世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) フィリピン大学における派遣専門家の活動(2005)

フィリピン大学
洲脇 泰

フィリピン大学の日本語講座

恒例のランタン・パレードの写真
恒例のランタン・パレード

 フィリピン大学デリマン校(University of Philippinesは、よくUPと略称されます)では、社会科学哲学学部にある言語学科で言語学との二重専攻として日本語を専攻するができます。しかしこれらのクラスは、選択外国語として、全学部に開放されており、言語学科の学生に限らず、誰でも受けることができます。年間で、のべ500人ほどの学生が何らかの日本語のクラスに参加しています。2学期制で、各学期におよそ15~17の日本語クラスが開講されています。大まかに、初級前半(日本語能力試験4級レベル)初級後半(3級レベル)中級(2級レベル)とすると、8割が初級前半、そのうちの2割ほどが初級後半に進み、中級まで進む学生は、言語学科で日本語を専攻している学生がほとんどとなり、学生の数は7~8人になります。

担当授業

日本語の授業の写真
日本語の授業

 専門家は、このうち中級を担当することが多いのですが、1クラスは、初級を担当するようにしています。日本語を専攻する学生の日本・日本語に対する興味・関心は勿論高いのですが、初級ではとくに言語や文化とは違った分野を専攻しながら、選択科目として日本語をとる他学部の学生も多く、そこにむしろフィリピン人一般の日本語・日本に対する興味のありようの多様さが見えて、興味深いものがあるからです。
 中級のクラスでは、日本語購読の他に、各学生が興味のあるテーマを選び、日本語で資料を作り(レジュメと用語解説)、発表するという課題にとりくんでもらいました。選んだテーマは、例えば「アスワン(フィリピンの伝説的な妖怪?のようなもの)」「ジープニーに乗ろう」「日本の少女マンガの特殊性」「バロット(フィリピン特有の孵化直前のゆで玉子)について」「ハロハロ(フィリピンのかき氷、のようなもの)の作り方」など、巧まずして日本語によるフィリピン紹介になっています。これは、クラスだけで終わらせるのはもったいないので、日本人の留学生にも参加してもらい、質疑応答を加えたり、ウエブ・サイトに「UP日本語新聞」を作り発表原稿を公開したりもしています。

日本語教師の勉強会

 授業を担当すること以上に重要な仕事に、フィリピン人講師の指導ということがあげられます。これは、フィリピン人の講師による自立的な日本語講座の運営を目指すにあたり最も重要な課題となっています。かれこれ40年以上にわたる国際交流基金からの援助もあって、日本語教育関連の書籍は概ねそろっているのですが、必ずしも十全に活用されていない、という印象を持ちました。そこで、毎週一度講師全員が集まり、現状の問題点を話し合う場をつくり、同時に勉強会を兼ねるようにしました。
 前学期の勉強会で取り上げたのは、数多くある日本語教師用の文法解説書を読みこなし、どう活用するかでした。授業の準備をしていて疑問が出たとき、どの本のどこをみれば解決の糸口がみつかるのか、を探すトレーニングです。
 網羅的なテキストを一つ選び、各講師がある文法項目の担当者となって準備し、輪読する、という形をとり、筆者が教科書からの用例を補いつつ補足説明をする、というやりかたで一冊読み上げることにしました。自身大学院生であったり、他の仕事をもっていたりで、準備も大変だったと思いますが、一度も休まず、一人の欠席もなく、毎週続けることができました。
 日本語教師との勉強会は、学内にかぎらず、フィリピン人日本語教師会の主催するワークショップの講師を務めたり、マニラの大学講師で作るサークルの勉強会(月2回)には必ず出席しています。このサークルはメールリストを作り、ネット上で、例えば「くらい」と「ぐらい」の違いについて丁々発止の議論が繰り広げられたりしていて、こうした議論の「火に油を注」いであげたりしています(もっとやれ、やれ!)。また日本留学中の教師からのニュースが送られてきたりと、大変活発な意見交換の場となることもあります。ほかの大学の講師ともできるだけ連絡をとり、こうした場をもっと広範で活発的なものにするためのアイデアを注いでいきたいと思っています。

学外の活動

 派遣専門家は派遣機関での活動の他に、国際交流基金マニラ日本文化センターが主催するスピーチコンテスト、日本語教育関連のワークショップに参加サポートする仕事もあります。また日本語能力試験実施にあたり会場で試験監督の監理にあたることもそのひとつです。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
フィリピン大学は1908年、国立大学としてはフィリピンで初め て創設された、フィリピンを代表する高等教育機関であり、学生の質も、卒業生の影響力もトップクラスにある。日本語教育に関 しても比較的歴史は長く、1960年代から現在に至るまで言語学科 で継続して日本語科目を開講している。1998年からは日本語が専 攻に近い形(言語学と日本語の両方を専門科目として同単位ずつ履修する二重専攻)で学べるようになっており、フィリピンにお ける日本語教育の中核機関の一つである。専門家は言語学科での 日本語教授、カリキュラムに対する助言、教材作成、現地教師の育成等を行う。
ロ.派遣先機関名称 フィリピン大学デリマン校
University of the Philippines, Diliman
ハ.所在地 Diliman, Quezon City, Metro Manila, Philippines
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
社会科学哲学科言語学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1964年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1964年
(ロ)コース種別
言語学科の言語学と二重専攻(プランC)
選択第二外国語
(ハ)現地教授スタッフ
常勤2名(うち邦人0名)
非常勤2名(うち邦人0名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   選択外国語250名程度
言語学日本語専攻30名程度
(2) 学習の主な動機 日本語・日本文化に対する興味、将来の仕事
(3) 卒業後の主な進路 日系企業、大学院進学
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級~3級
(5) 日本への留学人数 毎年2名~10名

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