世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ナレースワン大学における派遣専門家の役割

ナレースワン大学
小西 広明

 ナレースワン大学に対する国際交流基金の専門家派遣事業は今年で7年目。私は3代目の派遣専門家です。専門家の役割や主な業務内容はその時々で変わっていくわけですが、今の私は、これから紹介するような仕事をしています。

1.機関内業務

熱意あふれる講師陣の写真
熱意あふれる講師陣

 派遣先機関であるナレースワン大学での仕事です。勤務は月曜日から金曜日まで、8時半から4時半までなのですが、大学の授業は8時から5時まであり、それから夜間クラスの授業が5時から9時まで続きます。

 ここでの仕事はまず、「直接教授」があります。大学生を対象に授業をします。私の場合、2003年度前期は週に12時間、後期は週10時間です。去年はすべて4年生の授業でしたが、今年は1年生の授業も持たせてもらうことにしました。教室に行って日本語を教えるという、最も楽しくて、最も教師らしい仕事です。しかし現在のナレースワン大学で、これが派遣専門家の主業務であるとは言えません。タイ人教師全員が国内外での修士留学を終え、教授経験も積みつつある現在、直接教授のためだけの専門家は必要ではなくなっています。

 そのため、学生に直接教えることより、同僚教師の方々の日本語力の向上、教授知識や技術に磨きをかけることに仕事の比重を置きつつあります。去年は日本語力の向上、具体的には日本語能力試験の1級合格を目指した勉強会を4ヶ月間開きました。今年は教授知識や技術の向上を図りたいと思います。

 機関内業務のもっとも大きな仕事はカリキュラムの改定です。現在開講されているすべての講義の内容、時間、履修順などを見直し、卒業時の到達目標を設定し、入学から卒業までの流れの中で、いかに有意義にスムーズに目標に到達するかを検討します。そのために去年1年間をかけて、大学当局の意向、先生方の意向、学生の意向、卒業後の進路など、さまざまな調査を続けてきました。新カリキュラムは2003年度中に大学、大学庁などの審査を経て、順調にいけば2004年6月の新学期から採用される見込みです。

 ただ、コースデザインは決まったものの、個々の授業のシラバスデザインは今後の作業です。どんな教材をどんな教え方でどのように活用すれば、学習効果が得られるか、他教科との連携をどのように図っていくかなど、今年1年、いえ、今後数年かけて詳細なデーターをとり、地道に改良を重ねていかなければなりません。

2.機関外業務

 ナレースワン大学は、タイの首都バンコクと第2の都市チェンマイの間にある唯一の国立総合大学です。また日本語を主専攻とする機関としても地域唯一であるため、派遣専門家は派遣先機関だけではなく、地域の日本語教育界全体に対しても一定の役割を担っていかなければなりません。具体的には地域のネットワーク形成支援、コンサルティング、セミナーやワークショップを通じての日本語能力向上、教授能力向上などが挙げられると思います。

 昨年度は、地域にある日本語教育機関の実態を把握するため、可能な限り訪問調査を行いました。結果として、5校のRAJABHAT INSTITUTE(地域総合大学)と3校の高校を訪問し、お話を聞く機会を得ました。また地域の高校で日本語を教えている3名の先生方を対象として、週に1回日本語能力向上のための勉強会を開くこともできました。

 今年はこうした活動をさらに発展させて、地域ネットワークの形成、教師会の発足へと繋げていきたいと思っていますが、一方で、何のための、誰のための教師会か、その意義と在り方をきちんと考えたものにしたいと思っています。

おわりに

 タイでは、中等教育機関での日本語教育実施校が年々増加し、日本語能力試験の受験者数も毎年大幅な伸びを示しているそうです。ナレースワン大学派遣専門家の業務もそれにあわせて変わっていきます。全学教員にコンピューターが1台ずつ支給されるなど、教育環境も整ってきました。また、なにより派遣先機関の先生方が毎年毎年確実に力をつけていきます。「現地化」「自立化」が可能になる日はそう遠くありません。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ナレースワン大学は、バンコック以北、チェンマイ以南の地域の中枢を担う機関である。1996年から主専攻講座。タイ人教師7名全員が修士号以上を取得済みであり、今後、現地教師を中心とした体制に移行していく段階である。専門家は日本語講座での日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言、地域の日本語教師に対する助言を行う。
ロ.派遣先機関名称 ナレースワン大学
Naresuan University
ハ.所在地 T.Thapoo A.Muang Phitsanulok 65000 THAILAND
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
ナレースワン大学人文社会科学部言語学科日本語科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   選択:1985年~
専攻:1995年~
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1996年
(ロ)コース種別
主専攻、観光学科、言語学科、選択科目、別キャンパス、夜間
(ハ)現地教授スタッフ
常勤12名(うち邦人5名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   主専攻で各学年30名程度
(2) 学習の主な動機 日本が好き、日系企業で働きたいなど。
(3) 卒業後の主な進路 「日系企業に就職」
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
クラスの中で数名が日本語能力試験2級に合格する程度
(5) 日本への留学人数 数名程度

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