン大学構内に敷設されたJICA (国際協力機構)のJICA-Net施設(日本語の使えるコンピュータがある)を利用することがある。この1年間に、テレビ会議システムを通しての日本の大学生との交流授業を行ったり、日本語コンピュータ演習として、日本語ワープロ、日本語ウエッブサイトの利用、日本語チャット、ウエッブクエストなどを行ったりした。生の日本語を使った学習で学生たちの学習意欲も増している。

現地教員指導

 教員指導には3つの形がある。1つ目は、フィリピン人教員の授業を見学したり、一緒に参加したり、授業前後に授業内容に関して指導したりする活動である。特に今は、初級のみを教えてきたフィリピン人教員に中級科目を担当してもらい、その授業を指導・補助する活動を中心に行っている。教師自身の日本語能力と教授能力の二つを同時に向上させようというプロジェクトである。
 2つ目は現地教員を対象とした勉強会の開催。内容は教授法、日本語文法、能力試験対策など様々だが、ここ最近は教員からの要望が多い1級試験対策を行っている。各教員のスケジュール調整は意外と難しく、勉強会の日時を決めるのに苦労するが、5、6名の教員が集まって一緒に日本語の問題について考えるのは楽しいものである。
 そして、教員指導の3つ目は教材作りである。既製の教材は一般に日本国内での使用が前提となっているので、自主教材作りは海外の現場においては大切な活動である。しかしノンネイティブによる教材作りはやさしいことではなく、教員たちのモチベーションを高めるところから始めなくてはならないのが現状である。そんな中で今年度は初級授業で使う宿題課題集と日本事情問題集(英文)を作ることを話し合いで決めている。

学外の活動

 学外の活動は主に基金マニラ日本文化センターとの協力事業で、日本語教育ワークショップ、日本語能力試験、日本語スピーチ大会などの活動がある。日本語教育ワークショップは年2回マニラ首都圏内で現地の日本語教師を対象として開かれている。派遣専門家はゲスト講師として参加するが、フィリピン大学以外の機関の日本語教師たちと情報・意見交換をする大切な場となっている。日本語能力試験と日本語スピーチ大会では補助的な仕事をするだけであるが、昨年と一昨年の能力試験では首都圏を離れ、南の島ミンダナオにあるダバオ市の会場へ出張し試験本部を監理した。首都圏以外の日本語教育事情を目にすることのできるよい機会である。
 その他、フィリピン人主催の日本語教師会が昨年から活動を進めていて、そのワークショップに講師として招かれたこともあった。

漢字の授業の写真
漢字の授業

 学期中は、週のほとんどをフィリピン大学の教室と教員室で過ごす。学外における活動は、そんな生活に変化を与えてくれるが、それ以上に、様々な地域の人との交流を通して、フィリピン全体の日本語教育の流れを自分の肌で直接感じることを可能にしてくれる貴重な機会である。学内で煮詰まった問題も全体の中で捉えなおすことで新たな方策を見つけることができる。フィリピン大学の派遣専門家の活動は、そんな学外活動における刺激とアプローチで学内での活動を進め、そのフィードバックをまた学外へ還元しようとするものであり、そのような機会がここでは与えられている。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 フィリピン大学は1908年、国立大学としてはフィリピンで初めて創設された、フィリピンを代表する高等教育機関であり、学生の質も、卒業生の影響力もトップクラスにある。日本語教育に関しても比較的歴史は長く、1960年代から現在に至るまで言語学科で継続して日本語科目を開講している。1998年からは日本語が専攻に近い形(言語学と日本語の両方を専門科目として同単位ずつ履修する二重専攻)で学べるようになっており、フィリピンにおける日本語教育の中核機関の一つである。専門家は言語学科での日本語教授、カリキュラムに対する助言、教材作成、現地教師の育成等を行う。
ロ.派遣先機関名称 フィリピン大学ディリマン校
University of the Philippines, Diliman
ハ.所在地 Diliman, Quezon City, Metro Manila, Philippines
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
社会科学哲学部・言語学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1964年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1964年
(ロ)コース種別
言語学科の言語学/日本語二重専攻(プランC)、必修選択外国語
(ハ)現地教授スタッフ
常勤4名(うち邦人0名)、非常勤2名(うち邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   選択外国語150名程度、言語学日本語二重専攻30名程度
(2) 学習の主な動機 日本語・日本文化に対する興味、将来の仕事・留学のため
(3) 卒業後の主な進路 大学院進学、日系企業
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
言語学科プランCの学生3級程度、留学経験者なら2級程度
(5) 日本への留学人数 毎年2~10名程度

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