世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)タイでつながる!日本語の輪

国際交流基金バンコク日本文化センター
中尾有岐

タイの日本語学習者はどんどん増えており、その数は約13万人、世界第7位となりました(国際交流基金2012年度日本語教育機関調査)。その中で最も多いのは中等教育(日本の中学・高校に相当)の学習者です。専攻、選択科目を合わせて、325機関84,879人が日本語を履修しています。タイ中等教育の外国語教育では、外国語の習得だけでなく、「外国語に対する前向きな姿勢」「知識の探求」「異文化理解」といったグローバル化が進む社会に対応する力、「21世紀型スキル」の習得も期待されています。今回は、そうした力の養成を目的とした日本語キャンプについて紹介します。

タイ国際日本語キャンプ2015

お年寄り体験の様子
お年寄り体験

2015年5月、タイ教育省と国際交流基金バンコク日本文化センター(以下、JFBKK)共催で5日間にわたる「タイ国際日本語キャンプ2015(日本語を学ぶ高校生を対象にホテルで行う合宿研修)」が行われました。第1回は2013年にチェンマイで、第2回となる今回はプーケットで開催。「国際」という名の通り、タイ全国各地に加え、中国、韓国、インドネシア、マレーシア、ベトナム、オーストラリア、そしてタイ在住の日本人の計8ヶ国から152名の高校生が参加しました。今回のキャンプは「プロジェクト型学習」の手法を用いたデザインで、プロジェクトを遂行しながら、「日本語」と「考える力」、「協力しあう力」の向上を大きな目標としました。テーマは、「Love Care Share ―社会に目を向けよう!今、私たちがすべきことを考えよう!―」。社会には様々な人がいますが、今回は「お年寄り」にターゲットを絞り、お年寄りについての調査、お年寄り体験、グループでの話し合いなどを通して、考えを深めていきました。最後はグループで考えた「お年寄りのための物やサービス」を発表。どのグループも問題を細かく分析し、「ふしぎな爪切り」「さよなら白髪」「パラダイスカート」といったオリジナリティ溢れる物やサービスを、PPTやポスター、スキット、ビデオなどを効果的に使い、おもしろく、わかりやすく発表してくれました。

国を越えて、日本語でつながろう!

グループワークの様子
グループワーク

キャンプの共通言語は日本語。8人グループの中には国も日本語のレベルも違う生徒が混在していましたが、すらすら話せなくても懸命に日本語で伝えようとする姿や、またその生徒に対し、「ゆっくりでいいよ。リラックスして。待っているから。」と声をかけ、真剣に聞こうとする姿が見られました。日本語での異文化間コミュニケーションは、うまく伝えられない悔しさや焦り、理解のずれも生じたことと思います。しかし、それも「国際キャンプ」ならではの貴重な経験。「グループワークで他の人と協働する練習になった」といった声もたくさん聞かれました。日本語に関しては、「日本語を使うチャンスが多かった。使わなければならない場面ばかりだったが、それでもよかった。」「話す勇気が増し、表現することや意見を言うことへの自信がついた。」といった声があがり、キャンプで作られた環境が日本語を使う動機や自信に繋がったことがわかります。さらに、「考えるためのプロセスを知った」という生徒もおり、「考える力」も意識化されていました。懇親会では各国の生徒たちがパフォーマンスを披露し、大いに盛り上がりました。5日間共にがんばった仲間たちとの間には絆が生まれ、帰り際には別れを惜しみ涙する生徒もいました。このキャンプのFacebookグループでは、今も参加者同士のやりとりが続いています。今回の経験が今後の日本語学習、そして彼らの人生に何らかの形で活かされることを願います。

陰の立役者!高校の先生方の活躍

キャンプでは、タイを含め各国の先生が38名参加しました。先生方はファシリテーターとしてグループに入り、生徒を見守りつつ、話し合いが滞ったときには、質問を投げかけ、サポートしてくださいました。おかげで、グループワークはスムーズに進み、生徒たちはより深く広く考えることができました。実は、このプロジェクトをデザインしたのも2名のタイ人の高校の先生です。今回のキャンプでも、JFBKKの講師と共に講師を務めていただきました。日本語で堂々と話す2人の姿は、生徒だけでなく教師たちにも強い印象を与え、学習者、教師としてのやる気をかきたてたようでした。

タイの先生方は、新しいものを取り入れようとする柔軟な考えを持っており、新しいプロジェクトにも積極的に協力してくださいます。講師の他にもスタッフとして、約20名の高校の先生方が走り回ってくださいました。大規模のキャンプを運営していくのは簡単なことではありません。講師、スタッフ、ファシリテーターを快く引き受け、責任を持って、笑顔で取り組んでくださった全ての先生方に感謝の気持ちでいっぱいです。

これからも、そんな先生方、生徒たちが、楽しく、よく考え、そして協力し合いながら学べるような日本語教育のあり方を模索しつつ、支援を続けていきたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Bangkok
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
タイ国全土の日本語教師・学習者支援のためのさまざまな事業を行っている。教師支援では、中等教育の教師養成・現職教師対象の各種研修、学習者支援では、JFスタンダード講座を始めとする一般講座の開講。また、コンサルタント業務、紀要の発行等を通して情報センターとしての機能を果たしている。
所在地 10th Fl. Serm-Mit Tower, 10F, 159 Sukhumvit 21Rd., Bangkok 10110 Thailand
Tel:66(2)260-8560~64 Fax:66(2)260-8565
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:2名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1994年

[お問い合わせ]

国際交流基金(ジャパンファウンデーション)
文化事業部 欧州・中東・アフリカチーム 担当:中島、永田
電話:03-5369-6063
Eメールアドレス:Q_europe_mideast_africa@jpf.go.jp
(メールを送る際は、全角@マークを半角@マークに変更してください)

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