世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 先生は声を売る仕事なの?

教育省スーパーバイザリーユニット
伊東忠洋

 このホームページをご覧のみなさん、はじめまして。
2003年4月30日に、タイ東北部の大きな街の一つであるウボンラチャタニ市内に赴任して1ヶ月が経ちました。職場は市役所のすぐ前にある教育委員会のようなところです。

コミュニケーションのための日本語教育をめざして~東北部金曜研修初日の一コマから~

ウボンラチャタニ市内のスーパーバイザリーユニットの写真
ウボンラチャタニ市内のスーパーバイザリーユニット

 つい先日、2003年5月16日(金)が今年度の東北部タイ中等教育日本語教師金曜研修会(東北部金曜研修)の初日でした。
 東北部金曜研修は昨年2002年11月から、教育省と国際交流基金の共催の形で始められ、地域の高校で日本語を教えている先生たちのためにウボンラチャタニ市内の私の職場の会議室で行われています。参加者は9名の高校の先生、ほとんどが30代で、みな女性です。
 さて、その研修会初日の一コマをお伝えしようと思います。当日の出席者は6名でした。 
会議室の大きな机を片付けて、体を使うちょっとした活動をしました。全員で輪になって、見えないボールのキャッチボールです。相手の名前を呼んでから投げたり、キャッチボールをしながらしりとりをしたりしました。そんなに面白い遊びとはいえませんが、ただそれをするのではありません。「それじゃー」「んー」「えーとー」「だれにしようかなあー」などの、次のアクションまでの時間を稼ぐために独り言のようにいう言葉を遊びながら少しずつ教えました。そういう言葉を積極的に使ってみようという遊びにしたのです。こういう言葉は、実際のコミュニケーションの場面ではよく使われるものです。それを実際に使ってみよう!という意図なのです。先生たちはかなり熱中して楽しんでくれたようです。こちらも時間を忘れてしまったのですが、30分ぐらいはやったのかもしれません。
 しかし、遊びはそこまで。次に、先生たちには半分に分かれてもらい、今の活動が楽しかったか、良かったか悪かったか、どんな意味があったのかを、ここからはタイ語で話し合ってもらいました。
 すると、いろいろな意見が出てきました。今まで「えーとー」などの言葉を意識して使ったことはなかったので楽しかった。自然なコミュニケーションができて良かったという肯定的な意見が出ました。しかし一方、高校で実際に日本語を教えている先生らしい批判的な意見もたくさん出されました。高校生は知っている単語の数が少ないから、しりとりはできないだろう。1クラス50人の生徒を相手にこのような活動はできない。教えるべき内容が本当に多くて、このような活動をする時間はない、時間がかかりすぎる。日本語での大学受験には役に立たない・・・などというものです。また、この活動がタイには合わないという意見も出されました。タイ語には「えーとー」というような言葉が無いというのです。これには、いやタイ語にも有るという反論が出て、おもしろい議論になりました。タイの学校では、「あのー」とか「えーとー」のような言葉を使うことが悪い言葉遣いだという教育をするらしく、そのため、そのような言葉を教えることに抵抗を感じて、この意見は出されたようです。

教育改革の進むなかで

 タイでは現在、大掛かりな教育改革が進行中です。1999年に日本の教育基本法に当たる国家教育法が制定され、2001年には新しい学習指導要領が出されました。
 日本語科について言えば、日本語を学ぶ生徒が言葉だけでなく、日本社会および日本や日本人とタイの社会との関係にも目を向けるようになったら良いという方向、そして外国語である日本語はコミュニケーションのために学ばれるべきだという方向が強く推奨されているようです。研修会初日の遊びは、このカリキュラム改革の方向を踏まえ、実際のコミュニケーションの場面への意識を先生たち持ってもらいたいと考えてのものでした。
 しかし、教育改革の目指す方向を高校の教室で実現していくことは、かなり難しいのかもしれません。研修会初日、それぞれの学校に集まってきた先生たちは今年度の授業数を何時間持たされたかということをしきりに話題にしていました。先生はとても忙しく、週に30時間ぐらい教えるのは当たり前のようです。1クラス50人ではこのような活動はできないという研修会初日の意見には、だから、マイクを使わなければ声がかれてしまうのだという話が続きました。そして、ある先生には、「先生は声を売る仕事」という言い方が有るのだと教わることになったのです。
 タイの新学期は5月中旬からで、ちょうど新学期が始まったところです。これから高校に足を運び、生徒や先生たちの姿をよく見て、ゆっくりと仕事をしていきたいと思っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 タイ東北部南東の8県下、全396校の普通科中等学校(中学と高校)を対象にして、教科教育の改善・教員研修の実施・調査研究などを任務とするスーパーバイザー、約30名が所属している機関。青年日本語教師は、各教科教育の改善に従事するスーパーバイザーと同じ部署に配属され、地域の日本語科教員との関係を築き、日本語科教育の改善に寄与することが期待されている。青年日本語教師派遣は2002年度から始まったばかりで、2003年3月に任期を終えた初代の青年日本語教師によって、2002年11月から東北部タイ中等教育日本語教師金曜研修会が始められ、また、タイ東北部全域の中等学校に於ける日本語教育の概況が把握された。

 

ロ.派遣先機関名称 教育省普通教育局第10教育区スーパーバイザリーユニット
Regional Supervisory Unit10(R.S.U.10) ,Department of General Education ,Ministry of Education,Thailand
ハ.所在地 Nakornbarn Rd, Amphur Muang, Ubonrachathani 34000 Thailand
ニ.国際交流基金派遣者数 青年日本語教師:1名

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