世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 続・「あきこ」の成長と周辺諸国へ広がるネットワーク ―バンコク日本文化センターの教師支援―

続・「あきこ」の成長と周辺諸国へ広がるネットワーク ―バンコク日本文化センターの教師支援―

国際交流基金バンコク日本文化センター
八田直美・熊野七絵

 昨年に引き続き、国際交流基金バンコク日本文化センター(以下、JFBKK)の日本語教育支援活動として、タイの高校向け日本語教科書『あきこと友だち』とタイ周辺の国々を対象にした広域活動をご紹介します。2005年度版も合わせてごらんいただけると幸いです。

1.広げてつなげる教師支援

カンボジアからの参加者による模擬授業の写真
カンボジアからの参加者による模擬授業

 国際交流基金バンコク日本文化センターの日本語教師支援活動はタイ国内にとどまりません。タイの周辺のベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマーの4か国を広域活動の対象としています。私たち、派遣専門家はそれぞれの国の要請に応じて、教師向けのセミナーの講師やスピーチコンテストの審査員として出かけます。昨年は2人でラオスへ2回、ベトナムへ2回出張しました。

 専門家が出かけるだけでなく、それぞれの国の先生方をJFBKKが主催するセミナーや集中研修に招待しています。2006年度4月の集中研修には6人の先生がバンコクを訪れ、タイ人の大学教師7人と「中級教授法コース」に参加しました。講義の中でグループ活動をいっしょに行ったり、模擬授業のグループが多国籍になり、日本語でよい情報交換ができたようです。

 私達が出かけていくと、それぞれの国の様子も理解することができますし、現地の先生方に大勢会えるという利点がありますが、先生方にバンコクに来てもらうと、タイの進んだ日本語教育を自分の目で見たり、タイの先生方といっしょに参加する講義や模擬授業を通して交流したりする機会が提供できるところがいいと思います。

2.ますます大きくなる「あきこ」

 JFBKKがタイの高校・大学の先生方といっしょに作った高校用日本語教科書『あきこと友だち』も市販開始から丸2年。2006年4月時点で6冊合わせて70000冊以上売れていて、どんどん増刷が進められています。

 2005年度にはこの教科書について高校教師を対象としたアンケートを実施しました。タイ人、日本人合わせて先生方140人に回答をいただきましたが、多くの先生方から「タイの高校生の場面や話題をとりあげている」「四技能の練習がそろっている」「イラストが多くてわかりやすい」など高い評価をいただきました。

JFBKKと出版社で制作し、各校に無料配布した「あきこ」のひらがな表の写真
JFBKKと出版社で制作し、各校に無料配布した「あきこ」のひらがな表

 また、JFBKKへの要望から以下の副教材作成が始まりました。

(1)データCD…教科書の指示文や文法説明などの日本語訳やイラスト、漢字や語彙リストが入っています。2005年11月から希望者に無料で配布しています。早速イラスト・データを使って、絵パネルや副教材を作ったといううれしい報告が届きました。こういうことも普通の市販教材ではなかなかできないことだと思います。

(2)単語集…音声アクセント記号と楽しいイラストを満載した単語集も完成間近です。これを使えば、学習者が言いたい・書きたい言葉がすぐ探せて、教室内での自由なコミュニケーションを促進する助けになります。

(3)テスト問題集…国際交流基金からタイに派遣されているジュニア専門家と国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊(JOCV)の高校派遣隊員、JFBKK講師の共同プロジェクトとして進んでいます。それぞれの赴任校で使われているテストを持ち寄って分析をしてから問題作成に取りかかりましたが、テストを作るタイ人の先生方のご苦労がよくわかりました。

 一方、このアンケートによると、日本語能力試験(JLPT)3級やタイの大学入試(やはりJLPT3級相当と言われています)の受験準備には足りないのではないかと心配する現場の先生もいるようです。しかし実際には、この教科書の内容はJLPT3級の出題基準をほとんどカバーしています。今までにJFBKKが主催するタイ人教師を対象とした研修では、3分冊目から始めて最後の6分冊目までを取り上げましたが、今後もまだまだ『あきこと友だち』の研修や広報を続けて、より多くの先生方により深く理解してもらうが必要がありそうです。JFBKKのニューズレター『タワン』では、引き続き「あきこの広場」を連載して、各地の先生や学習者の皆さんが作った教材や作品を読者に紹介しています。ぜひ一度「あきこ」の成長ぶりを見に来てください(http://www.jfbkk.or.th/jl/jl_jp.html)。

10ヶ月で日本語教師を育てる

国際交流基金バンコク日本文化センター
伊藤愛子

センターでの授業の様子の写真
センターでの授業の様子

 国際交流基金バンコク日本文化センター(以下、「JFBKK」と略す)では、1994年よりタイ国教育省との共催で、「中等学校現職教員日本語教師新規養成講座」(以下、「新規研修」と略す)を開講しています。この研修は、中等学校(日本の中学校と高校に相当)で他教科を教えている現職の教員に10ヶ月間、日本語や教授法、日本事情などの研修を集中的に行い、修了後に所属校で日本語を教えられるようにすることを目的としています。これまでに163名の教員がこの研修を終え、タイ全国の中等学校で日本語を教えています。その数はタイの中等学校で教えるタイ人教師の約6割に当たります。よって、この研修はタイの中等学校の日本語教師を養成する上で中心的な役割を担っているといえます。

 2006年度の新規研修は5月29日から始まりました。今年度は15名の教員が参加しています。研修生は20代後半から30代後半の若手の教員で、これまでに日本語を学習した経験がほとんどありません。月曜から金曜まで1日5時間ずつ授業がありますから、学習の進度はかなり早いです。毎日覚えなければならないことが山のようにありますが、研修生は音をあげずに元気に学習を続けています。

 この研修を担当しているのは、JFBKKのタイ人専任講師3名と私の、計4名です。その他「音声」のような専門的な科目は、タイ人の非常勤講師が担当しています。日本語教師を養成する研修であっても、日本人の担当講師は私一人しかいません。週に一度バンコク在住の日本人ボランティアに会話練習の相手として授業に参加してもらっていますが、それ以外の時間に研修生が接することのできる日本人はほとんど私しかいないのです。これから日本語を教えていくことになる研修生に日本人について正しく理解してもらうことは非常に重要なことです。彼らは日本人に対して「なぜこうするのか?」、「どうしてこう言うのか?」という疑問を常に持っています。日本人の代表として彼らの疑問に真摯に答え、理解を深めてもらうことが、私に最も期待されていることだと感じています。

 さらに今年度の新規研修から、『あきこと友だち』という教科書を使って日本語の学習を進めることになっています。『あきこと友だち』は2004年に出版された中等学校向けの日本語教材で、現在タイの約8割の中等学校で使用されています。研修生も研修修了後にこの教科書を使って生徒に教える可能性が高いと思われます。ですから教師自身がこの教科書を使って学習し授業の進め方を実際に見ることで、日本語と同時に教え方も学んでもらえるだろうと期待しています。しかし講師の方は、授業での一挙一動が研修生に「教師のモデル」として映っているわけですから、気を抜くことができません。常に多様かつ効果的な教え方を提示していかなければならないと思っています。

合宿にて 日本茶の入れ方の実習の写真
合宿にて 日本茶の入れ方の実習

 10ヶ月という短い研修期間内に、研修生は日本語能力試験3級レベルの日本語力と、中等学校で教えるのにふさわしい教授技術、また中高生に教えられるだけの日本事情や日本文化の知識および紹介のしかたを身に付けなければなりません。実際に日本語教師として自信を持って教えられるようになるには、もっと多くの知識や技能が必要でしょう。しかし研修期間は限られています。そこで私たち講師に求められるのは、中等学校の教師として最低限必要な知識や技能を精選して、この期間に伝えることだと思います。また研修修了後もそれぞれの研修生が自分で学習を継続できるようなシステム作りや情報提供が必要になってくると考えられます。研修のある10ヶ月間のみが教師を育てる期間ではなく、教師としてさらに成長してもらうにはどうしたらよいか、修了後の道筋についても同時に考えていかなければならないと思っています。

 今、私の目の前にはたった15名の研修生しかいませんが、その後ろには数え切れない数の中高生が控えています。研修生が「日本語を学んでいて楽しい」、「早く日本語を教えたい」と感じてもらえるようにすることが、その後に続いて日本語を学習する中高生の笑顔につながっていくと思います。責任は重いですが、やりがいのある業務だと感じています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
タイ国全土及び周辺諸国(ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマー)の日本語教師・学習者支援のためさまざまな事業を行っている。教師支援としては各種の研修(集中、水曜、金曜、新規養成)や半日または1日のセミナーを企画・実施している。学習者支援としては一般講座の開講、高校教科書『あきこと友だち』の副教材の制作など。また、コンサルタント業務、紀要やニューズレターの発行を通して情報センターとしての機能を果たしている。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation, Bangkok
ハ.所在地 Serm Mit Tower, 10F, 159 Sukhumvit 21 (Asoke Road)
Bangkok 10110, Thailand

Tel:66 (2) 260-8560~64   Fax:66 (2) 260-8565
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:2名、ジュニア専門家1名

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