世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) デ・ラ・サール大学の日本語教育(2004)

デ・ラ・サール大学
高崎三千代

1.日本研究と日本語

新学期のクラブ勧誘も一休みの写真
新学期のクラブ勧誘も一休み

 デ・ラ・サール大学での日本語授業は1983年に地域研究専攻の一科目として開講され、1990年から教養学部国際研究学科日本研究プログラム(Japan Studies Program, International Studies Department, College of Liberal Arts)で開講されています。国際研究学科には、日本研究のほかにヨーロッパ研究、アメリカ研究のプログラムもあります。
 国際研究学は複合科学で歴史も比較的新しい学問ですから、その分野や領域については解釈がいろいろあるようです。大学の中では、政治学科や歴史学科、文学科でも類似の科目が開講されていますから、どのように他学科との差別化を図っていくかが課題になっています。
 その答えの一つとして、学科は「国際機関で活躍する人材の育成」というミッションを挙げています。学生は、「国際法」「フィリピン・○○関係論」といった科目を履修し、その後、国際機関やNGOでのインターンシップ、または海外の大学でのセミナーを受講することとされています。こうして、入学時に学生が漠然と持っていた海外への憧れを確固とした将来像へ発展させようとしています。
 そして、語学もこれら地域の研究や活動のために有効な道具となるでしょう。もともとすべての共通科目と専攻科目は英語で教えられていますが、国際研究学科では、ヨーロッパ研究の学生がフランス語かスペイン語を15単位・約225時間、日本研究の学生が日本語を24単位・約360時間履修することになっています。

2.派遣専門家に期待される役割、担当業務

 日本研究プログラムは、他の二つのプログラムに比べて外国語(つまり日本語)重視の独自の方向を採っていますから、この方向が成果を挙げつつ学科のミッションとも合致することが求められています。専門家の役割は、この点に集約されるといえるでしょう。
 当初、専門家への期待は「学生の日本語能力向上、日本語能力試験での成果、ひいては将来、日本語教師となるであろう人材の育成」という日本語教育に直結したものだったのですが、現在は「プログラム運営への協力と日本語教育を通して日本研究専攻の学生の興味と理解を深化させること」と考えています。
 専門家の業務は、(1)プログラムの運営業務、(2)学内日本語教育関連業務、(3)学外の活動に分けられます。
(1)では、主に日本側機関との折衝が必要な企画について折衝や調整を行っています。日本大使館広報文化センター訪問、学外の識者による講演会、日本文化紹介行事、日本の大学でのセミナー、在フィリピン日系企業でのインターンシップ等が具体的な例です。
(2)では、日本語科目のカリキュラムの標準化、現地教師とのチームティーチング導入、日本の姉妹校との交流会、カリキュラム外の自主開講日本語クラス、教師以外の日本人の授業参加(ビジターセッション)、学生組織「日本研究会」の活動の助言、学生相談業務、等を行いました。
(3)には、国際交流基金マニラ日本文化センターから依頼があった際の協力、現地教師の自主勉強会の参加・講師、現地教師からの個別相談業務等があります。

 日本人・日本側機関と直接接触があるものは、たいていは学生にとって楽しみですが、顔が青ざめたこともあります。一人の学生が日系企業にインターンシップを申し込んだとき、「学生の返事が遅かった。」ということで本人と私だけでなくご両親までお叱りを受けました。ある学生は、日本人学生を週末ホームステイで受け入れましたが、「NO」と言えない日本人の心情が理解できないために、自分の友達宅に夜11時まで引き止めました。こんなとき、「今後は規模縮小」とか「中止」という選択肢が脳裏をかすめます。一瞬おいて、「日本人との実際のやりとり」を軸にする限り、止めないでおこうと思い直します。

3.ふたたび、日本研究と日本語

 日本国内では「日本事情」の科目の再考が論議されているようです。その一因には、留学生や滞日外国人の増加と多様化が挙げられるかも知れません。人の移動と接触の機会が増えるに伴って、その場には誤解や葛藤が生じることも普通でしょう。未知の人や社会・文化と接して、共に何かをしようとするのですから。
 これは、本学日本研究プログラムの学生にとっても同様です。日本との距離が近くなるにつれ、今までになかった実際の接触過程で生じうる困難を乗り越えるために有効な知識や経験が必要になってきました。これからの「日本研究」は、その分野までも扱うことが求められるでしょうし、日本語は具体的道具として日本研究のなかで重要な役割を担っていくと思われるのです。
 話が少し深刻になりましたが、学生たちはみんな日本ファンだといっていいでしょう。2003年5月に姉妹校を訪問したときの学生代表のあいさつです。
 「私たちは、はじめて日本に来ました。どきどきしてうれしくて気持ちがおさえられません。ときどきうるさいかもしれません。そのときはすぐちゅういしてください。それでも何があっても、私たちはしあわせです。」こういうとき、日本のとの実際のやり取りにこだわってよかったと思います。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
本学日本研究プログラムは、従来、英語による講義科目が中心であったが、2002年に日本語を強化した科目編成に変更した。この変更は、将来、一次文献・資料での研究ができる研究者や、日本語教師候補となる人材の養成をねらいとしている。専門家はプログラムの円滑なシフト移行と強化を支援する。たとえば、中・上級まで一貫性のあるシラバス作成、カリキュラム整備や、プログラム運営に関わる諸業務のシステム化等が期待されている。
ロ.派遣先機関名称 デ・ラ・サール大学
Japan Studies Program, International Studies Department, De La Salle University
ハ.所在地 2401 Taft Avenue, Manila City, Metro Manila, 1400 Philippines
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
教養学部 国際研究学科 日本研究プログラム
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1983年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 2003年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤2名(うち邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   2年生11名、3年生13名、4年生以上1名
(2) 学習の主な動機 日本留学、日本文化への関心
(3) 卒業後の主な進路 日本大使館、日系企業、フリーランスの通訳等
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
3級
(5) 日本への留学人数 1名(2003年)

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