世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 北部タイ中等日本語教育の状況と課題

北部タイ中等教育機関(ユパラート・ウィッタヤライ校)
内田 陽子

1.どんな仕事をしているの?

 私の仕事は、日本語教育を行っている北部タイの中等教育機関(以下、中学高校(*1))への支援です。普段はデスクがあるチェンマイ県ユパラート・ウィッタヤライ校で、日本語コースのアドバイザーとして勤務しています。そして、不定期ですが、北部タイ各地の中学高校を訪問し、授業見学をしたり日本語イベントを手伝ったりしています。また、週末はタイ人日本語教師のための日本語教師研修を行っています。その他に、日本語教育情報の収集、日本語教材の提供も行っています。

2.そもそも、なぜ北部タイの中学高校で日本語教育をしているの?

 タイの日常生活には、マスコミ等を通じ、日本のイメージ、日本語が入り込んでいます。さらに、北部タイは日本人が多く訪れる観光地であり、日系企業が多い地でもあり、そして今はロングステイヤーの人気の地でもあります。
  このような背景から、日本への興味、就職機会の増加など、日本語を勉強する動機には事欠かず、日本語学習者は年々増加しています。また、大学入学試験の選択科目に日本語が採用されていることも大きな要因です。

3.中学高校の日本語教育ってどんな感じ?

 デスクがあるユパラート・ウィッタヤライ校を例としてお話します。この学校では、高校生(1年~3年)は専攻コースで週8時間、中学生(1,2年)は選択科目として週2時間学んでいます。高校の専攻コースでは、『あきこと友だち』(*2)を利用し、3年間で初級を修了します。中学では、昨年までひらがなを先に教えていたのですが、今年から思い切ってひらがなをやめ、口頭コミュニケーションと日本事情を中心に授業を組み立てています。
  この学校の特色の一つに、京都の高等学校との文化交流活動があります。前任の鈴木由美子ジュニア専門家の時から、この交流活動を利用した「観光日本語」「日本事情」の授業(高校3年)が行われています。これは、同じ年代の日本の高校生とのコミュニケーションを目的としており、北部タイの文化を振り返る良い機会ともなっています。今年でこれらの授業も3年目に入りますが、より活性化するよう、助言していきたいと思います。

4.他の学校はどう?

コンテストに向けて真剣に話し合う日本語教員の写真
コンテストに向けて真剣に話し合う日本語教員

 現在、北部タイ8県の50校を超える中学高校で日本語が教えられています。また、日本語キャンプやコンテストなども数多く行われています。
  このように、一見盛んに見える日本語教育ですが、安定して教員が勤務している学校と、数年で教員が入れ替わっている学校で事情が大きく異なります。安定して教員が勤務しているのは、多くはその教員がバンコクで行われる10ヶ月間の「中等学校現職教員日本語教師新規養成講座(略称、新規研修)」を修了した公務員である場合です。この場合、カリキュラムも安定し、新規研修修了生同士のネットワークもあり、地方の学校であっても教員同士で相互協力ができています。
  一方、北部の大学で日本語を専攻した教員の多くは、「公務員」ではなく学校との直接雇用で働いています。これは日本語教師の公務員募集枠が少ないためです。そして公務員ではないために、待遇や将来に不安を感じ学校をやめてしまうのです。その結果、教材が蓄積されない、カリキュラムがいつまでも安定しないという問題が生じています。
  まずは、新規研修修了生を中心に、地方でのネットワークができつつあるので、これを更に広げられるよう、手伝っていきたいと考えています。そして、新規に参入した教員には、このネットワークに入り、情報を収集できるような橋渡しが必要です。

5.教師研修ではどんなことをするの?

第四回北部タイ中学・高校日本語コンテストの写真
第四回北部タイ中学・高校日本語コンテスト

 教員研修は、日本語ブラッシュアップと日本語教授法を学ぶことが主な目的です。また、お互いの知識を共有したり、日本語の授業のために教材を作ったり話し合う場にもなっています。この研修では、経験のある教員も若手の教員も入り交じり、冗談を言い合ったり、意見を出し合ったりと、いい関係が築かれています。
  教員研修に参加している教員の協力体制が一番大きく表れるのが、「北部タイ中学・高校日本語コンテスト」です。このイベントは昨年度、第4回を迎えました。北部タイの中学高校28校、約240名の学生が参加するイベントで、これほどのイベントは各校の教員の協力体制がなければ、できるものではありません。ジュニア専門家は、コンテスト課題や審査方法などのサポートをします。昨年度の反省を踏まえて、また共にコンテストを作り上げていきたいと思います。

6.今後の課題は?

 この仕事のメリットは、多くの日本語教師、日本語教育関係者に出会えることです。昨年度は、できるだけ日本語教育に関わる場に顔を出し、学校を訪問し、人と会うようにしてきました。日本語教育に関わる団体は多いのですが、連携はまだまだです。これからは関係者と接点を持つだけでなく、自分を介して中等教育に関わる点と点を線でつなげ、ネットワーク形成を促進していきたいと考えています。

  1. *1 タイの中等教育は、前期3年、後期3年の6年制で、ここでは中学高校と記述している。
  2. *2 タイ教育省と国際交流基金バンコク日本文化センターが開発した中等教育後期(高校)向け日本語教科書
派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
派遣先機関はチェンマイ県の伝統ある有名校で、タイ北部における中等教育日本語センターとしての役割が期待されている学校である。日本語コースは今年度で5年目で、ジュニア専門家派遣も5年目に入る。ジュニア専門家はタイ人日本語教員のための教師研修会運営や学校訪問、巡回指導、教員間のネットワーク形成支援といった地域全体への支援を行う。また、それと平行して、派遣先機関に対し、チームティーチングによる授業や日本語コース全般への助言などの支援を行う。
ロ.派遣先機関名称 タイ北部中等教育機関(ユパラート・ウィッタヤライ校)
Yupparaj Wittayalai School
ハ.所在地 238 Praplokkloa Rd,. T.Sripoon, A.Muang, CHIANGMAI 50200
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
第二外国語グループ
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   2004年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2004年
(ロ)コース種別
選択必修:高校1,2,3年 選択:中学1,2年
(ハ)現地教授スタッフ
常勤4名(うち邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   選択必修:141名、選択:127名
(2) 学習の主な動機 日本の芸能人やマンガへの興味など。
(3) 卒業後の主な進路 大学進学
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
初級終了を予定
(5) 日本への留学人数 なし

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