世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 広がる!深まる!日本語の輪

国際交流基金マニラ日本文化センター
新見康之 大舩ちさと 和栗夏海

①フィリピン最新情報 ~中等教育における日本語の導入と展開~

 フィリピンは歴史的な経緯(スペイン支配下約300年、その後アメリカ支配下約50年)がこの国の言語事情に大きな影響を与えており、国語であるフィリピノ語の確立と、アメリカ支配下により根付いた他国に優る英語力の維持に重点が置かれ、日本語を含めた他の外国語教育については大きな動きを作りにくいのが実情である。

 しかし、昨年2009年、中等教育レベルで新たな動きがあった。フィリピン教育省が日本語・スペイン語・フランス語を試験的に外国語選択科目としてフィリピンの公立高校で実施することを正式に発表したのだ。国際交流基金マニラ日本文化センターに対して、フィリピン教育省から教師養成等の支援要請があり、2009年4月・5月に現役高校教師(英語科・社会科教師中心)19名を集め、初の教師養成講座を実施した。当センターから日本事情・文化を中心としたカリキュラムを提案し、研修を受講した19名は21世紀東アジア青少年大交流計画(JENESYSプログラム)で派遣された4名の若手日本語教師と共に、マニラ首都圏の高校で日本語・日本文化の授業を開始。11校約1350名の高校生たちが日本語を学び始めた。公教育の中に日本語が位置づけられ、これだけ多くの学習者が学び始めたというのは画期的なことである。しかしながら、今後の更なる発展のためには日本語を含むカリキュラムを策定する必要がある。そこで、2009年10月、大学で日本語教育に従事するフィリピン人教師と当センター日本語教育専門家で「フィリピン中等教育教材作成チーム」を立ち上げ、教材開発に着手している。2010年4月・5月の第2回ウ師養成講座には、前年度より多い14校29名の高校教師が参加し、新規に作成した教材を用いて教え方を学んだ。6月からは昨年よりも更に多くの高校生たちが新しい教材で日本語を学ぶことになっている。来年度は地方展開も見据えており、フィリピンの高校における日本語の輪が更に広がるだろう。これからも、高校生たちの学びを見守っていきたい。

②当センターの従来からの継続的活動と成果

 中等教育レベルで日本語導入が開始された一方で、大学や民間の学校での日本語学習の機会が限られている現状は変わらない。大学では、初級前半に到達しないレベルの日本語講座がほとんどであり、民間機関においても中級以上を学べる日本語学校は数えるほどしかなく、教授法を学べる学校にいたってはごくわずかである。つまり、日本語教師に必要な日本語力や教授法を学ぶ機会が極めて少ないのである。

 このような状況を打開すべく、2005年以降当センターの活動は「日本語教師の育成」に重点をおき、「日本語力向上及び教授法の講座」、「教師間ネットワークの構築」、「定期的かつ継続的な勉強会やフォーラム等の実施」を具体的な事業として行っている。その中でも将来のフィリピンの日本語教育を担う教師の質・量の底上げを図り、フィリピン人教師の多くを占める初級修了レベルの教師対象の研修を最重点課題として取り組んでいる。

 教授法コースでは基礎を学ぶ、実習を中心にした「日本語教授法実習講座」と、その修了者を想定した「テーマ別教授法講座」を実施している。後者は教授法のテクニックやアプローチ、教える際の文法の重要ポイントの整理など、各回テーマを設けて様々な視点から教授力を身につけることを目標としている。

 日本語力向上コースはここ数年、初級コースを修了した者が増えてきたことを背景に、2010年度はフィリピンで最もニーズがあると思われる中級コースを開設し、年間を通してコミュニケーション力を中心にした総合的な日本語を学習できるようにしている。当センターは日本語教師の育成を目的にしているため、コース受講者は日本語教師または教師志望者に限定している。したがって、日本語力向上コースでは、受講者自身の日本語力向上だけでなく、自分たちが教える学習者に必要と思われる日本語スキルも取り入れている。

 教授法を学ばずに教師の仕事を始めることができるフィリピンの状況の中で、「教師として、または教師になるために教授法を学びたい」という意欲と自覚のある人たちを今後も育成していきたい。

③首都圏の教師ネットワークと当センターとの協働

高校の日本語教育を支える教師たちの写真
高校の日本語教育を支える教師たち

 首都圏を中心とするフィリピン人日本語教師で組織されているフィリピン人日本語教師会(AFINITE)はここ数年、幹部の意欲により活発な活動を行っている。当センターと目指す方向性を同じくし、教師研修や日本語教師フォーラムなどにおいて連携が強化されてきた。2008年から11月の当センター主催日本語教師フォーラムはAFINITEとの共催として1泊2日の研修会の形式をとり、全国から参加した教師たちの学びとネットワーク形成の場としている。

 大勢で集まってみんなで楽しむことを好むフィリピン人たちにとって、共に学ぼうとする環境作りは大切である。

④地方の教師ネットワークと当センターの支援

セブでの教師研修の写真
セブでの教師研修

一方、地方においては限られたリソースしかない環境で、首都圏以上に教師育成の問題がある。中南部の中心地セブ市(セブ島)においてヴィサヤ地域日本語教師会(ANT-V)が2007年に結成されたが、2009年から当センターがマニラで行っている教師研修(教授法実習講座とテーマ別教授法講座)をANT-Vと連携しながら同地でも開始した。この教師研修を行うことは、同時にセブ地域のネットワークの活性化を図る意味合いもある。セブ周辺島在住の教師の研修機会にもなり、研修参加者を中心にしたANT-V主催の月例勉強会などの自主活動へもつながりを見せている。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Manila
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
フィリピンでは日本語教育分野の人材育成が求められている。日本語教育専門家は、マニラ日本文化センター付アドバイザーとして、事務所主催の教師研修や日本語教師フォーラム(年2回)、全国スピーチコンテストなどの企画・開催、現地団体の主催する日本語関係のプログラムへの協力などを行っている。また、本年度の最重要課題である中等教育における日本語教育導入・展開プロジェクトの下、現役高校教師対象教師養成講座や教材作成、巡回指導などを行っている。ニューズレター:『みりえんだ』発行。
所在地 The Japan Foundation, Manila 12th Floor, Pacific Star Bldg, Sen.Gil J.Puyat Ave. cor Makati Ave. Makati City, 1226 Philippines
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:2名、専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2000年

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