世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) バンコク日本文化センターの教師支援とネットワーク促進

国際交流基金バンコク日本文化センター
儀満敏彦、松原 潤、鈴木由美子

タイの日本語教育は中等教育・高等教育・学校教育以外の3者がそれぞれバランスよく発展してきています。日本語教育機関・教師・学習者を支えるために国際交流基金バンコク日本文化センター(以下、JFBKK)はさまざまな事業を行ってきましたが、今回は特に「教師支援」と「ネットワーク」についてまず概略を述べ、最近の具体的な活動もご紹介したいと思います。

1.「教師支援」

 タイで日本語を教える教師はタイ人が約6割、日本人が約4割となっています。タイ人教師のうち大学で教えているのは日本研究・日本語学の専門家のほかタイ国内の大学で日本語を専攻した人たちなどです。高校教師の多くはタイ教育省とJFBKKの共同事業として実施している「中等学校現職日本語教師新規養成講座」(以下、「新規研修」)の修了生です。
 経験の浅いタイ人教師のためにJFBKKでは次のような研修会を行っています。
「水曜研修」:比較的日本語能力の高いタイ人教師を対象にした教授法中心の研修
「土曜研修」:日本語能力試験3~4級程度のタイ人教師を主な対象とした日本語運用能力向上を目的とした研修
「日本語教育研修会」:研修機会の少ない地方在住のタイ人教師を対象に年2回(4月、10月)に行う短期集中研修。4月はタイの周辺国(ベトナム・カンボジア・ラオス)の教師を招へいする。
「通信講座」:新規研修の修了生で水曜研修、土曜研修に参加できない地方在住の高校教師を対象にしたフォローアップ講座
 このほか、高等教育機関などのタイ人・日本人教師を対象にした「日本語教育セミナー」(年2回開催、うち1回は日本から専門家を招聘)やタイ国内の教師会、外部機関、周辺国にセミナー講師として出張することもあります。また最近はロングステイなど長期滞在の日本人、日系企業の駐在員の家族がボランティアで日本語を教えるケースも増えてきており、研修会、交流会などで日本語教育についての情報交換、アドバイスなども行っています。

2.「ネットワーク」

 タイ人の日本語教師はさまざまな研修会に参加し、教師会を形成し、自らも日本語学習を続けています。日本人教師も教師会、研究会に所属して相互研修の機会を作っています。
 タイ教育省とJFBKKの共同事業として行った高校生向け教材『あきこと友だち』の制作過程ではタイ人の大学教師、高校教師、JFBKKの協力関係が生まれ、実際にこの教材を使って教えている国際協力機構(以下、JICA)の青年海外協力隊員(以下、JOCV)と国際交流基金のジュニア専門家は『あきこと友だち』関連教材づくりを一緒に行ってきました。
 ニューズレター『タワン』と紀要の発行、ウェブサイトの運営は日本語教師、学習者をつなぐひとつの広場(=ネットワーク)とも言えます。

2.1 「充実する教師ネットワーク」

 タイには、いくつかの教師会があります。その中のいくつかは、設立時、日本語教育専門家やジュニア専門家が中心となって運営していたものもありました。現在では会員の方が中心となって運営していて、日本語教育専門家、ジュニア専門家はアドバイザーや運営委員の一人として関わっています。また、時にはセミナーの講師を依頼されることもあります。ここでは、主に、タイ全国の教師を対象とした教師会について紹介したいと思います。

(1)タイ国日本語教育研究会

第19回年次セミナー シンポジウムの模様の写真
第19回年次セミナー シンポジウムの模様

 URLhttp://www.geocities.jp/thai_nihongo/ (日本語)
 タイ国日本語教育研究会は発足してから2007年で20年目を迎えたタイで一番歴史のある教師会です。タイの学校の休みに当たる10月、3月、4月、5月以外の月に月例会を行っていて、日本語教育に関係のあるテーマの発表や機関紹介が行われます。
 毎年3月には終日のセミナーを開いていて、会員の日ごろの研究や教育の成果の発表、それから、外部から講師を招いての講演もあります。
 2007年3月17日に開かれた年次セミナーでは、「タイと近隣諸国の日本語教育 ―タイ・カンボジア・ベトナム・マレーシア・ラオスからの報告―」と題し、近隣諸国の基金派遣専門家をパネリストとして招いてシンポジウムを行いました。
 研究会の活動は、タイ国内の教師のネットワークだけでなく、近隣諸国とのネットワークをも視野にいれてますます発展しています。

(2)JTATJapanese Teachers Association of Thailand

優勝したタマサート大学「きのこ取り物語」の一場面の写真
優勝したタマサート大学「きのこ取り物語」の一場面

 JTATは、タイ人日本語教師を中心とした教師会で、タイ人教師のニーズに合ったセミナーを開催し、教授技術の向上を目指しています。これまではセミナーの開催を主な活動としていましたが、2006年には「第1回日本語ドラマコンテスト」を主催し、学習者の日本語学習の促進を図っています。第1回目はバンコク市内の3大学が参加しましたが、第2回目はもっとたくさんの大学からの出場を期待しています。

(3)ラチャパットの日本語教育を考える会

 掲示板:http://rachakai.ami.ne.jp/
 ラチャパットの日本語教育を考える会(通称ラチャ会)は、教育大学から総合大学へと発展し、タイ全土に散在するラチャパット大学の日本語教師を中心とした教師会で、年に2回大きなセミナーを開いています。ラチャパット大学の教師に限らず、他の教育機関の教師の参加も歓迎していて、セミナーでは他の国立大学や私立大学の教師を講師に招くなどして、他機関の教師との交流を図っています。

(4)上記以外の教師会

 上記以外にも教師会があります。北部タイの教師を中心とした「北部タイ日本語教師会」(http://www.geocities.co.jp/hokubutaikyoshikai/)、南部タイの教師を中心とした「南部タイ日本語教師会」、東北部タイの教師を中心とした「イサーン日本語教師の会」、北部タイの中等教育機関の教師を中心とした「北部タイ中等教育日本語教師会」があります。また、タイに住む日本人子女及び日本人との国際結婚子女の日本語教育を考える「タイにおける母語・継承語としての日本語教育研究会」(http://www.geocities.co.jp/jmherat/)があります。

2.2 「あきこ」をとりまく仲間たち

『あきこと友だち単語集』と教師用CDの写真
『あきこと友だち単語集』と教師用CD
『絵と音でおぼえるひらがな表』の写真
『絵と音でおぼえるひらがな表』
蟻はタイ語で[mót]の写真
蟻はタイ語で[mót]

 タイの中等教育における日本語教育を語る上で欠かせない存在になった教科書『あきこと友だち』。今回は「あきこ」の新しい仲間を紹介します。
 2007年4月に『あきこと友だち単語集』、『ひらがなアソシエーションカード』、『あきこと友だちテスト問題集』の3つの副教材ができました。完成を記念して、「『あきこと友だち』特別セミナー」として上記副教材を使ったワークショップを行いました。2日間のセミナーには70人以上の教師が参加して大盛況でした。
 『あきこと友だち単語集』では教科書に出てくるすべての語彙を50音順に並べたものにアクセント記号がつけてあります。また各課の関連語彙やタイの学校教育で欠かせない語彙なども新たに付け加えられています。
 『ひらがなアソシエーションカード』ではそれぞれのひらがなにタイ語から連想しやすい音や形を絵で表しています。「『あきこと友だち』を使いたいけれど、1課のひらがな導入に時間がかかってしまう」という現場の声に応えるべく開発されたものです。上記のセミナーでこのアソシエーションカードを使ったデモンストレーションが行われたのですが、これなら高校生にも楽しく短期間でひらがなが覚えられると大変好評でした。
 『あきこと友だちテスト問題集』はタイに派遣されているジュニア専門家とJICAJOCVの高校派遣隊員、JFBKK講師の共同プロジェクトにより完成したものです。各課での学習を確認することができ、教師にとっては教え方のふりかえりに、学習者にとっては学習の励みになることが期待されています。
 2007年も「タイ人教師支援」「学習環境向上」「JICAとJFの情報ネットワーク作り」を目指して副教材開発プロジェクトを継続することになりました。また、2006年から行っている、高校で教える日本人教師のための「あきこ交流会」も続いています。どんどん増える「あきこ」の仲間と広がるネットワーク。ますます成長する「あきこ」の今後の活躍にご期待ください。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
タイ国全土及び周辺諸国(ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマー)の日本語教師・学習者支援のためさまざまな事業を行っている。教師支援としては各種の研修(集中、水曜、土曜、新規養成)や半日または1日のセミナーを企画・実施している。学習者支援としては一般講座の開講、高校教科書『あきこと友だち』の副教材の制作など。また、コンサルタント業務、紀要やニューズレターの発行を通して情報センターとしての機能を果たしている。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation, Bangkok
ハ.所在地 Serm Mit Tower, 10F, 159 Sukhumvit 21 (Asoke Road)
Bangkok 10110, Thailand

Tel:66 (2) 260-8560~64   Fax:66 (2) 260-8565
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:2名、ジュニア専門家:1名

ページトップへ戻る