世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) マニラの40日 フィリピン日本語教育の第一印象

国際交流基金マニラ日本文化センター
星亨

マニラ日本文化センター主催のJ-popイベントのポスターなどの写真
マニラ日本文化センター主催のJ-popイベントのポスターなど

 日本語教育アドバイザーとして基金マニラ日本文化センターに赴任して1ヶ月あまりが経ちました。その間、1ヶ月にしてはけっこう多くの方々とお会いし、さまざまなイベントにも参加しました。まだ私自身は外に向かって積極的に踏み出していないにもかかわらず、前任の藤光専門家の置土産とも言うべき、さまざまなプロジェクトやアドバイザーをめぐるネットワークが、まさにここに息づいているといえるでしょう。私がこの1ヶ月でじかに触れたフィリピンの日本語教育と「日本語人」たちをご紹介しましょう。

 まず、最初に紹介しなければならないのは2005年秋からマニラ日本文化センターでやっている「日本語教育研究コース」(通称「Senseibleコース」)。このコースはいわゆる普通の教師研修コースではなく、日本語教育の研究者・指導者となるべきエリートを養成するコースです。フィリピン大学などで教えるバリバリの日本語教師たち9人のメンバーは、(もちろんそれぞれの本業に携わるかたわら)コースを受講するだけでなく、日本語教師フォーラムで発表したり、海外の学会等にフィリピン代表として参加したり、ニュースレター『みりえんだ』の編集に参加したり、日本語教育・学習環境調査を推進したり、八面六臂の活躍です。とくにメンバーのひとりアティーナ(パイ)・カバゾールさんはマニラ日本文化センターに日本語プログラムコーディネーターとして勤務し、アドバイザー業務の強力な助っ人になってくれています。

 ちなみに、この「センセイブル・コース」を教えるのは私のほか、フィリピン大学、デ・ラ・サール大学に派遣の基金専門家のお2人、大学での指導やコースプラン、教務などでお忙しい時間を割いて毎週かけつけてくれます。

 次に、マニラ日本文化センター主催「第3回フィリピン日本語教師フォーラム」に参加した80人の日本語人たち。この中には民間で唯一中級以上のコースを運営しているフィリピン日本語文化学院の先生たちや、ミンダナオ島のダバオで独自の日本語教育を行っているミンダナオ国際大学の学長先生もいました。この大学は地元の日系人会と日本のNPOが立ち上げたというユニークな大学です。それから、半年で日本語ゼロの社員を能力試験3級レベルまで育て上げたIT企業の日本語研修の担当者や、地方で小さな日本語学校を運営して自らも日本語を教えているという能力試験3級に合格した学校経営者。また、フィリピンが大好きで日本から何度も調査や留学でやってくる言語学や日本語教育専攻の大学院生たち、フォーラムで花笠踊りを披露した日本語国際センターの元研修生や、フィリピン中に「よさこいソーラン」ダンスを広めようとしているJOCV(青年海外協力隊)の日本語隊員まで、さまざまな形で日本語にかかわっている人たちに会いました。

マニラサイエンス高校の授業風景の写真
マニラサイエンス高校の授業風景

 そして先日は、一般の高校では現在おそらく唯一の日本語授業実施校であるマニラサイエンス高校の授業を見学してきました。本来はJOCVの日本語教師とフィリピン人の先生のティームティーチングのはずなのに、フィリピン人の先生は2年間一度も現れなかったとか。でも、授業を受ける生徒たちのあの真剣な、きらきら輝く目を見ると、やっぱり中等教育の日本語は、ここでも生きているんだなという思いに駆られます。他の学校でもこれができないはずはありません。この潜在的な情熱をなんとか掘り起こしてフィリピンの中等教育の日本語を生き返らせることができないものかと、つくづく思いました。

 このほかにも、基金本部プログラム「成績優秀者研修」の面接試験でさまざまな機関で学ぶ、さまざまなタイプの学習者と話が出来たこと、フィリピンの日本語教育に真摯な興味を持ってくれた静岡大学の学生さんたちの事務所訪問、インドネシアのバンドンで開かれた「第1回東南アジア日本語教育サミット」への参加など、盛りだくさんの1ヶ月でした。もしこの1ヶ月で日本に帰国するとしたら、「実に充実した1ヶ月でした。」という感想がもてたことでしょう。

 しかし、これらのプロジェクトやネットワークを維持するだけでなく、さらに発展させ、全国レベルに拡大し・・・と、まだまだ課題は山積みです。フィリピンは東南アジアでおそらく初めて日本語の授業が行われた国であるにもかかわらず、日本語を教えている機関数も教師数も学習者数も世界20位以内に入るにもかかわらず、しかも国際交流基金の専門家が30年以上も派遣されているにもかかわらず、日本語教育については、まだまだアジアのほかの国に肩を並べるには至っていないのです。

 長い間英語教育偏重に陥った教育行政の歴史と、それが生み出した日本語や諸外国語への社会の無関心の中で、フィリピンは、アジア諸国の日本語教育における目覚しい発展から完全に取り残されてしまいました。しかし、それではフィリピンの日本語教育は死んでしまったのかというと、勿論そんなことはありません。IT関連企業を中心としたビジネス分野、技術分野での日本語教育のニーズが急速に高まり、企業が独自に日本語プログラムを設けたり、日比経済協力協定の交渉が進む中、日本語学習に対する関心が急激に高まり、日本語能力試験の3,4級の受験者が1年間で一気に2倍になったりと言う現象も起こっています。そして、なによりも、他ならぬ日本のポップカルチャーに精通した若者たちが、日本語そのものに対しても熱い視線を向け始めています。

 まさに、眠っていたフィリピンの日本語教育が今目覚めようとしています。そうです!
今だからこそ、フィリピンの日本語教育に目を向けていただきたいのです。これからアジアで日本語を教えたいとお考えの先生方、是非フィリピンにいらしてください!

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
フィリピンにおいては日本語教育分野の人材育成が求められている。専門家は、マニラ日本文化センター付アドバイザーとして、事務所主催の教師研修会やコンサルティング業務により教師支援を行うほか、研究発表交流会の企画・開催を通じて日本語教育研究振興の足場作りに取り組んでいる。また、現地団体の主催するワークショップやスピーチコンテストなどローカルプロジェクトへの協力や機関訪問を通じて日本語教育関係者のネットワーク構築を図っている。ニューズレター:『みりえんだ』発行(年3回)。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation, Manila
ハ.所在地 12th Floor, Pacific Star Bldg, Sen.Gil J.Puyat Ave. cor Makati Ave. Makati City, 1226 Philippines
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

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