世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) タイ南部地域で日本語を学ぶ高校生と教師たち

ウォラナリーチャルーム校
伊藤 愛子

配属校での授業の様子の写真
配属校での授業の様子

 ウォラナリーチャルーム校はタイ南部のソンクラー県ソンクラー市内にある、中高一貫6年制の国立校です。以前この学校はソンクラー県立の女子校でした。そのためか現在でも全校生徒の約8割が女子生徒です。生徒約2800人、教師約150人の大きな学校ですが、校内は割と静かで落ち着いた感じがあります。

 この学校ではまず2001年度に「選択科目」の一つとして日本語が開講されました。選択科目とは、高校1、2年生が外国語や音楽、美術、家政などから好きな科目を選んで週2時間学習するものです。2004年度からはこの選択科目に加えて、「選択必修科目」としても日本語が開講されました。選択必修科目とは、大学の日本語学科への入学を目指す日本語専攻のクラスです。この学校の選択必修科目には他にも、理科や社会、フランス語や中国語があります。日本語専攻クラスでは高校1年生から3年生までの3年間、週に6時間ずつ学習します。3年間の学習が終わった時点で日本語能力試験の3級に合格することがおおよその目標になっています。2005年度からは、日本語は選択必修科目だけの開講となりました。今年は高校1年生と2年生が学んでいます。各学年とも20名前後で、学習に最適なクラスサイズです。元々日本や日本語に興味があって専攻クラスに入った生徒たちですから、毎日熱心に勉強しています。

 このクラスを教えている教師はタイ人の先生です。以前は英語を教えていましたが、国際交流基金バンコク日本文化センターとタイ教育省が協力して実施していた「中等学校現職教員日本語教師養成講座」を修了してから日本語教師になりました。養成講座ではバンコクで10ヶ月間、そして日本で2ヶ月間、日本語及び日本語教授法の研修を集中して受けます。これで日本語能力試験の3級に合格し、高校で日本語を教えるのに最低限必要な日本語力を身につけることができます。しかしいざ現場に戻り、自分が習得した内容を等しく高校生に教えていくことは容易ではありません。そこで筆者が同僚教師をサポートしています。授業前の教案をチェックしたり、授業中に説明が足りない部分に補足をしたり、授業後の検討会でコメントやアドバイスをしたりしています。この1年間、筆者とのやりとりを続けることによって、同僚教師は着実に授業の組み立て方、注意すべき文法事項についての理解を深めてきています。高校3年間の日本語専攻クラスを1人でも教えられるようにタイ人教師の教授技術を伸ばしていくことが、筆者に課せられた目標だと言えます。

南部金曜研修での着付けの学習の写真
南部金曜研修での着付けの学習

 このように養成講座を修了し、中等学校で日本語を教えているタイ人教師は全国に160名ほどいます。バンコクや他の地域と違って、南部では普段日本語に触れる機会がほとんどありません。そんな環境の中ではせっかく身につけた日本語の力を維持するだけでも相当な努力が必要です。そのような地方に住む日本語教師を支援し、継続的な日本語学習の場を提供することを目的として、2001年から「南部金曜研修」が開かれています。南部地域の中等学校で教えている日本語教師のほとんどが参加しています。南部金曜研修の初期から受講している教師は日本語能力試験の3級に合格し、今では2級合格を目指して学習を続けています。2005年度は13名の教師が参加する予定です。レベル別に2つのクラスに分かれて、それぞれの能力にあった日本語学習を進めていきます。多忙な教師たちが仕事と並行して、さらにレベルの高い日本語の学習を続けていけるかどうかは、本人の意欲に大きくかかっています。筆者は教師たちのやる気を持続させ、自己の学習とその成果に満足してもらえるよう、指導法に日々頭を悩ませています。が、なかなか上手くいきません。実際のところ、レベルを落とさないようにするだけでも必死です。これからも教師のやる気を引き出すために様々な工夫をしていかなければならないと思っています。そんな教師たちでも大好きな学習があります。それは日本文化についての学習です。タイの中等学校では科目毎に生徒の学習成果を発表する機会がたくさんあります。日本語科の発表には日本文化の紹介が付き物です。歌にゆかたの着付け、巻き寿司の作り方、盆踊りに茶道、ふろしき包み・・・と、興味が尽きることはありません。在住日本人の少ない南部では、日本人に学校へ来てもらい、文化を紹介してもらうことがほとんどできません。ですから教師自身がスキルを持っていないと、生徒の要求に応えられません。金曜研修では時々、筆者が日本文化を紹介し、教師たちに体験、習得してもらう時間も設けています。

 筆者の業務は地域の中等学校教師へのサポートが中心であり、中高生に直接教える機会は非常に限られています。しかし教師たちが楽しく学習することが、その教師が教える中高生も楽しく学習できることに繋がっていると信じています。日本に興味を持ち多くの時間を日本語学習に費やそうとしているタイの中高生たちに「日本語を勉強して楽しかった!」と思ってもらえるように、できる限りのことを教師に伝えていきたいと思っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
本校は国立の6年制中等学校である(中1~高3)。2001年に選択科目として日本語を開講。2004年度より大学入試で日本語科目を選択する生徒を対象とした「選択必修科目」が開講されている。ジュニア専門家の主な業務内容は、(1)本校の開講する日本語クラスを同僚のタイ人教師と協力して運営すること、(2)基金バンコク日本文化センターが主催する「南部タイ中等学校日本語教員金曜研修」の企画、運営、(3)南部タイ地域の日本語教育実施中等学校への学校訪問及び情報収集、(4)南部タイ地域の日本語教育実施機関全体のネットワーク強化への協力、である。
ロ.派遣先機関名称 ウォラナリーチャルーム校
Woranari Chaloem School
ハ.所在地 1 Plata Rd., Amphur Muang, Songkhla 90000, Thailand
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
第二外国語学科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   選択:2001年から
専攻:2004年から
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2004年から
(ロ)コース種別
選択必修(高1、高2生週6コマ)/教員研修(週4コマ)
(ハ)現地教授スタッフ
常勤2名(うち邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   選択必修高1:22名、高2:16名/教員研修:13名
(2) 学習の主な動機 大学進学/教師としての日本語力向上
(3) 卒業後の主な進路 大学進学/中等学校の日本語教師
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験3級未満/2級未満
(5) 日本への留学人数 なし

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