世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本語教員養成のパイオニアとしての歩み

コンケン大学
西野 藍

 コンケン大学は、タイ東北部にある国立総合大学です。教育学部にタイ初の日本語教員養成課程が開設されてはや5年がたち、2009年3月に第1期生14名が全課程を修了しました。タイでは一連の教育改革の流れの中で「専門職としての教員の水準 (Education Professional Standards)」が2005年に公布され、教員養成もそれに準じて行うことが求められています。それを現場の視点から考え、タイにおける日本語教員養成のパイオニアとしての歩みを現地の先生方と共に進めていくこと。これが日本語教育専門家(以下、専門家)に期待されている役割だと言えます。

1.自らの実践を振り返り、改善できる教師になるために

教育学部と発表会の看板の写真
教育学部と発表会の看板
小学校での実習風景の写真
小学校での実習風景

 2009年3月、教育学部で「The First Annual Research Meeting of Pre-service Professional DevelopmentRMPPD2009)」が開催されました。これは各地の初等・中等学校で教育実習を行っていた5年生による「授業研究」の最終発表会です。タイ教育省の方の記念講演の後、教育学部の全プログラム(数学教育、理科教育、社会教育、芸術教育、体育教育、タイ語教育、英語教育、日本語教育、コンピュータ教育)の5年生が自分の授業研究について発表しました。日本語教育プログラムの学生は「中学2年生を対象とした日本語語彙の理解向上のための研究」「高校1年生のための日本語聴解練習—ワークシートの活用—」などのテーマで発表しました。日々、日本語教師として教壇に立っている者としての具体的な問題意識とそれを改善するための様々な試み。この1年、実習を通して生徒と向き合い続けた5年生の一教師としての成長を強く感じることができました。授業研究は全てタイ語で論文としてまとめられ、学部に保管されています。

 このように現在のタイでは教授技術の向上に加え、実践を振り返り、自ら改善できる教師となることが求められています。この考えのもと、2008年度はカリキュラム検討委員会の一員として現行カリキュラムの見直しと改定に取り組みました。初代専門家の頃からの懸案事項だったカリキュラム改定ですが、特に見直しを任された専門科目の部分について現地の先生方と協議を重ねました。正式な手続きのもとで学部と大学の承認を得た新カリキュラムは、2009年度入学生より全面的に適用されることになっています。

 現在、日本語教育プログラムには約120名の学生が在籍しており、今後は卒業生を毎年輩出することになります。それと並行して新カリキュラムでの教育が行われるわけですから、日本語教員養成課程としての歩みは第二の段階に入ったと言えるでしょう。

2.派遣先機関でのその他の業務

 派遣先機関では授業担当のほか、他の教員のサポートが業務の中心となっています。2009年度から卒業生(第1期生)が教員としてプログラムに加わることになりました。日本語教育課程を主専攻で修了し、教育専門職免許状を有する初のタイ人日本語教員の誕生です。同僚の先生と連携し、チームティーチングを通して日々サポートすることにしています。

 その他、学内の会議や行事に関する業務、課外プログラム(バンコク日本人学校訪問、バンコク日本人家庭ホームステイなど)や日本留学に関する業務などがあります。これらは全て毎週のプログラム会議で情報共有し、同僚の先生と協力して進めています。

3.地域支援と今後の課題

 2009年3月、JFにほんごネットワーク(さくらネットワーク)のメンバーであるコンケン大学で、タイ東北地方の日本語教員間のネットワーク構築を目的とした「東北タイ日本語教育セミナー」(コンケン大学教育学部主催、国際交流基金後援)が開催されました。中等学校を中心とする30の機関からタイ人及び日本人の先生が集まり、活発な情報・意見交換が行われていました。また、その先生方と一緒にコンケン大学を訪れた80名近い高校生が、教育学部の学生のリードのもと皆で日本語のダンスを踊って交流する微笑ましい光景も見られました。

 近隣の日本語教員のサポートは、これまで対個人でのコンサルタント業務を中心に行ってきましたが、コンケン大学が東北タイの日本語教育の拠点となることを望む声はタイ人、日本人を問わず少なくありません。このセミナーを通して、地方で日本語や日本語教育に携わる人々がその地域で集まるのは非常に意義深いことだと改めて実感しました。2009年10月にはタイ国日本研究ネットワーク(Japanese Studies Network-Thailand)の全国大会がコンケン大学で開催されることになっています。国際交流基金バンコク日本文化センターや他の専門家との連携を続け、現地の先生方を中心とした東北地方ならではのネットワークのあり方を模索していきたいと考えています。

*参考:2008年度「世界の日本語教育の現場から」(コンケン大学)

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
コンケン大学は1964年にタイ東北部で最初に設立された大学で、17学部および大学院を有するタイ東北部最大の総合大学である。教育学部、人文社会学部で日本語教育を行っている。日本語教育専門家は、教育学部日本語教育プログラムの運営サポート、日本語と日本語教育科目の指導、教育実習指導、タイ人講師のサポート、また地域支援を行う。
ロ.派遣先機関名称 コンケン大学
Khon Kaen University
ハ.所在地 123 Mitraparp Highway, Khon Kaen City 40002 THAILAND
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
コンケン大学教育学部日本語教育プログラム
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   主専攻:2004年~
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2005年
(ロ)コース種別
主専攻、選択
(ハ)現地教授スタッフ
常勤6名(内邦人2名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   主専攻:各学年25名前後
(2) 学習の主な動機 日本・日本人・日本語・日本文化への興味、日本語教師希望
(3) 卒業後の主な進路 中等学校教員・母校就職・日系企業就職・進学
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級を受験可能な程度
(5) 日本への留学人数 5名程度

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