世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 二年間でできたこと、できなかったこと

国際交流基金マニラ日本文化センター
星亨、和栗夏海

 日本語教育アドバイザーとしてフィリピンに赴任して2年。赴任当初、フィリピン日本語教育の課題として(a)日本語教師の養成・研修の充実、(b)自立した全国規模の日本語教師ネットワークの確立、(c)中等教育における日本語教育開始の推進・・・という3つの柱を立てたが、さてこの2年間で何ができたか、何ができなかったかを振り返ってみたい。

 (a)については、マニラ日本文化センター主催日本語教師研修プログラムを段階的に発展させることができた。殊に2007年度後半からは、和栗夏海ジュニア専門家および日本語プログラム・コーディネーターとしてケリー・ビスカラさんが参加してくれたことにより急速に展開した。
 報告者の赴任前の2005年からは「日本語教育研究コース(通称SENSEIBLE Course)」として日本語能力試験2級以上の受講生対象に日本語教育の専門家養成を目的とした講座を開講していた。これは将来のフィリピン日本語教育の主導的役割を担う「コアグループ」の輩出を目指したものであったが、このレベルでの人材はもともと少なく、むしろ日本語教師の主流は能力試験3級程度以下であることに着目し、2007年には3級程度の受講生対象の「日本語教師ブラッシュアップ・コース」を4期にわたって開講した。このコースには正にフィリピン日本語教育の現場を担う中心的教師が多く参加し、専門家と現場とのインタラクションが活発化するという相乗効果もあった。
 さらに2007年秋からは、ベテラン教師の再研修のみでなく、若手教師の養成も含めた総合的研修システムへの大改革を行った。新システムでは日本語運用力の研鑽プログラムと教授技術の研修プログラムを分断し、前者には能力試験4級以上の受講生対象の「せんせいの日本語」1および2、同3級以上対象の「せんせいの日本語」3~4、そして2級程度対象の読解・作文中心の「上級技能研修」コース、そして後者には新人教師対象の「日本語教育実習講座」、現役教師のブラッシュアップを目指した「日本語指導法リフレッシュコース」1および2、そして日本語教育の専門知識の概観を目的とした「日本語教育学概論講座」が含まれる。これによって、当初1コースのみであった研修プログラムが年間合計9コース開講する総合研修システムが開始された。

ヴィサヤ地域の日本語教師たち。「ヴィサヤ日本語教師会」結成へ。の写真
ヴィサヤ地域の日本語教師たち。
「ヴィサヤ日本語教師会」結成へ。

 (b)の日本語教師ネットワークの形成、強化に関しては、マニラ首都圏については上記のような研修プログラムの充実に伴う相乗効果に加え、前任専門家時代に開始した「フィリピン日本語教師フォーラム」の年2回開催、月例「日本語教育研究交流会」(通称「JFMレクチャーシリーズ」の継続のほか、現場教師による勉強会の自立開催を最終目標とした「ウィークリー・ワークショップ」の開催により現場教師と専門家のみならず現場教師同士の連携が進んだ。さらには、これらのプログラムを通じて基金マニラ日本文化センターと「フィリピン人日本語教師会」(通称AFINITE)との連携も(2007年11月に「日本語教師フォーラム」を共催するなど)強化された。
 マニラ首都圏以外では、セブ地域の日本語教師を中心に、ボホール島、パナイ島、ネグロス等などいわゆるヴィサヤ地域の各地で活動する日本語教師のネットワーク確立を標榜して、2007年7月にセブ市でセミナーを実施し、あわせて広域ヴィサヤの教師ネットワーク発足を呼びかけた。これを受けて、同年10月に「ヴィサヤ日本語教師会」(略称ANT-V)が発足した。ただし、彼らがどのような活動を展開するかは今後見守っていかなければならない。
 ミンダナオ地域についても、ダバオのミンダナオ国際大学の日本語教師中心に同島における広域日本語教師ネットワーク確立を働きかけているが、今のところ具体的な動きが見られない。

「日本語キャラバン」折り紙を楽しむ高校生。の写真
「日本語キャラバン」折り紙を楽しむ高校生。

 (c)日本語教育を実施している高校がフィリピン全国で10校に満たないという現状から、中等教育における日本語教育開始の下地作りは赴任当初からの懸案事項であった。そこで、2007年夏ごろから、地域の教育行政当局を通じ、マニラ首都圏の公立エリート校である「サイエンス高校」に働きかけ、日本語、日本文化に対する生徒の関心と日本語教育ニーズの掘り起こしを狙った出張ミニ日本文化イベント「日本語キャラバン」を2007年11月より2008年2月にかけてマニラ首都圏の7校(うち6校はサイエンス高校)で実施した。各校で日本語模擬授業、折り紙ワークショップ、よさこいソーランダンス・花笠音頭、それに日本雑学クイズを行った結果、すべての実施校で大きな反響を得、学校当局は異口同音に「ボランティア教師を送りこんでくれれば、すぐにでも日本語授業を開始したい」との意向を述べた。
 その後、日本政府による「21世紀東アジア青少年大交流計画(JENESYS Programme)」の一環として実施される「若手日本語教師派遣プログラム」で派遣されるボランティア教師を、キャラバン実施校全校に送り込むことが決定された。これによって中等教育における日本語教育開始の下地作りが次の段階へ進むことができたことは幸運なことである。JENESYS若手日本語教師による高校日本語授業については基金専門家が全面的にサポートしていくと同時に、第2期以降の「日本語キャラバン」実施も準備中である。

 以上の3つの分野については、その結果はすぐに現れないにしても、改革の第一歩は少なくとも踏み出せたと思う。ただし、このほかにも、当然ながら積み残した課題は多い。例えば、州政府が肩入れして日本語教育が注目されているカマリネス・スール州やその他の地域を包括したネットワーク作り、日本語を使える人材のニーズが急速に高まっている産業界の要請の高さと日本語教育の現実とのギャップをどう埋めていくか、そして日本語・日本語教育の専門家養成の可能性にほど遠い高等教育における日本語プログラムの充実をいかにサポートしていくか等々が挙げられる。(文責・星)

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
フィリピンにおいてはなによりも日本語教育分野の人材育成が求められている。日本語教育専門家は、マニラ日本文化センター付アドバイザーとして、事務所主催の教師研修やコンサルティング業務により教師支援を行うほか、日本語教師フォーラム(年2回)や月例研究交流会の企画・開催を通じて日本語教育研究振興の足場作りに取り組んでいる。また、現地団体の主催するワークショップやスピーチコンテストなどローカルプロジェクトへの協力や機関訪問を通じて日本語教育関係者のネットワーク構築を図っている。ニューズレター:『みりえんだ』発行。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation, Manila
ハ.所在地 12th Floor, Pacific Star Bldg, Sen.Gil J.Puyat Ave. cor Makati Ave. Makati City, 1226 Philippines
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名、ジュニア専門家:1名

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