世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 「あきこと友だち」完成間近!

「あきこと友だち」完成間近!

国際交流基金バンコック日本文化センター日本語部
上野栄三、野畑理佳

中等学校用日本語教科書「あきこと友だち」の写真
中等学校用日本語教科書「あきこと友だち」

 2000年から始まった教科書作りがもうすぐ終わろうとしています。
 テキストの名前は「あきこと友だち」。中等学校で日本語を学ぶ学生のために作られた日本語教科書です。日本人留学生の「たかだあきこ」さんを中心に、タイ人中等学校生のナッターさん、スリーラットさん、それに、パチャニー先生、ホストファミリーの家族達が繰り広げる愉快でハッピーな学園生活が描かれています。

 このテキストは第1巻から第6巻まであります。各巻ともメインテキスト、練習帳、教師用指導書、聴解テープの4点からなっています。メインテキストには、本文のダイアローグ、読解練習、聴解練習、文法説明、語彙表、漢字練習などの必須アイテムが盛り込んであります。絵や写真がふんだんに使われているので、非常に見やすいです。
 また、このテキストの目玉の一つでもある「ミニ情報」がけっこう力作なのです。あいさつとよびかけ、お花見、日本の高校、新幹線、年中行事、食べ物、お菓子、ゴミ問題などなどのフレッシュな話題が各課末についていて、学生の日本理解に大いに役立っています。
 開発・作成に携わったのは、大学日本語教員3名、高等学校日本語教員6名、センターの専任講師1名(以上はいずれもタイ人の日本語教師)、そして、基金の派遣専門家1名です。日本人とタイ人、大学と高校とセンターの教員という混成部隊です。
 5月現在、1,3,5巻が完成しています。10月には2,4,6巻が完成する予定です。すでに多くの高校から問い合わせが来ていて、人気の高さがうかがわれます。
 2004年3月26日に、文化センターホールでこの教科書のキャンペーンを兼ねた、セミナーを行いました。作成に携わった先生方に、この教科書の基本理念、構成、具体的な使い方などを話してもらいました。セミナーは大盛況でありました。

先生を育て、先生を助ける

 私たちはタイ人日本語教師のための研修事業も行っています。研修事業の中でもっとも大規模なものは、中等学校日本語教員を養成する事業です。私たちはこれを「新規研修事業*1」と呼んでいます。これまでに163名の日本語教師を世に送り出し、タイの中等学校日本語教育に対し、大きく貢献しました。1994年から始まったこの事業は、2003年度をもって幕を閉じました。今後はタイ国の各大学で自前の教員養成をしてもらいたいと考えています。

これ以外の研修には、金曜研修*2、土曜研修*3、日本語集中研修*4(毎年、4月と10月に1~2週間の研修をします)、通信教育*5などがあります。これらのほとんどは中等学校日本語教員のための研修です。今年からは、水曜日の夜にも新しい研修クラスを開くことになりました。
 研修はバンコクだけではなく、地方でも展開されています。「北部金曜研修*6」(チェンマイ市)、「南部金曜研修*7」(ソンクラー市)、そして、「東北部金曜研修*8」(ウボンラチャタニー市)がそれです。この研修には青年日本語教師が当たっており、地域の先生方に大いに喜ばれています。
 また、日本語部では毎年教員向けのセミナーを行っています。2004年3月末に、評価法に関するセミナー(参加者134名)と中等学校用日本語教科書「あきこと友だち」に関するセミナー(参加者158名)を行いました。

充実した日本語講座

日本語講座・授業の一こまの写真
日本語講座・授業の一こま

 次に、一般向けの日本語講座*9を紹介します。
 講座の対象は中級以上の日本語能力を持つ学生、社会人です。今年度は16コース(20クラス)を開講します。定員は350名です。総合日本語中・上級、文法、読解、聴解、発音トレーニング、ドラマで学ぶ日本語、ビジネス日本語、能力試験対策、日本語コミュニケーションなど、非常におもしろく役に立つクラスが目白押しです。バンコック市内には民間の日本語学校がたくさんありますが、中・上級のクラスは少ないので、センターの日本語講座は中・上級学習者にとって、非常に魅力のある講座になっています。

ネットワーク作りも専門家の仕事

 現在、タイにはいくつかの日本語教師会があります。その中で、今回は二つの教師会を紹介します。一つは「タイ国日本語教育研究会」(通称「研究会」)です。この会は1988年の発足で、老舗の教師会です。多くの派遣専門家が活動に携わって来ました。年10回の例会と年1回の年次セミナーを行っています。
 もう一つは昨年発足した「JAPANESE TEACHERS ASSOCIATION IN THAILAND」(通称「JTAT」)です。これはタイ人日本語教員が運営するタイ人限定の教師会です。年二回のセミナーを行っています。将来の「日本語教育学会」を目指してがんばっています。

ナレスワン大学派遣専門家のページへはこちらからもいけます。
チェンマイ大学派遣専門家のページへはこちらからもいけます。

(注意)
  1. *1正式な名称は「中等学校現職教員日本語教師養成講座」です。
  2. *2正式な名称は「バンコック中等教育日本語教師金曜研修会」です。
  3. *3正式な名称は「日本語教師土曜研修会」です。
  4. *4正式な名称は「日本語教師日本語集中研修会」です。
  5. *5正式な名称は「通信教育講座」です。
  6. *6正式な名称は「北部タイ中等教育日本語教師金曜研修会」です。
  7. *7正式な名称は「南部タイ中等教育日本語教師金曜研修会」です。
  8. *8正式な名称は「東北部タイ中等教育日本語教師研修会」です。
  9. *9正式な名称は「日本語教師土曜研修会」です。

タイの中学校・高校で日本語を教える先生たち

国際交流基金バンコク日本文化センター日本語部
野畑理佳

 10年前にタイ国教育省との共催で始まった中等学校の日本語教員を養成するプロジェクト(正式名称は「中等学校現職教員日本語教師養成講座」です)が、とうとう2003年度をもって終了となりました。私は最後の2年間を担当させていただきましたが、ここでは最後の修了生となった9期生の研修についてふり返りながら、この研修についてご紹介したいと思います。

1.中学校・高校での日本語熱

修了式で披露した劇「性格の悪いシンデレラ」の写真
修了式で披露した劇「性格の悪いシンデレラ」

 「中等学校の現職の教員を10ヶ月間で日本語が教えられるようにする」。そんなプロジェクトが1994年にスタートしました。タイでの日本語学習人口が増え、すでに中学校や高校でも日本語のクラスを開講しようという動きがありましたが、その当時は日本語主専攻で教員の資格を取るというケースが非常に少なかったことや、日本語主専攻でも待遇面の問題で中等学校教員志望者が少ないこと、また新規の教員採用枠が少ないなどの理由で、日本語の教員が不足していたのです。そこで現職の中等学校の教員を対象に日本語研修を行なう、という選択肢が選ばれました。
 この研修に応募した先生たちは、「日本語を勉強したい!」という中学生や高校生の声、日本語のクラスを開講するために研修に参加してほしいという学校長の命を受けてやってきた使命感あふれる先生たちです。この研修の修了生は163名いますが、そのうち152名(2004年1月時点)が今も教壇に立って日本語を教えています。これはタイの中等学校の日本語教員のうちの約63%にあたります。

2.思ったより大変だった!我慢の10ヶ月

クリスマスパーティでのダンスの写真
クリスマスパーティでのダンス

 研修に参加した先生がたのほとんどは、日本語を勉強するのがはじめてです。たいていは英語やフランス語など語学の先生ですが、中には社会や美術、保健の先生もいます。研修は大変です。ひらがな、カタカナが終われば漢字。毎日のディクテーション、毎週の文法テスト、日本語能力試験受験。宿題、スピーチの発表、日本語の模擬授業。「もうやめたい」「人生の中で一番大変だ」などと途中で音をあげる人もいますが、そんな時は私たち講師も必死に励まして(お尻をたたいて)、また仲間どうしでも助け合って10ヶ月を乗り切ります。
 でも決してつらいことばかりではありません。おりがみや盆踊り、習字などの文化活動やパーティもあります。また日本人ボランティアと一緒に日本料理を作ったり、バンコクを案内するという活動もありました。

3.教壇に立った後も勉強は続く・・・どこまでも

 研修のほとんどは日本語の勉強に専念しますが、研修の最後の1ヶ月は教授法と模擬授業に集中します。もうすぐ自分も日本語を教えなければならない、そういう焦りからみな真剣に授業準備に取り組みます。模擬授業では失敗もありますが、さすがは現職の先生。慣れた態度で次々に学生に指示を出します。冗談も絶えません。授業のあとは全員でコメントをしあって、自分の授業についてふり返ります。
 こうして研修を終えた彼らは、不安を抱えながらも教壇に立ちます。他の科目を教えながらなので大変です。1週間の担当科目が英語12コマ、日本語8コマ、その他選択科目2コマ、などという先生はざらです。そして、日本語の勉強はこれで終わりではありません。仕事をしながらバンコクセンターやチェンマイ、ソンクラーなど各地で行なわれている金曜や土曜研修、また通信教育などの研修に参加し、日本語のブラッシュアップに努めるのです。

 担当研修が終了した現在、私は残りの任期でこのプロジェクトの評価を行なうために修了生の追跡調査を行っています。継続学習環境や日本語能力、日本語の使用環境などを調査し、各地で現職教員のサポートをしている専門家、青年教師の今後の継続学習支援に役立てられるように研修による効果と問題点をまとめています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
国際交流基金バンコック日本文化センター日本語部では、タイ人日本語教員のための金曜研修、集中研修、土曜研修、水曜研修など、各種研修会を定期的に実施。地方在住者のためには通信教育を実施している。また、地方に派遣されている専門家や青年日本語教師は当該地で教師研修会を開いている。2000年から始まった中等教育機関用日本語教科書「あきこと友だち」は今年中に完成の予定である。中・上級者向けの一般日本語講座は今年度は20クラスを開講する。更に、ニューズレター「タワン」、研究誌「紀要」の発行、現地機関との共催による日本語弁論大会や日本語能力試験も実施している。また、年度末には日本語教育セミナーを開催している。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation Bangkok Language Center
ハ.所在地 10th Fl. Serm-Mit Tower, 159 Sukhumvit 21, Bangkok 10110
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:2名

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