世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)広がり深まる学びと仲間 中等教育タイ人教師たちの奮闘――2つのブラッシュアップ研修――

バンコク日本文化センター
中尾有岐・松浦とも子

日本語学習者数世界第7位のタイ。子どもから社会人まで幅広い人が日本語を学んでいます。中でも最も多いのが中等教育機関(日本の中学・高校に相当)の生徒たちで、その数はタイ全体の約7割(84,879人)を占めます(国際交流基金2012年度日本語教育機関調査)。2010年に教育省が出した「WORLD-CLASS STANDARD SCHOOL」という中等学校対象の新方針により、文系だけでなく理数系も含め全ての生徒が英語以外の第二外国語を履修できるようになり、日本語を学ぶ生徒の数が増加しています。

タイの日本語教育を支えるタイ人日本語教員

生徒が増えれば、それを教える教師の数も増やさなければなりません。そこで、国際交流基金バンコク日本文化センター(以下、JFBKK)では、教師不足解消を目的に、タイ国教育省との共催で、「中等学校現職教員日本語教師新規養成講座(以下、新規研修。詳細は2012年度レポート参照)」や「「中等教育公務員日本語教員養成研修(以下、OBEC研修。詳細は2013年度レポート参照)」を実施してきました。2016年5月現在、300名近い当センターの養成研修修了生が全国各地の高校で日本語を教えています。

しかし、JFBKKの仕事は「養成して終わり!」ではありません。タイの日本語教育を支える現職教師に対し、更なる日本語力と教授力向上のための研修を以下のように実施しています 。

日本語ブラッシュアップ集中研修

高校の日本語教師の中には、日本語を使うのは授業だけという人も少なくありませんが、「もっと日本語が上手になりたい」と思っている教師はたくさんいます。

そこで、JFBKKでは2015年度から6週間の「日本語ブラッシュアップ研修」を年2回実施しています。2015年9、10月に実施した第1回研修には20代から50代という新人からベテランまでの37名が参加しました。日頃の業務が多く、まとまった勉強時間をとることが難しい教師たちですが、生徒のためを思い、貴重な長期休みを利用して、研修に参加してくれました。1人でははかどらない勉強も、同じ志を持った仲間がいれば、やる気も増します。励まし合う協力的な雰囲気の中、授業が進みました。

「日本語ブラッシュアップ研修」では、日本語能力向上を目標に、「総合クラス」や、「読解」「聴解」「漢字・語彙」といった技能別の授業を受けます。さらに、「日本語教育Can-do」という授業では、研修生がグループになり、現場で日本語を使用しなければならないコミュニケーション場面を考えました。「学校や日本語コースの情報を日本人に伝える」「日本人に手伝ってほしいことを伝える」「説明する」など、日本人教師やボランティアを想定した状況があがり、そうした場面でどんな表現を使えばよいかを研修生同士で話し合いました。その後、日本人ボランティアに協力してもらい、実際に日本人に説明するという体験をしました。「日本人教師やボランティアなどとの仕事のやり方がわかった」「日本人ボランティアによりよく対応できるようになると思う」といった声が聞かれ、日本語の表現だけではなく、日本人との仕事のしかたについても考えるきっかけとなったようでした。

教授法ブラッシュアップ地方研修

教授法の研修にも、新規研修やOBEC研修修了生を含め、たくさんの教師が参加します。2015年度前期は「学習者中心の授業」、後期は「話す力を伸ばす」というテーマで、5つの地方で2回ずつ行いました。JFBKKのタイ人講師によるタイ語での講義を受けながら、参加者同士タイ語で深く話し合いました。さらに、参加者による実践報告の時間も設けました。研修生からは、「生徒たちにもっと日本語を話させるには、どうすればよいか考え直すことができた」「自分の授業に活かせる」といった声が聞かれ、教授法について学び、どう実践に結び付けるかを考えるよい機会となったようでした。それに加え、こうした研修の場は、同じ地域のさまざまな世代の日本語教師が集まるため、ネットワークの構築や強化にもつながります。古い仲間と会える喜び、新しい仲間ができる喜びを味わうことができます。学校で日本語教師は一人だけという人も少なくありません。そうした教師にとっては、研修の場での情報交換、意見交換はとても貴重なものです。若手教師にとっては、先輩教師から経験やアイデアを聞いてアドバイスを受けることのできる貴重な機会でもあります。先輩教師は自分の経験を伝えることで、教師としての自信をつけ、若手教師のがんばりを見て、改めてがんばる気持ちがわいたようです。

2014年度からは、タイ各地の高校へ、日本語授業のアシスタントや日本文化紹介を行う「日本語パートナーズ(以下、NP)」が国際交流基金から派遣されています。NPの授業や生活をサポートしてくれるのもタイ人教師たちです。タイ人の先生方が日本語の授業にやりがいを持ち、楽しく取り組めるよう、これからも支援を続けていきたいと思います。

熱心に講義を聴く様子の画像
熱心に講義を聴く様子

模擬授業の様子の画像
模擬授業の様子

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 バンコク日本文化センター
The Japan Foundation, Bangkok
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
タイ国全土の日本語教師・学習者支援のためのさまざまな事業を行っている。教師支援では、中等教育の教師養成・現職教師対象の各種研修、大学教師向けのセミナー開催、学習者支援では、日本語キャンプの開催やJFスタンダード講座を始めとする一般講座を開講している。
所在地 10th Fl. Serm-Mit Tower, 10F, 159 Sukhumvit 21Rd., Bangkok 10110 Thailand
Tel:66(2)260-8560~64 Fax:66(2)260-8565
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:1名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1994年

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