世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)好奇心を持って アンテナを張って

国際交流基金バンコク日本文化センター(タイ北部中等教育機関)
大谷つかさ

山々に囲まれた自然豊かなタイ北部(以下、北部)。最も北の県からはお隣の国、ラオスやミャンマーを眺めることができます。そんな首都バンコクから700キロ以上も離れた北部でも、多くのタイ人、日本人教師が活躍し、中高校生の元気に日本語を勉強する声が毎日聞こえています。

「~みよう」という姿勢

授業の様子
漢字ゲームをする生徒達

北部に派遣されて以来、「やってみよう」と考えることが多くなったように思います。わからないけど、不安はあるけど「行ってみよう」、「やってみよう」。

これはきっと、北部の先生方、生徒達が持つ「~みよう!」という興味や積極的な姿勢が私にも伝染しているからだと思います。チェンマイ県で開く教師研修や国際交流基金バンコク日本文化センター(以下、センター)が開催する北部での研修には毎回多くの先生方が参加しています。そして、帰り際にいつも誰かが「早速授業で使ってみようと思います!」と言い、次の回にその成果を報告してくださる方もいます。このように、常に教え方に興味を持ち、実践されている先生方の元で日本語を勉強している生徒達も、やはり「~みよう!」という姿勢が見られます。学校訪問に行くと、私に積極的に話しかけ、「勉強した日本語を使ってみよう」とする生徒、恥ずかしいから「挨拶だけ頑張ってみよう」と笑顔で挨拶してくる生徒、日本語に自信はないけど「日本人に何か言ってみよう」と、タイ語を織り交ぜて話す生徒など、どこに行っても「~みよう!」という力が感じられ、学校訪問の後は元気になれます。

先生、生徒が持つこの日本語に対する「~みよう!」という気持ちを引き出し、持続させることが私の仕事であり、私自身にとっても大切なことだと感じています。

今、必要なことを

アイディア紹介写真
SNSで紹介したタイ人教師のGood idea

上記のような先生方への主な支援として、教師研修や学校訪問を行っています。私は特に、学校訪問は重要であると感じています。その理由として、実際に先生方の授業を見、生徒と接することで、「今、必要なこと」が明確になる、というのがあります。

学校訪問をすると現状が分かり、自分が今すべきことをより深く理解できるというのが大きな利点です。教師研修で現地の先生方と話すのと、学校訪問で話すのとでは聞ける内容に当然違いが見られますし、各学校が抱える問題や悩みは様々であることを実感します。先生方と話していると、「アドバイスがほしい」と思っていたり、「授業を見せてほしい」、「役立つツールが知りたい」、はたまた「ただ悩みを聞いてほしい」と思っていたりすることが窺えます。その様々な「必要なこと」に対応するためには、私自身が常にアンテナを張って教授知識や日本語教育に関する情報を蓄えておき、すぐに取り出せるようにしておくことが不可欠であると感じます。一方で、学校訪問では教室作りのアイディアや授業アイディアなど先生方の実践の中に真似したくなるような素晴らしいものが見られます。しかし、そのアイディアを共有する場は少なく、他の先生に知られていないという現状がありました。そこで、2013年度より、SNSsocial networking service)を使い、情報共有を行っています。内容は、学校訪問で見た先生方のアイディアの紹介や、研修内容、様子の紹介、センターからの情報、日本語リソースの紹介などです。情報を残すこと、共有することでその場限りで終わらないことを目指しました。学校訪問、教師研修での支援をさらに長期的な支援につなげるためには、ICTInformation and Communication Technology)を利用するなどし、教師同士が情報やアイディアを共有していけるような仕掛けが必要です。自分自身が抱える問題の解決策を「探せる」ことや「アクセスできる」ことが大きな支援につながると考えます。今年度は、前述のSNSに加え、東北部に派遣されている国際交流基金日本語専門家などと共に「見てすぐ実践できる」動画の作成・配信を行うことになりました。(参考https://www.facebook.com/miru.oshiekata

先生方が「~みよう」と自らアクセスしていけるようになることが、長期的な支援につながると思います。今後も、学校訪問で出会った多くの生徒の笑顔を思い浮かべながら、その生徒を指導している先生方への支援方法を探っていきたいと思います。

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