世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 現地で喜ばれる教師研修を目指して ―タイ北部中等日本語教育支援―

国際交流基金バンコク日本文化センター
(タイ北部中等教育機関)
高塚 直子・大谷 つかさ

皆さん、タイ北部より「サワディーチャーオ(こんにちは)」。今年の4月末で、タイ北部中等日本語教育支援担当の国際交流基金日本語専門家(以下、JF専門家)が、私(高塚)から大谷に変わりました。今回の記事では、タイ北部のJF専門家の重要な日本語教育支援業務の一つである「JF北部タイ教師研修(以下、教師研修)」についてお話したいと思います。なぜなら、2011年度からこの教師研修の運営方法や内容を現場の様々な状況とニ―ズに合わせて、大幅にやり方を変えたからです。まずは私から、この「教師研修の概要」「過去の研修の問題点や課題」「新たな研修運営方法、目標、内容」「2010~2012年度教師研修の成果と課題」について報告し、大谷より、現在の計画や抱負をお話ししたいと思います。

1. JF北部タイ教師研修の概要

この研修はもともと、タイ人日本語教師の日本語力維持と向上のために、2001年度から始まり、当初は金曜日にチェンマイで行われていました。この研修では、タイ人教員の日本語教授法に関する学習、ネットワークの構築と強化などの機会を提供し、JF専門家の担当地域である上北部8県(チェンマイ、チェンラーイ、ランプーン、ランパーン、プレー、ナーン、パヤオ、メーホンソン県)の中等日本語教育の質の向上に貢献してきました。

2. 過去の教師研修の問題点や課題

研修参加者が作った漢字のゲームで真剣勝負の写真
研修参加者が作った漢字のゲームで真剣勝負!
(メ―ホンソン県)

研修参加者は非常に意欲的に学び、前任のJF専門家も様々な工夫をしながら熱意を持って教えていましたが、年度をるにつれ、研修の運営方法や内容について、様々な問題点や課題が挙げられるようになりました。2001年度から2009年度までのタイ北部JF専門家がこのホームページに載せたレポートによると、「研修がある金曜日に頻繁に学校を離れて参加することが、学校や教育省内部関係者によく思われていない」「研修内容は日本語能力向上に重点を置いても、その効果が現場で見えにくい」「チェンマイから遠い場所に住んでいる教員が研修に参加しにくい」などの声があったようです。

私が赴任した2010年度は、現状把握が不十分であったため、今まで通り、チェンマイでのみ、通年開講の研修を実施し、チェンマイの教員を中心に11名の参加がありました。参加者の多くは、この研修での学びの機会を肯定的に捉えていましたが、チェンマイ中心ではなく、支援担当地域である上北部8県全体の日本語教育支援に役立つような、現場の状況に即した教師支援のあり方を考えるようになりました。

3. 新たな研修運営方法、目標、内容

初めての日本料理の研修で食べる気満々の皆さん(チェンマイ県)の写真
初めての日本料理の研修で食べる気満々の皆さん
(チェンマイ県)

2011年度と2012年度は、前述の状況を少しでも改善しようと考え、チェンマイで行う「チェンマイ研修」とチェンマイ以外の担当地域で行う「地方研修」を実施しました。これらの研修は、1~2カ月に一回、開催先の学校の都合に合わせた日程で、一日、または半日で終わる単発型の研修とし、どの地域の現場の先生方も教師研修に、より参加しやすい環境作りを心掛けました。また、タイ人教師だけではなく、日本人教師も研修に参加できるようにしました。

研修目標は、「授業ですぐに使える日本語教授法や日本文化の活動について学ぶ」「意見交換、情報交換を通したネットワーク形成」としました。2010年度と同様に「初級の日本語教授法」の内容を扱った点は変わりませんが、タイ人教師から「どうやって日本文化を教えたらいいのかわからない」という問い合わせが多かったので、中高生も楽しんでできそうな「日本文化の活動」も多く取り上げました。例えば、「ふろしき」「和太鼓」「日本料理」「ペットボトルの剣玉」などです。また、参加者が研修の授業を生徒になって体験してもらう「体験型」の研修スタイルを多く取り入れたことで、参加者が研修の中で自分のクラスの状況をイメージしやすくなりました。

4. 2010-2012年度教師研修の成果と課題

以上のように、研修の運営方法や内容を大幅に変更した結果、2011年度と2012年度の2年間で、支援担当地域の北部8県全てにおいて合計23回の実施ができ、合計340名のタイ人、日本人教師の参加がありました。参加者のアンケートからは、「研修場所がアクセスしやすかったこと」「忙しくても自分の都合に合わせて参加できること」「体験型の初級の日本語教授法の研修は、タイの中等日本語教育のクラスで役立つヒントが多いこと」「自分の身近な地域の先生方と会うことができたこと」「タイ人と日本人の教師がお互いに学び合うことができたこと」などについて特に肯定的なコメントが寄せられました。

課題は、研修で取り上げた日本語教授法のトピックが少なく、内容も薄かったのではないかと感じている点です。今後も、日本語教師として日々精進する姿勢を忘れず、毎日のクラスから学び続けたいと思っています。

加えて、研修開催先の先生方には本当にお世話になりました。みなさんのサポートがあってこそ、今までの研修を無事に実施することができました。心から感謝申し上げます。

5. 2013年度以降の教師研修の計画と抱負

2013年度は上記の、「一都市に偏ることなく、多くの地域で行うこと」、「タイ人教師に限らず現地の日本人教師の支援も念頭に入れること」の2点を引き継いで研修を実施していきたいと考えています。内容は、現場の先生方との話の中で見えてくる課題やニーズを取り上げることはもちろんですが、「すぐに授業で使える実践的なもの」と「様々な学習活動の意味や背景知識」の2点を取り入れる必要があると思っています。この2点が満たされるよう工夫するとともに、タイの中等教育機関で多く使用されている教科書『あきこと友だち』『こはるといっしょに にほんごわぁ~い』を取り上げ、教材分析などを行いながら、先生方が持つアイディアの共有の場となるよう心掛けていきたいです。

また、各地の研修で取り上げた内容や、参加者からのアイディアを地域を超えて共有できるよう、「つなぐ」役割をJF専門家が担っていきたいと考えます。今年度はSNSなどのICTをうまく活用しながら地域をつなぎ、知識や情報を共有しながら、更にタイ北部の日本語教育が充実したものになるよう活動していきたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 ユパラート・ウィッタヤライ校
Yupparaj Wittayalai School, Chiang Mai
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
専門家の派遣先機関はチェンマイ県の伝統ある有名校で、タイ北部において、中等日本語教育のリーダー的役割を担うセンター校である。日本語コースは今年度で10年目を迎え、日本語専門家(旧ジュニア専門家)派遣も10年目となる。日本語専門家はタイ人日本語教員のための教師研修会運営や学校訪問、巡回指導、教員間のネットワーク形成支援といた地域全体に対する支援と、派遣機関に対する日本語教育全般における支援を行う。
所在地 238 Praplokkloa Rd,. T.Sripoon, A.Muang, CHIANGMAI 50200
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
第二外国語グループ
日本語講座の概要
沿革
講座(業務)開始年   2004年
国際交流基金からの派遣開始年 2004年
コース種別
専攻:高校1ー3年
選択必修:中学3年、高校1ー3年
現地教授スタッフ
常勤4名(うち邦人1名)
学生の履修状況
履修者の内訳   専攻:約125名
選択必修:約505名
学習の主な動機 ひらがな、日本旅行、日本の歴史、日本のアニメやマンガなど
卒業後の主な進路 大学進学
卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N5受験可能
日本への留学人数 1名

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