世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) スー、スー、イープン!

国際交流基金バンコク日本文化センター
三浦多佳史 渋谷実希 古内綾子

スー、スー!チャリティーサッカーでの応援の写真
スー、スー!チャリティーサッカーでの応援

 2011年3月の東日本大震災の後、タイではさかんに募金活動が行われ、日本への応援メッセージが街中にあふれました。
「スー(がんばれ)、スー(がんばれ)、イープン(日本)!」
 見知らぬ人でも、こちらが日本人だと分かると、「大変だったね」「大丈夫?」と声をかけてくれます。タイの人々が、日本に親しみを持ち、助け合う仲間だと思ってくれていることを肌で感じ、感謝の気持ちでいっぱいになりました。

タイの日本語教育と国際交流基金バンコク日本文化センターの役割

 さて、このように親日的なタイにおける日本語教育の動向ですが、近年は中等教育段階での学習者が増大しています。それに伴い、国際交流基金バンコク日本文化センターも、特に中等教育段階の日本語教育支援を大きなミッションに据えています。中学校や高校の選択コースで日本語を学習する人のための教材開発や、教師の日本語ブラッシュアップ、教え方の更なる向上を目指した研修会などを行っています。学習者がイキイキするアイディアはないか?先生が教えやすくなる方法はないか?…常に現場を意識し、喜んでもらえることを目指しています。

タイの先生方が感じている日本語教育の課題

 私たちは、日本語を教える際の課題やニーズを知るため、直接話を伺ったり、アンケートをとったりしています。昨年9月の調査からは、中等教育の先生方が自分たちの生徒について、次のような課題を感じていることが明らかになりました。

  • 言語的な知識と実際の運用力とのギャップ
  • 口頭コミュニケーション能力の不足

 そしてその原因には、「学んでも使う機会がない」、「大学入試のための知識偏重教育」、「教師の経験や能力不足」などが挙げられました。

「JF日本語教育スタンダード」と『あきこと友だちCan-doハンドブック』

2011年3月日本語教育セミナーの写真
2011年3月日本語教育セミナー

 上記の課題解決に役立てることはないだろうか…?試行錯誤の結果、先生のための参考書を作り、それを使った研修会を行おう、ということになりました。

 現在、タイの中等教育機関では、80%以上の日本語クラスで、当センターが開発した『あきこと友だち』(※1)というテキストが使用されています。私たちは、このテキストをどのように使えば知識を運用につなげられるのか、口頭コミュニケーション能力育成ができるのか、などについてアイディアや工夫を1冊にまとめることにしました。それが『あきこと友だちCan-doハンドブック』です。

(ア)Can-doとは?

 では、タイトルにある「Can-do」とは、何でしょうか。「Can-do」は、言語の熟達度を「何が、どれぐらいできるか」という文で表したものです。(詳細は、『JF日本語教育スタンダード2010』(※2)を参照)これまでは、「文法の規則を勉強する」「語彙をいくつ覚える」など、知識を増やすことが日本語学習の中心になりがちでしたが、「Can-do」は、そういった日本語の知識を使って「○○ができる」ことを具体的に示しています。私たちは、『あきこと友だち』全30課分にこの「Can-do」を使った目標を設定しました。

(イ)「Can-do」を目標とした授業・評価

 例えば、『あきこと友だち』第2課では、「パーティなどで初めて会った人に、自分の名前や国籍、学年など、非常に基本的な表現を使って自己紹介と挨拶が出来る」が「Can-do」です。そうすると授業では、名前の言い方や、「私は高校生です」「よろしくおねがいします」などの表現を教えることになります。パーティで挨拶をする時には、文字に頼ることはできませんから、口頭でのドリル練習や、実際のコミュニケーションに近づいた練習など、口頭練習の機会を多く提供することが必要です。そして最後に、学習者が本当にできるようになったかどうかを確かめるために、評価をします。文法や語彙の力はペーパーテストで測れますが、質問を聞いてちゃんと答えられるのか、通じる発音ができているかなどは、実際のパフォーマンスを見て評価しなければいけません。

 このように、①目標である「Can-do」、②その目標を目指した授業、③目標を達成できたかどうかの評価、を一貫して行えば、「言語的な知識と実際の運用力の差」は縮まり、「口頭コミュニケーション能力の育成」につながると考えます。

(ウ)ハンドブックの完成と今後の活動

 『あきこと友だちCan-doハンドブック』は、上記の①、②、③への提案や工夫をまとめたものです。完成後は、これを携えてタイの各地を回り、先生方と一緒に使い方の実践練習をしていく予定です。また、学習者の皆さんが学んだ日本語を使う機会を作り、「日本語で○○ができた!」という実感を持てるような活動も行っていきたいと考えています。

これからも、日本とタイが、互いを大切に思い合う関係でいられますように。
スー、スー、ドゥアイカン!みなさん、今日も一緒にがんばりましょう!

  1. ※1 国際交流基金バンコク日本文化センター(2004)『日本語 あきこと友だち1~6』紀伊国屋書店
  2. ※2 国際交流基金(2010)『JF日本語教育スタンダード2010』
    国際交流基金(2010)『JF日本語教育スタンダード2010利用者ガイドブック』
参考URL
「JF日本語教育スタンダード」http://jfstandard.jp/top/ja/render.do
「みんなのCan-doサイト」http://jfstandard.jp/cando/top/ja/render.do
派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Bangkok
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
タイ国全土及び近隣諸国(ラオス、カンボジア、ミャンマー)の日本語教師・学習者支援のためさまざまな事業を行っている。教師支援としては各種の研修(集中、水曜、金曜、新規養成)や半日または1日のセミナーを企画・実施している。学習者支援としては一般講座の開講、中等教育日本語選択コースの教材制作など。また、コンサルタント業務、紀要やニューズレターの発行を通して情報センターとしての機能を果たしている。
所在地 Serm Mit Tower, 10F, 159 Sukhumvit 21 (Asoke Road)
Bangkok 10110, Thailand

Tel:66 (2) 260-8560~64 Fax:66 (2) 260-8565
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:2名、専門家:1名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1994年

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