世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本語と日本を楽しく学ぶ教材 -こはるといっしょに にほんごわぁ~い

国際交流基金バンコク日本文化センター
阿部 洋子・佐藤 五郎・古内 綾子

中等学校の日本語教育

タイの日本語学習者の中では、中等学校の生徒が占める割合が一番高いです。タイで外国語教育を実施する目的は何でしょうか。教育省の2008年カリキュラムでは、外国語学習の目標として、学習者が外国語に対して前向きな態度を持つこと、コミュニケーションや知識の探求等のために外国語が使えるようになること、そして異文化に対する理解と相互交流のための能力の養成を挙げています。換言すれば、多文化・多言語に接触する機会がさらに日常化する社会的環境に生きるための力を養成することが目標となっていると考えられます。

「こはるシリーズ」の制作・刊行

こはるシリーズの写真
こはるシリーズ

日本語が開講されている中等学校で、生徒は、週6時間程度の授業がある専攻コース、週に1回2時間の選択コース、週に1時間だけの活動コースのいずれかで日本語を勉強しています。

2010年に教育省から出された「WORLD CLASS STANDARD SCHOOL」の方針により、第二外国語を選択科目として勉強する生徒が増えたため、学習時間の少ないコース用の教材が必要になりました。そこで、バンコク日本文化センター(以下、バンコクセンター)では、そのための教材制作に取り組みました。私たちが「こはるシリーズ」と呼んでいる教材です。「こはるシリーズ」では、タイの中等学校に留学した日本人留学生「こはる」が登場人物として活躍します。まず、2011年にひらがな学習用教材『こはるといっしょに ひらがなわぁ~い』、続いて2012年に日本語と日本文化を学ぶ教科書『こはるといっしょに にほんごわぁ~い1』、さらに2013年3月に『こはるといっしょに にほんごわぁ~い2』(以下、「にほんごわぁ~い」)が刊行されました。

「こはるシリーズ」は、学習者が楽しく学べることと、日本語と日本に興味を持ち、互いの文化を理解し相互交流ができる姿勢・態度が養成できることを、大きなねらいとして制作されました。3冊に共通するのは、カラー印刷でイラストと写真が多用されていることです。また、「こはるサイト http://koharutoisshoni.com/ 」を開設し、学習者にとっても教師にとっても使いやすい教材になるようにしています。

タイの生徒が学ぶ文化とは

ことばと文化を学ぶ「にほんごわぁ~い1・2」は、場面会話編と文化編に分かれています。ここでは、文化編の紹介をします。タイの生徒がどのように文化を学ぶのか、興味を持っていただけるのではないかと思います。

教科書にはmp3のディスクがついていて、文化編を教えるためのPPTが入っています。このPPTがあれば、他に準備をしなくても授業ができます。授業準備に十分な時間が取れない多忙な先生の強い味方です。生徒にとっても十分に知的好奇心を満たすことができるよう、教科書にはない情報がクイズ形式でイラストや写真と一緒に提供されます。

日本とタイの文化の共通点や相違点に気づかせたり、一般的な知識と結び付けたクイズがあったり、と、日本人が見ても興味が持てる内容を扱っています。たとえば、「にほんごわぁ~い2」の「日本人と買い物」というユニットでは、タイと日本の物価の違いを知ることができます。タイの庶民的な屋台ごはんと日本の弁当屋の海苔弁の値段を基準にして、いくつかのサービスの料金を比べています。路線バスの料金は日本の方が高いのですが、UFOキャッチャーやボーリングの1ゲームの料金は日本の方が安いことがわかります。タイの生徒は日本について学び、日本人にとっては、タイの学校生活や一般的な生活文化を知ることができる内容になっています。興味を持った方は、ぜひ「こはるサイト」を覗いてみてください。そこから「にほんごわぁ~い」のTeachers Roomに入れば、日本語版のPPTが見られます。

「こはるシリーズ」は、バンコクセンターのタイ人日本語講師と日本からの派遣専門家の協働で制作されました。派遣専門家は、場面会話編の録音にも関わっています。日本のラジオ体操を紹介する映像には、バンコクセンターの日本語教師養成コースで学ぶタイ人の先生方が登場しています。教材制作に関わった私たちは、その過程で異文化理解や相互交流を十分に経験することができました。2008年カリキュラムの外国語学習の目標が達成できたのではないかと思います。

日本との物価の違いの説明画像1
日本との物価の違いの説明画像2
文化編「日本人と買い物」PPT(日本語版)

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Bangkok
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
タイ国全土の日本語教師・学習者支援のためのさまざまな事業を行っている。教師支援では、中等教育の教師養成・現職教師対象の各種研修、学習者支援では、JFスタンダード講座を始めとする一般講座の開講。また、コンサルタント業務、紀要やニューズレターの発行等を通して情報センターとしての機能を果たしている。
所在地 10th Fl. Serm-Mit Tower, 10F, 159 Sukhumvit 21Rd., Bangkok 10110 Thailand
Tel:66(2)260-8560~64 Fax:66(2)260-8565
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:2名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1994年
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