世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) J-ドラマの好きなエリート達

シンガポール教育省語学センター
小野明美

第三言語を学ぶ生徒達

休憩時間、元気一杯の中学生の写真
休憩時間、元気一杯の中学生

国土が狭く、天然資源を持たないシンガポールでは、人間が国のもっとも重要な資源とみなされ国の発展に必要な人材を効果的に育成していく手段として、生徒の能力や適性に基づいた学習コースへの振り分けが初等教育の段階から行われている。

小学校卒業試験で上位10%の成績を修め、かつ、英語と母語(中国語・マレー語・タミル語)においても優秀な成績を修めた子供だけに、シンガポール教育省語学センターで「第三言語」を学ぶ資格が与えられる。

センターで学べる第三言語は「日本語」「フランス語」「ドイツ語」のいずれかであるが、J-popや漫画、ドラマの影響で、日本語は相変わらず第1位の人気を誇っており、毎年600名強の新1年生が期待に胸を膨らませてやって来る。

さて、こうして日本語を学び始める生徒達だが、放課後、週に2回、バスあるいは電車で語学センターにやって来て、1回2時間の授業を続けていくことは簡単ではない。中学1年で600人いた人数は、300人、150人と学年を追うごとに半減していく。

ドロップアウトについては、少数精鋭教育を目指す過程では、仕方のないことと捉えられており、やめたいという学生を引き止めることはない。第三言語はあくまでも選択科目の1つであり、他の必修科目の成績が下がれば第三言語の学習をやめさせられる場合すらある。

大使杯授与の写真
大使杯授与

中学4年終了後、ラッフルズ高校へ進学した学生は、そこで日本語の特別専修プログラムを学ぶことができるが、それ以外の高校へ進学した場合は、センターでもう1年日本語を学ぶことになる。中学1年生、13歳で入学してきた時は、本当にまだまだ子供だった生徒達が、高校1年生、17歳の立派な若者になって卒業していくのを見るのは感無量である。

2003年5月30日、センターでは第21回Prize Presentation Ceremony が開催された。毎年、成績最優秀者に各国大使杯が贈られることになっており、今年度、日本語学科は、Jeffrey Setiawan君に槇田邦彦大使から大使杯が贈られた。すばらしいスピーチを披露したJeffrey君を5年前日本語へ誘ったのもアニメ「マクロス」とドラマ「星の金貨」だったという。

日本語教育専門家の業務

2万1千人弱もの日本人が暮らすシンガポールの日本語教育界は、日本人日本語教師の多さが特徴の1つである。しかも、2~3年で日本に帰国する人、シンガポール人と結婚し永住権を持った人、いずれは永住権を取りたいと考えている人、10年近く滞在しているがそろそろ日本に帰ろうと考えている人と、内訳は複雑だ。私は、これがシンガポールの日本語教師の連帯感の希薄さと関係があるのではないかと思っている。

「シンガポール日本語教師の会」は、2001年、前専門家やポリテクニックの日本語教師が中心となって設立された。しかし、関係者の努力にもかかわらず、現在、会員はわずか40名、しかも会員が積極的に会の活動に参加するという雰囲気にはなく、例会参加を呼びかけても殆ど反応がない。会の運営方法にも改善すべき点はあると思うが、せっかく教師会があるのに、これではあまりにもさびしい。

とりあえず、会の存在をアピールしようと、教師会関係者の協力を得て、今年2月から、2ヶ月に1回程度の割合で教師会ニュースレターの発行を始めた。さらに、3月には、国内の主な日本語教育機関の代表に参加してもらい、例会を開くこともできた。教師会代表の尽力で9月にはスリーエーネットワーク協力のセミナー開催も決定している。

まずは、教師会の認知度を高め、存在意義を明らかにし、会員の獲得、会の組織化を図っていきたいと考えている。私の任期中に、教師会主催活動として、ワークショップ、勉強会の開催が根付くよう働きかけていくつもりだ。

週1日を、センター外の仕事に当てているが、専門家の主な活動の場はやはり語学センターである。センターでは、高校生クラスの授業担当、カリキュラム・教材作成に関する助言、試験問題の作成指導、教師の日本語力および日本語教育力育成にあたっている。その他、語学センターの行事にも、当然、他の教師と同じように参加を求められ、行事によっては担当業務を与えられる。また、大使館、各種国際交流団体など、日本の機関との連絡交渉窓口の役目が回ってくることも多い。さらに、教育省のカリキュラム担当官、ラッフルズ高校の教師とともに、シラバスの検討や改訂を行うことも専門家の重要な業務である。

近年では、シンガポール全体を視野に入れた活動も合意書で明文化されるようになった。センターでの拘束時間は少なくなったが、実質的な仕事量は殆ど変わっていない。二兎を追うもの・・・にならぬようバランスを大事にしたいと思っている。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
シンガポール教育省語学センターは教育省直轄の公的機関として、中学生・高校生を対象に第三言語としての日本語教育を行っている。第三言語(日本語、フランス語、ドイツ語)を選択できるのは、小学校卒業試験の上位10%以内の生徒だけである。専門家は日本語講座での日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言、現地教師の育成を行う他、シンガポール全体の日本語教育発展のため、日本語教師会への助言・協力、日本語教育セミナーの企画・実施などを行っている。
ロ.派遣先機関名称 シンガポール教育省語学センター
Ministry of Education Language Centre
ハ.所在地 11, Bishan Street 14 Singapore 579782
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
日本語学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1987年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1987年
(ロ)コース種別
課外活動
(ハ)現地教授スタッフ
常勤14名(うち邦人 6名)、非常勤2名
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   中1:600名、中2:300名、中3:160名、中4:150名、高1:34名
(2) 学習の主な動機 日本文化への興味・関心、親の勧め、職業上有利だからなど
(3) 卒業後の主な進路
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
中学4年生 JLPT3級程度
高校1年生 JLPT2級程度
(5) 日本への留学人数

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