世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) みんなで創る教師研修

国際交流基金バンコク日本文化センター
松原 潤、松井玲子、三浦多佳史

 バンコク日本文化センター(以下、JFBKK)が実施している日本語事業の中で、最も力を入れているのは教師研修です。JFBKKに派遣されている日本語教育専門家(以下、専門家)は、この教師研修で講師として教壇に立つことはもちろんですが、研修生に「よい学び」を提供できるような教師研修をデザインすることも期待されています。

 JFBKKの教師研修の特徴として、学習の場がJFBKKにとどまるだけではなく、外とのつながりも意識して実施していることが挙げられます。

 では、もう少し具体的に紹介していきたいと思います。

1.集中研修 ——近隣諸国の教師と共に学ぶ——

 JFBKKではタイ人日本語教師を対象に年2回(4月と10月)、集中研修という5日間の研修を実施していますが、4月の研修では、ラオスとカンボジアから教師を2名ずつ招待して、タイ人教師と一緒に教授法の研修を受けてもらっています。授業の中にはタイ人講師がタイ語で行うものがあります。ラオスの先生はタイ語が分かるので問題はありませんが、カンボジアの先生はタイ語が理解できません。そこで、タイ語が分かる専門家やJFBKKのタイ人専任講師がそばについて日本語にサマリー通訳してサポートしています。

集中研修の様子の写真
集中研修の様子

 各授業ではグループでの意見交換の機会を取るようにしていますが、各グループの中に1人は近隣諸国の先生を入れるようにします。そうすると、自然に日本語でコミュニケーションが始まります。日本語で自分の意見を言ったり、他の人にアドバイスをしたり、他の人からアドバイスをもらったりして、参加者は地域や国、所属機関の枠を超えて交流を深めていきます。専門家はこのような相互交流を促進しながら、参加者と共に学んでいます。

2.新規研修 ——在タイ日本人との交流——

 このコーナーで何度も取り上げられていますが、JFBKKの主要な研修の一つに「中等学校現職教員 日本語教師新規養成講座」(以下、新規研修)があります。この研修は「中等学校に勤める現職の英語や数学などの他教科の教師を10ヶ月間で日本語教師として教壇に立てるようにする」ためのプログラムです。中等学校での日本語教師不足という事態を解消すべく1994年にタイ王国教育省との共催で始められました。

 現在、このコースをJFBKKのタイ人専任講師3名とタイ人非常勤講師2名と日本人専門家1名で運営しています。しかし、実際には、このコースは教師以外にも、たくさんの人の協力を得て成り立っています。このコースの目標の一つに「日本文化・日本事情についての理解を深め、文化紹介する方法を身に付ける」とありますが、特にこの文化活動はコース期間中、継続的に毎週1回、2時間程度の活動に参加してくださっている在タイ日本人のボランティアの方の協力なくしては成り立ちません。

 活動は主に「会話練習」と「文化体験」を行っています。大変ありがたいことにバンコクという土地柄から、たくさんの日本人の方がボランティアとして登録してくれています。2008年度は研修生13名に対して20名近くのボランティアが毎回活動に参加してくれました。会話練習は研修生1名に対して、ボランティアが2名つくこともあります。まさに「両手に花」です。文化体験では外部の講師だけではなく、ボランティアの方にそれぞれの得意分野を活かし、講師をしていただくこともありました。

これからタイダンスを教えますの写真
これからタイダンスを教えます。

 文化体験ではいつも「ボランティア→研修生」という一方通行ではなく、研修生からボランティアにタイの文化を紹介し、「ボランティア⇔研修生」という双方向の交流をするようにしています。ボランティアの方から盆踊りを教えてもらったお返しに、研修生が日本語を使ってタイダンスを教えたり、バナナの葉を使ったお盆の作り方を教えたこともあります。また、ボランティアの方のお宅にお邪魔して日本料理とタイ料理の作り方を教え合いながら一緒に作ったり、研修生がお勧めの観光地を案内するという活動もしました。

 コースの修了式では研修生が今までの学習の成果としてスピーチを発表しますが、ボランティアの方は研修生のコース開始当時の日本語がゼロの状況から知っているだけに、その成長ぶりに感無量のようでスピーチを聞いている日本人の方が涙、涙となってしまいます。

 教室以外で日本語を使用する機会がほとんどない研修生にとって、このボランティアの方と交流する時間は彼らの日本語能力を向上させる上でも、動機付けの面からも大変貴重なものとなっています。また、わずか10ヶ月間で日本語を覚えなければならない彼らにとって、このようなボランティアの方々との交流やさまざまな励ましは、研修中はもちろんのこと研修終了後も精神的に大きな支えとなっているようです。

 このような在タイ日本人との交流は、1.で紹介した集中研修でも取り入れることがあります。2009年4月に実施した集中研修の日本語コースでは、コース最終日の発表会(学校紹介や地域紹介)に在タイ日本人を招待し発表を聞いてもらい、コメントをしてもらいました。また、教授法コースでは教室外活動の体験として、JFBKKの外に出て街頭で会った日本人にインタビューをし、その結果を教室で発表するということもしてみました。

3.ミャンマー日本語教育セミナー

 上の1、2はJFBKKで行っている研修ですが、私たち専門家が外部の教師研修会やセミナーに講師として招かれることもあります。ここでは、1.に関連して近隣諸国の一つであるミャンマーにおけるセミナーについて紹介します。

 1で紹介したように、ラオスとカンボジアの先生は毎年JFBKKの研修に参加していただいていますが、ミャンマーの先生は諸事情のためタイに来ることができません。そこで、私たちのほうがミャンマーに出向いてセミナーを行っています。

 このセミナーは在ミャンマー日本国大使館主催のセミナーで、2005年度、2007年度は年1回のセミナーでしたが、2008年度からは年2回実施しています。開催地は、ヤンゴンとマンダレーの2箇所です。

 ミャンマーでは日本語教授法について学ぶ機会が少ないので、私たちが定期的にミャンマーに行って、教授法についてお話したり、ミャンマーの先生方からお話をうかがったりするのは、大変意義があると考えます。また、ミャンマーには日本語教育関係者による教師会は存在しない(注1)ので、このセミナーの開催自体がミャンマー在住の日本語教師のネットワーク作りに貢献しているのではないかと思います。

 JFBKKでは今後もできるかぎりミャンマーへの支援を続けたいと考えています。

4.おわりに

 このようにJFBKKの研修は、外とのつながりを大切にして実施しており、参加者(タイ人教師、近隣諸国の教師、在タイ日本人)はもちろん私たち専門家もお互いに刺激しあって学んでいます。このような研修を通じて、研修に参加した日本語教師がさらに成長していくことを期待しています

(注1)国際交流基金「日本語教育国別情報 ミャンマー 2007-2008年度」
http://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/area/country/2007-2008/myanmar.html>による。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
タイ国全土及び近隣諸国(ラオス、カンボジア、ミャンマー)の日本語教師・学習者支援のためさまざまな事業を行っている。教師支援としては各種の研修(集中、水曜、土曜、新規養成)や半日または1日のセミナーを企画・実施している。学習者支援としては一般講座の開講、高校教科書『あきこと友だち』の副教材の制作など。また、コンサルタント業務、紀要やニューズレターの発行を通して情報センターとしての機能を果たしている。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation, Bangkok
ハ.所在地 Serm Mit Tower, 10F, 159 Sukhumvit 21 (Asoke Road)
Bangkok 10110, Thailand

Tel:66 (2) 260-8560~64   Fax:66 (2) 260-8565
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:2名、ジュニア専門家1名
ホ.アドバイザー派遣開始年 1994年

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