世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 「役割」について思う

チェンマイ大学
三登由利子

日本語学科の学生が作った
七夕の説明書きと笹飾り

日本語学科の学生が作った七夕の説明書きと笹飾りの写真
日本語の短冊はもちろん、日本語学科以外の学生がタイ語で書いた願いごともたくさんかけられました。

 今年五月一日にタイに来て、三日にチェンマイに入りました。日本でゴールデンウイークの最中だったその頃、タイでも飛び石で休日があり、初めて大学に出勤したのは七日。新年度の授業開始が六月三日なので、約一ヶ月、授業の準備にあてられるという恵まれたスタートでした。

 前任者からは、チェンマイ大学は現在ほぼ自立化が達成されているという引継ぎを受けていました。実際、タイ人教師三人と日本人教師三人からなる専任スタッフは、みな日本語教育経験が十分あり、全員で新年度の開講準備が着々とすすめられていました。そこでの私の役割はというと、本来六人のはずのタイ人教師のうち三人が学位取得のために日本に留学中なので、その穴を埋めることと、カリキュラムのさらなる充実とのことでした。

 不在スタッフの穴を埋めることは当然として、今後カリキュラムをどう充実させていくべきか。むやみに動くと、周りに迷惑をかけるだけになってしまいます。まず、しっかりとその方向性を見定めることが必要です。そのためには、現在のカリキュラムと在校生の日本語習得状況の関係や、周囲の日本語教育機関の出身者と比較した場合のチェンマイ大生の位置づけ、また卒業生の動向などについて知ることが当面の課題になるでしょう。

 そういったことを考えていた矢先に、タイ人スタッフの呼びかけで、一年から四年まで学年ごとの担当者会議が開かれることになりました。私にとっては願ってもないチャンスで、自分が担当している一、二、三年の会議だけでなく、四年の会議にもオブザーバーとして出席させてもらいました。

 その会議の目的は、一つの学年を担当している教師が、お互いの授業の内容や方法についての情報を共有することでしたので、文法や日本事情を担当するタイ人スタッフによるオリジナルの教材や、タイ語が堪能な日本人スタッフが作った会話や翻訳の教材などの充実ぶりを目にすることができました。そして、チェンマイ大学はほぼ自立化が達成されているという前任者の言葉を再確認することになりました。

 しかし、問題点がないわけではありません。その会議で、現行のカリキュラムに不足している部分や、科目間に重複している部分があること、教材の見直しが必要な科目があること、2年生から3年生へ、3年生から4年生へという連携を見直す必要があることなど、いくつかの問題が浮かび上がりました。そして、それらが全体会議で報告されて、スタッフ全員の間でカリキュラムの充実のための課題として共有されました。現在は、学年間の連携強化のために、科目ごとに責任者を決め、縦割りの会議が行われています。

 タイに来る前や、本格的に仕事が始まる前は、「カリキュラムの充実」やそのための「アドバイス」といったことが本当に自分にできるのだろうか、そして、それらは本当に現地のスタッフから求められているのだろうか、という不安を感じていましたが、今はそういった不安が無用のものだったと感じています。私が不安に感じたのは、「私」が「専門家」として特別な立場に立って、何かを作ったり、教えたりするイメージで自分の役割をとらえていたからでした。そうではなく、熱心なスタッフたちと対話を重ね、全体で問題点を共有し、その解決策を探ることができる「良き同僚」として自分の能力を十分に発揮すれば、チェンマイ大学に派遣された「専門家」としての役割を果たすことになるのではないか。今は、そんな風に感じています。(2002年6月28日執筆)

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
チェンマイ大学は、北部タイ日本語教育において中心的な役割を担い、チェンマイラチャパット、ナレースワン大学、パヤップ大学などでチェンマイ大学日本語科出身者が日本語の指導にあたっている。また、人材提供だけではなく、周辺大学機関への情報の提供、教材の貸し出しを行なう。チェンマイ大学タイ人スタッフは、種々のセミナーで、講師、アドバイザー、通訳などを務め、他機関のタイ人教師にとって指導的な存在である。専門家は日本語講座での日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言を行う。また、青年日本語教師とともに、北部タイ日本語教師の会の運営に協力し、日本語教師間のネットワークの構築に寄与している。
ロ.派遣先機関名称 チェンマイ大学
Chiangmai University
ハ.所在地 239 Huay Kaew Rd., Tambon Suthep, Amphur Muang, Chiangmai 50200
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
人文学部東洋言語系タイ語学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   選択:'77年
副専攻:'79年
主専攻:'87年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1978年
(ロ)コース種別
主専攻、副専攻、選択
(ハ)現地教授スタッフ
常勤9名(うち邦人3名。うち3名留学中)、非常勤2名(うち邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   主専攻:各学年25、
副専攻及び選択1年:100、
2年:25
(2) 学習の主な動機 日本、特にサブカルチャーへの興味・憧れ、留学・就職などの実利への期待
(3) 卒業後の主な進路 日系企業・タイ系航空会社への就職、留学
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
能力試験2級程度
(5) 日本への留学人数 7名(予定)

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