世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本語教育実習元年

コンケン大学
西野 藍

 国際交流基金(以下JF)の2006年海外日本語教育機関調査結果によると、タイでは初・中等教育機関の学習者数が高等教育機関のそれを初めて超えました。その一方、初・中等教育機関で日本語を教える現職教員の数は、特に地方において十分とは言えません。コンケン大学教育学部日本語教育プログラム(*1)は、大学で日本語を学び、なおかつ初・中等学校の教員免許を取得した人材を多く輩出するものとして期待されています。2008年、いよいよ第1期生の日本語教育実習が始まりました。期間は何と1年間。これはタイ国の長い日本語教育の歴史の中でも初めての出来事です。そこで、今回はこの教育実習を中心にご報告します。

1.教育実習と地域支援

『あきこと友だち』のひらがな表と、絵カードで文字を教えるの写真
『あきこと友だち』のひらがな表と、絵カードで
文字を教える

実習先の生徒と実習生の写真
実習先の生徒と実習生

 タイ国では2004年度より大学における教員養成課程が5年制となりました。従来の4年間の教職科目や日本語科目等の履修に加え、1年間の教育実習からなる計5年間の課程を終えた学生は卒業と同時に教員免許状が取得できます。そのため実習の評価は厳しく、コンケン大学の場合、受け入れ校の教員からの評価に加え、大学教員が実習先を複数回訪問して授業見学と評価を行います。今年6月、その評価のために実習先の学校9校を訪問しました。
  コンケンは、イサーンと呼ばれるタイ東北部の中心に位置していますが、県内の中学高校で日本語を教えているところは限られています。そのため、実習先はノーンカーイ、ウドーンターニー、ナコーンラーチャシーマー、ウボンラーチャタニーなど近隣の県に及び、東北部の中でも熱心に日本語教育を行っている学校が中心となりました。実習生は、週10コマ前後の授業を担当します。小学校4年生のクラスもあれば、高校3年生のクラスもあります。見学した全ての高校で『あきこと友だち』がテキストとして使われていました。
  受け入れ校のタイ人の先生の多くは、国際交流基金バンコク日本文化センターの「中等学校現職教員日本語教師新規養成講座」の修了生で、東北タイで日本語を教える中等教員のパイオニアとも言えます。実習生の授業見学後、評価者から実習生にアドバイスする時間があるのですが、その席にその先生たちが加わって熱心に耳を傾けていたのが印象的でした。日本語教育専門家からの具体的なアドバイスを聞いて自分たちも勉強になった、という声もありました。
  一方、実習生も実際に教壇に立つことで多くの疑問や悩みに遭遇します。切実とも言える要望のもと、月に1回、全実習生が大学に戻って話し合う教育実習セミナーの機会を利用した「日本語教育お助けセミナー」を開催しています。なお、大学はこの教育実習セミナーに中学や高校の先生を招き、教育実習の送り出し側(高等教育機関)による、受け入れ側(初・中等教育機関)の教師のための研修ができないかと考えています。
  東北タイにおける教師会の活動は、地理的な広さと交通の不便さもあって活発とは言い難く、集まる機会が限られているのが現状です。この「教育実習」を通して生まれた高等教育機関と初・中等教育機関のつながりをどう生かすか、他の日本語教育専門家とも連携し、考えていくことが今後の課題です。

2.派遣先機関でのその他の業務

 日本語教育プログラムには、現在約120名の学生が在籍しています。2008年度から日本語専門のタイ人講師が1名増えて3名となり、他の専門の先生の力を借りずにプログラムを運営することが可能となりました。日本語教育専門家は、その中心的な役割を担うことが期待されています。授業を担当するほか、シラバス作成の際のアドバイス、教材や資料の紹介などのコンサルティング業務も行っています。また、週に1回プログラム会議を開き、講師間の情報共有に努めています。
  そのほか、学部の会議への出席、学生の日本への送り出しなどの業務もあります。実習を見学した際、JFの研修(日本語学習者訪日研修など)や協定校留学で日本へ行って帰ってきた実習生が、自分の目で見た日本を生き生きと生徒に語っている場面に出会いました。一人でも多くこのような経験ができるようサポートできればと考えています。
  2008年度は5年に1度の教育学部カリキュラム改定作業の年にあたり、学内の検討委員会の正式なメンバーに任命されました。5年という長いスパンでノンネイティブの日本語教師を育てるためにはどのようなプロセスを辿るのがいいのでしょうか。現地の先生と意見を交え、それをカリキュラムとして具体化できれば、コンケン大学の実践はタイの高等教育機関における日本語教員養成の一モデルとして後続校にも影響を及ぼすことになるでしょう。

(*1) 日本語教育プログラムは、日本語教育学科に相当します。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
コンケン大学は1964年にタイ東北部で最初に設立された大学で、17学部および大学院を有するタイ東北部最大の総合大学である。教育学部、人文社会学部で日本語教育を行っている。日本語教育専門家は現在、教育学部日本語教育プログラムの運営、日本語と日本語教育科目の指導、教育実習指導、タイ人講師のサポート、また地域支援を行う。
ロ.派遣先機関名称 コンケン大学
Khon Kaen University
ハ.所在地 123 Mitraparp Highway, Khon Kaen City 40002 THAILAND
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
コンケン大学教育学部日本語教育プログラム
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   主専攻:2004年~
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2005年
(ロ)コース種別
主専攻、選択
(ハ)現地教授スタッフ
常勤8名(内邦人2名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   主専攻:各学年25名前後
(2) 学習の主な動機 日本・日本人・日本語・日本文化への興味、日本語教師希望
(3) 卒業後の主な進路 まだ卒業者なし
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
同上
(5) 日本への留学人数 5名程度

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