世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 真の自立に向けて

シンガポール教育省語学センター
小野明美

「自立」と「支援」

教育省語学センター成績優秀者表彰式 エグジビジョンの写真
教育省語学センター
成績優秀者表彰式 エグジビジョン

2005年12月9日で私の任期は終了します。私の後任は派遣されないことになりましたので、私がシンガポールへの最後の国際交流基金派遣日本語教育専門家(以下専門家)となります。

「自立化」が達成されたかどうかを見極め、派遣終了を決定するのは容易なことではありません。「自立」には責任が伴います。その上お金もかかります。「自立」しないほうが楽な場合もあるかもしれません。ですから、受け入れ機関側は「私達はもう自立しましたから、専門家派遣は必要ありません」とはなかなか言ってくれません。

それでは、なぜ「自立」してもらうことが必要なのでしょうか。「支援」は永遠には続きません。自立を促し「自立発展性」を確保していくことが、日本語教育の今後にとって必要なことだからです。

「センターへの専門家派遣はそろそろ打ち切られるらしい」こんな噂は私の前々任者の頃からあったそうです。この噂は、取りも直さず、教育省語学センターの講師陣のレベルの高さを意味しています。赴任当初、こんな優秀な先生たちに、私が教えられることなんてあるのだろうかと随分不安になったものです。しかし、私は間違っていました。私の役目は「答を教える」ことではなく、「自ら考え、解決していく力をつけてもらう」あるいは「自ら考え、解決していくだけの力があることに気付いてもらう」ことだったのです。

この3年間、勉強会や試験問題の検討、カリキュラム会議、そして個人的な話を通じて、繰り返し繰り返し上記のことを伝えてきました。もしかすると随分不親切な専門家だと思われたかもしれませんが、その成果は少しずつ芽を出しています。授業の進め方について白熱した意見が交わされる会議、休み時間に教師用参考書を熱心に読む姿、将来は語学センターだけでなく、シンガポールの日本語教育に貢献できる人材に成長したいと話してくれた先生、教育省語学センターの未来は明るいと思っています。

シンガポール日本語教師の会 定例会議の写真
シンガポール日本語教師の会 定例会議

2003年7月に行われた『日本語スピーチコンテスト』で、日本人会から教師会に与えられた仕事は賞品運びとタイムキーパーだけでした。私と教師会事務局担当者の2人で重い賞品を運びながら、「絶対来年は審査員の席だよね」と話したことも今は笑い話、そして良い思い出です。
2004年のスピーチコンテストには教師会会長が審査員として参加しました。そして2005年は実行委員として1名、審査員として2名が係わっています。

海外日本語教育ネットワーク形成助成プログラム

今年のビッグニュースは、何と言っても教師会からの国際交流基金の海外日本語教育ネットワーク形成助成プログラムへの申請が採用されたことでしょう。8月18日、19日の2日間、文化女子大学大学院教授 齊藤眞理子先生をお招きし、念願の「OPIセミナー」を開催することが決定したのです。

教師会執行部の組織作りから始まって、教師会の必要性の広報、啓発、会員確保、年会費徴収準備、関係諸団体との調整、そうしてやっと企画書作成と本当に長い道程でした。教師会執行部では、現在、このセミナーを成功させるべく着々と準備を進めています。質の高いセミナーを教師会が企画実施することにより、対外的な評価と信頼が得られ、また、教師会執行部内の自信と誇りにも繋がっていくに違いありません。

活躍の場の創出

先生方に活躍の場を提供することも、専門家に与えられた使命の1つです。教師会執行部の方々には、教師会運営の仕事以外にも、セミナー企画、運営、スピーチコンテスト実行委員、審査員などをお任せしてきましたが、今年は新たに国際文化フォーラムとニュージーランド日本語教師会の協力を得、教師会主催「The DEAI photo essay project in Singapore」の企画を立ち上げました。

企画自体は日本語学習者に作品を発表する場を与え、学習の動機付けにするとともに、さまざまな機関から応募を募ることで日本語教育機関のネットワーク形成も促進するのが狙いですが、教師会執行部の方々にどんどん表に出て活躍していただくことも目的としています。この企画は日本大使館からも景品提供の協力を得られることになりましたから、教師会と大使館の連携が生まれることも期待できます。

また、セミナーに発表の場を設けることも昨年から始めました。機関を超えた情報の共有、連携と自己啓発の促進が教師会主催勉強会の実現に結びつく日も遠くないはずです。

自立発展性の確保

支援終了後も現地の力で必要な活動・組織が継続されるようにすること、これを「自立発展性の確保」というそうです。任期最後の今年は、常に「自立発展性の確保」を意識した活動をしていきたいと思っています。私の帰国後も次々と芽が出て花が咲き実を結ぶような、そんな種を少しでも多く蒔いて帰れたら幸せです。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
シンガポール教育省語学センターは教育省直轄の公的機関として、中学生・高校生を対象に第三言語としての日本語教育を行っている。第三言語(日本語、フランス語、ドイツ語)を選択できるのは、小学校卒業試験の上位10%以内の生徒だけである。専門家は日本語講座での日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言、現地教師の育成を行う他、シンガポール全体の日本語教育発展のため、日本語教師会への助言・協力、日本語教育セミナーの企画・実施などを行っている。
ロ.派遣先機関名称 シンガポール教育省語学センター
Ministry of Education Language Centre
ハ.所在地 11, Bishan Street 14 Singapore 579782
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
日本語学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1987年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1987年
(ロ)コース種別
課外活動
(ハ)現地教授スタッフ
常勤15名(うち邦人 6名)、非常勤2名
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   中1:650名、中2:300名、中3:160名、中4:150名、高1:40名
(2) 学習の主な動機 日本文化への興味・関心、親の勧め、職業上有利だからなど
(3) 卒業後の主な進路
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
中学4年生 JLPT3級程度
高校1年生 JLPT2級程度
(5) 日本への留学人数

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