世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 中等教育機関における第三言語としての日本語

シンガポール教育省語学センター
高澤美和子

重視される教育

資源の乏しいシンガポールにとって優秀な人材の育成は、国家の繁栄を持続させていく上で、重要な課題である。そのため、政府も教育には力を入れており、小学校から選別試験を行い、それぞれの生徒の能力に合った進路に進むよう指導している。

そのような選別制度のなかで生きていかなければならないシンガポールの子供たちに厳しい競争社会で生き残る術を身に付けさせるため、親たちは、小学校に入学する以前からその教育に熱心である。選抜された生徒たちは、中学4年生で、ケンブリッジ試験(シンガポールのシラバスに合わせてイギリスケンブリッジで作成される統一試験)のOrdinary Level、高校1年生では Alternative Ordinary Level、高校2年生では Advanced Levelの試験を受験し、これらの試験の結果によって、その後の進路を決定する。

シンガポール教育省語学センターでの言語教育

中学2年生 授業風景の写真
中学2年生 授業風景

日本、フランス、ドイツへ留学させる生徒の言語教育を目的に1978年に設立された語学センターは24年目を迎えた。

多民族国家であるシンガポールでは二言語教育政策を取っているため、子供たちは小学校から英語と民族別の母語(標準中国語、マレー語、タミル語)を学習している。その進路は小学校卒業試験によって決定されるが、この試験で上位10%以内に入り、かつ、英語、民族別の母語の試験で優秀な成績を修めた生徒が、語学センターで第三言語として日本語、フランス語、ドイツ語のいずれかを学習できる。語学センターは、まさにシンガポールのエリート教育の象徴の一つとも言える。

現在、語学センターでは中学生から高校生まで約1200名が日本語を学習している。

最近の生徒の学習動機は、アニメや漫画など、大衆文化の影響によるものが多く、三つの言語の中で日本語が最も人気のある言語である。

生徒たちは放課後、語学センターに通ってくる。授業は週2回、一回2時間で、年間時間数は約100時間程度である。

中学4年生終了時には日本語能力試験3級と2級の中間レベル程度に到達するため、その授業の進度はかなり速く、宿題も多い。他の科目や課外活動の負担も重いため、残念ながら、途中でやめていく生徒も多い。

中学4年生終了後は高校で日本語を勉強することもできる。ラッフルズ高校には、2年コースの特別専修プログラム(Language Elective Program)があり、日本語を学習できる。このプログラムの設立目的は、2年間のプログラム終了後、直接日本の大学に入学できるレベルの日本語能力を身に付けるためで、その到達レベルは日本語能力試験1級程度である。1年間の日本語コース(Alternative Ordinary Cambridge Examination Course) もあるので、こちらを選択することもできる。

また、ラッフルズ高校以外の高校に進学した生徒は、語学センターで1年間(2年間続けることも可)日本語の学習を続けることができる。

2002年4月現在、日本語学科の教師は常勤14名、非常勤1名で、このうち日本人以外の教師が11名、語学センター修了生は6名である。シンガポールでは政府奨学金(日本文部科学省奨学金を含む)で留学した場合は、一定期間、公職に就く義務が課せられているため、優秀な学生が、日本語教師として語学センターに着任している。

日本語教育専門家の業務

高校生 授業風景の写真
高校生 授業風景

2002年5月現在、語学センターでの専門家の業務には高校生クラスの授業担当、シラバス・カリキュラム作成、教材、試験問題の作成指導がある。また、IT教育を奨励しているシンガポールでは、語学教育においてもITを取り入れた授業が行われている。最近ではコンピュータのネットワーク化も進んでおり、パワーポイント等を使った授業から、簡単な自主学習教材の作成、学科ごとのホームページ作成などの指導も専門家の仕事となっている。その他、語学センターの現地教師の自己研鑽の場をという要望に答え、専門家が中心となり、週に1度程度勉強会を行っている。

シンガポール全体を対象とした業務では、日本語教育セミナーの企画開催、日本語教師会設立、運営援助などがある。シンガポールには大学、ポリテクニック、教育省語学センター、ラッフルズ高校など、公的機関での日本語教育をはじめ、星日協会など一般成人向けの民間日本語教育機関も数多くある。以前はこれらの機関の教師交流の場が少なく、年に1度開かれるセミナーで顔をあわせる程度だったが、2001年に日本人会の支援のもと、ポリテクニックの教師が中心となり、シンガポール日本語教師会が発足し、今後の活動が期待される。2002年5月には、タマセクポリテクニックが中心となり、同校の教師を講師とし、ITを使った教材作成についてのセミナーが開催された。

2002年6月からは、専門家の任期交代に伴い、語学センターを中心とした業務だけでなく、シンガポール全体の日本語教育全体を視野に入れたアドバイザー的な業務が期待されている。専門家が中心となり、それぞれの教育機関の特徴を生かした現地主催のセミナーや勉強会を開催していくことは、シンガポール全体の日本語教育の発展に役立つであろう。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
語学センターは教育省直轄の公的機関として、中学生・高校生を対象に第三言語としての日本語教育を行っている。第三言語(日本語、フランス語、ドイツ語)を選択できるのは、小学校卒業試験の上位10%以内の生徒だけである。現在、語学センターの現地日本語教師11名のうち7名が語学センターの卒業生であり、今後も、平均1-2年に1名ずつ国費留学生として日本に留学している卒業生が日本語教師として戻ってくる予定である。また、卒業生の中には日本の大学を卒業後、教育省以外の政府機関、企業でも活躍している。専門家は日本語講座での日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言、現地教師の育成を行う。
ロ.派遣先機関名称 シンガポール教育省語学センター
Ministry of Education Language Centre
ハ.所在地 11, Bishan Street 14 Singapore 579782
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
日本語学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1987年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1987年
(ロ)コース種別
課外活動
(ハ)現地教授スタッフ
常勤14名(うち邦人 4名)、非常勤1名
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   中1:551、2:311、3~4:約150、高1:21
(2) 学習の主な動機 日本文化への興味・関心、親の勧め、職業上有利だからなど
(3) 卒業後の主な進路
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
中学4年生 3級程度
高校1年生 2級程度
(5) 日本への留学人数 13名

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