世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) デ・ラ・サール大学の日本語教育(2005)

デ・ラ・サール大学
坂本まり子

1.フィリピンの教育制度と日本語教育

デ・ラ・サール大学ユーチェンコホールの写真
デ・ラ・サール大学ユーチェンコホール

 フィリピンの大学1年生は、日本の高校2年生です。といっても、学力ではなく、年齢が、です。フィリピンの教育は6歳で入学する初等義務教育が6年で日本と変わりませんが、その上の中等教育(日本の中学・高校にあたる)が4年間のため、高等教育機関である大学には16歳で入学します。日本の教育制度に比べて大学に入る年齢が2歳若いことになります。
 また、ほかのフィリピンの大学が2学期制を導入しているのに対して、デ・ラ・サール大学では3学期制をとっていて、他大学に比べて1年間の授業日数が20~30%ほど多いのです。これはデ・ラ・サールシステムと呼ばれ、これによって学生は3年で卒業可能になります。したがって、デ・ラ・サール大学に通っている大学生は16歳~19歳で、日本の高校生とほぼ同様の年齢ということになります。
 フィリピンの日本語教育は、高等教育機関で行われ、初等・中等教育機関ではあまり行われていないのが実情ですが、学習者の年齢は前述のように日本の中等教育の年齢です。
 日本語学や日本語教育を専門分野とするフィリピン人研究者がなかなか育たないという現状、教員の質的・量的不足という大きな問題は、このようなフィリピンの教育制度との関わりもあるのでしょう。

2.デ・ラ・サール大学における日本語教育

日本語の授業の写真
日本語の授業

 日本語教育専門家が派遣されているデ・ラ・サール大学の「日本研究プログラム」はヨーロッパ研究、アメリカ研究とともに、国際学科の3本柱になっています。
 国際学科は他の10の学科とともに教養学部に属し、デ・ラ・サール大学は教養学部を含めた6つの学部から成り立っている総合大学です。国立フィリピン大学は別としても、アテネオ・デ・マニラ大学とともにフィリピンにおける2大私立大学と称されています。
 「日本研究プログラム」では日本語とともに「日本史」「日本経済」「日本社会と文化」「日比関係」などを履修し、卒業時には教養学士の資格が取れます。
 日本語授業そのものは歴史も古く、1983年に始まり、その後1990年から「日本研究プログラム」の中で開講されています。2年前の日本語教育専門家の派遣によって、3年間の合計340時間で初級が終了するというシステムになりました。初級を8つのレベルに分け、学期ごとに1レベルずつ上がっていく形です。すべてのレベルが毎学期開講されるわけではありませんが、3年修了時には8レベルまでが終わることになります。
 2005年6月現在、日本語を学んでいる学生は2,3年合わせて2クラス、30名です。2学期が始まる9月からは、1年生の日本語授業が加わるため、3クラス、50名程度になる予定です。

3.派遣専門家の現在の活動

 報告者はフィリピン人非常勤講師との話し合いのもと、シラバスの多少の改訂を含めたコーススケジュールを作りながら2クラス分の授業を担当しています。前任者の方針を受け継ぎ、チームティーチングを導入しました。授業の流れが流動的なので、フィリピン人講師との頻繁なコンタクトが欠かせません。互いのすべての授業を見学し、専門家はコメントを書くことにしています。
 また、能力試験受験希望者8名に対しては、受験対策講座を週1~2回のペースで自主開講しています。

4.展開および将来展望

 報告者は派遣から2か月、授業開始から1か月ということもあり、まだ完全な現状把握ができていませんが、現在の初級レベルのみの講座では、学生のニーズに応えているとは言えないと感じています。能力試験対策を含めた中級レベルの開講が望まれていることを大学側に伝える必要があるでしょう。
 また、来年、日本語教育専門家が派遣されてから初の卒業生が誕生します。卒業生の就職先、進学先、さらには日本語の使用状況などの調査はフィリピンにおける今後の日本語教育のありかたを考えるという観点からも専門家の大切な業務であると思っています。
 教員不足を解消すべく、今秋からマニラの基金事務所でモデル講座が始まります。教員のスキルアップと、日本語の問題を自分で解決できる能力を身につけるための講座です。
 これは基金マニラ日本文化センターの日本語教育専門家の努力によるものですが、フィリピンに派遣されている専門家3人がフィリピン人教師達と力を合わせて運営していく方針です。
 現在は講座のカリキュラム、運営方法などについて、毎週ミーティングを開き、開講に向けた最終段階に入っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
デ・ラ・サール大学は1911年フィリピン初のカトリック系学校として、創設された。現在では有名私立大学の1つとして政財界に人材を送り出している。日本語教育は「日本研究プログラム」の中で開講され、3年間で計340時間行われている。専門家は学内でのコースシラバス、カリキュラム整備やスケジュール管理などコース運営のほか、教材作成や教師育成を行っている。
ロ.派遣先機関名称 デ・ラ・サール大学
Japan Studies Program, International Studies Department, De La Salle University
ハ.所在地 2401 Taft Avenue, Manila City, Metro Manila, 1400 Philippines
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
教養学部 国際学科 日本研究プログラム
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1983年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2003年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤2名(うち邦人1名)、非常勤1名(うち邦人0名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   2年生16名、3年生14名 (全30名)
(2) 学習の主な動機 日本留学、日本への関心
(3) 卒業後の主な進路 日本大使館、日系企業、フリーランスの通訳等
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
3級,4級
(5) 日本への留学人数 1名(2003年)

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