世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) タイ人高校教師の活躍とバンコク日本文化センターの研修

国際交流基金バンコク日本文化センター
儀満敏彦、松原 潤、松井玲子

 2007年のこのコーナーではバンコク日本文化センター(以下、JFBKK)が行っている教師支援の概要と日本語教師のネットワーク、高校で使用されている教材についてご紹介しました。今回は特に高校の日本語教育に焦点を当て、高校で教えるタイ人日本語教師の方たちの活躍と高校教師を対象にしたJFBKKの研修内容をお伝えしたいと思います。

1.「高校日本語教師とは」

「日本語能力試験」高校生受験直前の様子の写真
「日本語能力試験」高校生受験直前の様子
「日本語ドラマコンテスト」高校の部の写真
「日本語ドラマコンテスト」高校の部

 2006年の「日本語教育機関調査」(国際交流基金)によると、タイの日本語教育機関数は385機関、教員数は1,153人、学習者数は71,083人となっています。このうち中等教育学校(日本の中学、高校に相当)は243機関(63%)、教員数398人(35%)、学習者数31,679人(45%)です。
  後期中等教育学校(高校)では1981年に日本語が第2外国語科目に加えられて以来、着実にその数が増えてきています。
  では、高校で日本語を教える教師とはどのような人たちなのでしょうか。
   高校の日本語教師の70%余りがタイ人教師ですが、そのうち約60%がJFBKKとタイ教育省が共同事業として実施している「中等学校現職教員日本語教師新規養成講座」(以下、新規研修)の修了生です。
  教師不足を補うために、現職の他教科の公務員教師に対して10か月の研修をJFBKKで行い、修了生は再び所属校に戻って日本語を教えるというのがこの研修の目的です。本人の希望と学校の推薦により応募したとはいえ、ある程度の年齢の人たちが初歩から日本語の学習を始め、1年後には日本語教師として教壇に立つというのはかなりの苦労を伴います。勤務校に戻ってからは以前教えていた他教科の教師としての仕事も担当するケースがあり、その多忙さは容易に想像できます。
  高校では日本語の授業や受験指導を行い、日本語キャンプなどの学校行事を企画、運営し、スピーチコンテストなど外部行事のための指導をし、さらには高校や地域の国際交流の窓口の役割も期待されます。日本人教師がいる場合には協力をしながら、それらの仕事を進めていくことも求められます。
  「たった10か月しか日本語を習っていないのに…」という嘆きも聞こえてきそうですが、タイの日本語の先生たちはがんばりやです。新規研修修了後もJFBKKが実施する研修に参加して自らの日本語力を高め、教え方について学び、参加者同士で積極的に意見を交換する。そんな姿を見せてくれています。

2.「JFBKKの教師研修」

 タイ人高校教師(新規研修修了生と修了生以外の高校日本語教師)に対して、JFBKKでは次のような研修を用意しています。

(1)「通信講座」:新規研修修了後、全員に対して行う7か月間の通信研修で、日本語力の向上を目的としています。日本語教師として教え始めた先生たちから送り返された教材を添削して返却する作業はJFBKKのタイ人専任講師が担当。今年度は日本人講師による電話インタビュ-により発話能力とモチベーションの維持も図りたいと思います。

(2)「バンコク金曜(土曜)研修」:JFBKKに通うことが可能な教師は勤務校の許可を得て、週1回(1日5時間)の研修に参加します(隔年で金曜または土曜に実施)。この研修では日本語運用力の維持・向上を目的としています。

(3)「バンコク水曜研修」:比較的日本語能力の高い日本語教師のための研修。高校、大学、民間日本語学校の教師が集まり、学期ごとに設定したテーマについて話し合い、実践報告、模擬授業を行っています。高校の教師の発表を聞いて大学教師や民間日本語学校の教師が自分の授業に取り入れることもあり、相互研修の意味合いも含んだ研修となっています。

(4)「地方研修」:タイの東北部と北部に派遣されている日本語教育専門家により、ウドンタニ(東北部)とチェンマイ(北部)でも「金曜(土曜)研修」を実施しています。しかし、交通事情の関係でこれらの研修に参加が難しい教師のために、バンコクから出張をして研修を行っています。テーマは地域の教師の代表と相談をして決めています。

(5)「日本語教育研修会(集中研修会)」:ふだん研修に参加する機会の少ないタイ人日本語教師(高校教師以外の教師も含む)を対象に年2回開催しています。2008年4月には「総合的日本語教育の可能性」、「教えにくい文法項目を克服する」、「教師の日本語力向上と日本語による発信」の3つのテーマで研修を行いました。特に3番目のテーマは高校の学校行事や国際交流での日本語運用というニーズに応えたものです。

(6)「日本語教育セミナー」:昨年度はタイ国内と日本から講師を招き、3回実施をしました。国際交流基金開発教材『エリンが挑戦! にほんごできます』の使い方と教室活動の紹介を目的にした「エリンセミナー」には多くの高校教師の方が参加しました。

3.「研修の向こうにあるもの-連携をめざして」

 日本語能力試験や日本語スピーチコンテスト、日本語ドラマコンテストなどの会場に行くと、JFBKKの研修で顔なじみの高校教師の方たちによく会います。イベントに参加する高校生たちを引率してきた先生たちはイベント当日だけでなく、参加に向けて高校生たちを指導してきたはずです。高校教師の方たちへの研修の向こうには未来に向かう若い日本語学習者がいると実感する瞬間でもあります。
  どうしたら楽しく効果的な授業ができるかを考え続け、実践をしている高校の先生のために、JFBKKでは日本語を教える意欲をかきたてるような研修、参加者同士が連携する機会としての研修も目指していきたいと考えています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
タイ国全土及び周辺諸国(ラオス、カンボジア、ミャンマー)の日本語教師・学習者支援のためさまざまな事業を行っている。教師支援としては各種の研修(集中、水曜、土曜、新規養成)や半日または1日のセミナーを企画・実施している。学習者支援としては一般講座の開講、高校教科書『あきこと友だち』の副教材の制作など。また、コンサルタント業務、紀要やニューズレターの発行を通して情報センターとしての機能を果たしている。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation, Bangkok
ハ.所在地 Serm Mit Tower, 10F, 159 Sukhumvit 21 (Asoke Road)
Bangkok 10110, Thailand

Tel:66 (2) 260-8560~64   Fax:66 (2) 260-8565
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:2名、ジュニア専門家:1名
ホ.アドバイザー派遣開始年 1994年

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