世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)国際交流基金マニラ日本文化センター

国際交流基金マニラ日本文化センター
EPA研修チーム: 池津丈司・小川靖子・國頭あさひ・宮﨑さとみ
中等教育・教師養成チーム:森田衛・小林学
講座・教師養成チーム:武井康次郎・石田英明

(1)EPA候補者の自律学習を支援する

みなさんは「自律学習」ということばを聞いたことがありますか。

日本語教育の現場では、学習者の自律学習の支援の取り組みはあまり多くはないようですが、私たちが運営しているEPA訪日前研修では、フィリピン人看護師・介護福祉士候補者が日本で働きながら国家試験に合格できるように、研修全体を通して自律学習支援を行っています。日本へ行く前に自己学習の習慣を身につけ、自分の学習計画を立てたり振り返ったりできるようにすることは、働きながら国家試験の合格を目指すためにとても重要なことなのです。

実際に教室に入って候補者を支援するのは、日本人と現地人の日本語講師です。私たち派遣専門家はその自律学習支援の枠組みをデザインしています。候補者の教室での様子や、成績の状況を見ながら、講師にどんなアドバイスをしてもらえば一人ひとりの自律学習につながるかを毎日考えています。

例えば、候補者の中には、自分の学習を振り返る習慣がなかなか身につかなかったり、勉強の仕方が分からなくて語彙リストを眺めているだけの候補者がいます。今年の具体的なアプローチとして、練習問題を解くことや、語彙や文章をノートに書いてまとめることなど、手を動かす作業を増やしてみるようにアドバイスしてもらいました。今はその成果が出るのを待っているところです。

私たちの蒔いた自律学習の小さな種が、3年後、4年後の国家試験で大きな花を咲かせる日を夢見ながら、これからも粘り強く支援していきたいと思っています。

ポートフォリオを見せ合う候補者とそれを見守る講師
ポートフォリオを見せ合う候補者とそれを見守る講師

(2)10回目を迎えたクイズビー

フィリピンで日本語を学ぶ高校生を対象にしたクイズ大会「高校対抗日本語クイズビー(Quiz Bee)」が今年もAFINITE(フィリピン日本語教師会)との共催でマニラ市内の映画館で開催されました。各校から選抜された二人が一組となって日本語や日本に関する質問に答えていきます。出場する生徒たちは学校代表として戦うので表情は真剣そのものですが、答えが当たったときには全身で喜びを表現します。出題範囲は日本語、時事問題、歴史、芸能、スポーツ、そして日本の習慣やマナーなど多岐にわたることから、互いが持っている知識を補いながら答えを導き出していきます。

クイズビーを担当する中等チームでは、大会の数か月前からクイズの問題を作りはじめます。問題を作成するにあたっては、あまり知られていない日本の姿を紹介するだけでなく、問題の中に解答のヒントを入れて、その場で生徒が話し合って正解を導き出せるような仕掛けをしています。ジャンルの偏りはないか、問題が難しすぎず易しすぎないかなど、問題文や選択肢の表現を細かく吟味した上で、出題する順番を決めていきます。そして、司会者と綿密な打ち合わせを重ねて本番を迎えます。

大会当日はAFINITEの先生方だけでなく、大学で日本語を学んでいる学生がボランティアスタッフとして運営をサポートしてくれるほか、多くの企業・団体から賞品の提供を受けています。このように、多くの方々の協力を得てクイズビーは10回目を迎えることができました。

クイズに答える生徒たちの写真
クイズに答える生徒たち

(3)悩める日本語教師支援

現在フィリピンでは外国人技能実習生として、日本へ行く人が増えています。外国人技能実習生とは、日本の会社で技術や技能を身につけるために日本に行く人たちです。2017年の11月に技能実習生の介護資格も認められ、フィリピンから日本へ行く人がさらに増えることが予想されています。急激な学習者の増加に対し、教師の供給が間に合っていなく、「N5に合格したから、N5を教える」という教師も少なくありません。

そこで、教師の日本語力のアップと教え方の向上の二つを同時にできないかと考え、N5以上の教師を対象に「みんなの日本語ブラシュアップコース」をはじめました。『みんなの日本語』を使用したのは、多くの機関で使用されているからです。しかし、ふたを開けてみると、参加者は思ったほど多くなく、申し込んだのはN3~N1の日本語力の高い教師ばかりでした。宣伝活動が足りなかったこともあるかもしれませんが、我々が来て欲しいと思っていた教師たちが、このコースを必要と感じていなかったからかもしれません。

我々は、様々な教師に日本語力もアップして欲しいし、いろいろな教え方も知って欲しいと思っていますが、なかなか伝わらないのが現状です。様々な教え方を知ったうえで、それを必要ないと考えることもあると思います。しかし、もし情報さえ入れば、新しいことを知りたいと思う教師も必ずいると信じていますが、知って欲しい人に思うように情報が伝わらないので、日々悩んでいます。

ペアワークをする参加者の写真
ペアワークをする参加者

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Manila
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
日本語専門家は、三チームに分かれ業務を行っている。まず、講座・教師養成チームでは、教師研修や日本語教師フォーラム(年2回)、一般向け日本語講座、全国スピーチコンテストなどを実施している。次に、中等教育チームでは、フィリピン教育省と連携し、他教科現職教師を対象とした日本語教師養成講座、巡回指導、進行中の教育改革K to 12にあわせた教材の追加作成や改訂を担当している。また、2014年からは日本語パートナーズや同カウンターパート教師への支援も行っている。最後にEPAチームは、EPAに基づくフィリピン人看護師・介護福祉士候補者日本語予備教育事業に取り組んでいる。ニューズレター『みりえんだ』発行。
所在地 The Japan Foundation, Manila 23rd Floor, Pacific Star Bldg, Sen.Gil J.Puyat Ave. cor Makati Ave.
Makati City, 1226 Philippines
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:4名、専門家:4名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2000年
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